中小企業診断士を活かして働く歯科衛生士 和田有希子さん「同じ方向を目指すための架け橋となる存在」

歯科衛生士免許を取得している方の中には、経営のプロとして「歯科医院を支える」という道を選んだ方がいます。

今回お話を伺ったのは、歯科衛生士と中小企業診断士のダブルライセンスを持つ異色のコンサルタント、マネジデント コンサルティング代表の和田有希子さん。

歯科衛生士の立場と経営のプロの立場から、歯科医院の抱える多くの問題に向き合う彼女の理念をお聞きしました。

マネジデント コンサルティング(MDC)代表 和田有希子さん
マネジデント コンサルティング(MDC)代表 和田有希子さん
鶴見大学 短期大学部歯科衛生科 卒業
マネジデント コンサルティング(MDC) 代表
中小企業診断士
日本歯周病学会認定歯科衛生士

コンサルタントになろうと思ったきっかけ

以前勤めていた医院の理事長は、目標売上などを明確にし、スタッフにもしっかりと共有してくださる先生でした。

在庫や棚卸しの管理を任されたり、Webサイト作成の勉強会などにも参加させていただけたりと、私たちも経営について自然と意識するような環境だったと思います。

もちろん臨床でもしっかり結果を出せるようにと、日本歯周病学会の認定資格を取得しました。

歯科衛生士学校を卒業してからずっと目標にして勉強していたので、認定取得を通じてさまざまな先生方にご指導いただき、本当に勉強になりました。目指してよかったと心から思っています。

その一方で、認定を取得した際に、経済的な視点では、医院に貢献できていないと強く感じました。

認定資格を取っても保険点数が上がるわけではなく、キャリアが上がるにつれて定期昇給があっても、 決まられた診療時間の中では、売上の貢献度に限界があると感じ、ずっとモヤモヤしていました。

そして、プラスアルファの付加価値をどのように具体化できるかを考えたときに、 経営の勉強をしようと考えたのがきっかけです。

診療などで忙しい院長先生に代わって、歯科衛生士のキャリアを活かしつつ、経営の分野でもお役に立ちたいと考え、中小企業診断士の資格を取ることにしました。

中小企業診断士の資格を選んだ理由

経営を学ぶ方法は色々ありましたが、経営を体系的に学びたかったので、資格の取得を目指そうと考えました。

最初はMBAの取得を考えていたのですが、調べてみるとMBAは大企業向けのコンサルティングで。歯科医院は小規模の事業所が多いので、現状にあった経営の国家資格である中小企業診断士の資格を取ることを決めました。

日中は歯科衛生士として働きながら、夜間は予備校やビジネススクールに通い、自習も含めて年間1,000〜1,500時間くらいを3年間勉強して、やっと資格を取得できました。

ただ、資格を取った時はコンサルタントになろうとは考えていなくて、医院で活かせれば良いなと思っていたんです。

しかしありがたいことに、院外の先生方から「休みの日でいいので僕の医院にもきてもらえないか」と声をかけていただいて。徐々に口コミによるご依頼が増え、休日だけでは手が回らなくなってきたので独立することにしました。

経営についてのお手伝いをする中で、私の場合、歯科衛生士として15年のキャリアがあることがいちばんの強みです。

私自身、歯科衛生士として、治療の質や患者さんの満足度を下げることなく、改善していくことが重要だと思っています。

そのため、コンサルタントとしてただ実行することだけを助言するのではなく、歯科衛生士や歯科助手が苦手な部分について具体的なトレーニングを行うこともあります。

現場で詳細な指導ができることは、院長先生だけでなくスタッフ側からもご評価いただいています。

経営のアドバイスだけでなく、口腔内写真の撮り方を指導することも
経営のアドバイスだけでなく、口腔内写真の撮り方を指導することも

歯科医院がかかえる問題の現状

やはり、人に関する問題が多いです。深刻な人材不足だったり、 院長先生とスタッフの方々の思いや方向性が異なり、管理などを含めた運営が上手くいっていない医院さんが多いと感じます。

院長先生がスタッフのためにと思って行っていることが、スタッフ側にうまく伝わっていなかったり。あるいはその逆もあって、スタッフの勤務態度に問題がある、不正行為なども、仕組みの問題で起きてしまっていることが多いです。

福利厚生や規則が明確に決まっていない医院さんはまだまだ多く、たとえば有給の取りにくさなどは、不満に感じている従業員も少なくありません。産休や育休についても、どうしたら良いかお困りの医院さんが多い印象です。

この業界は女性スタッフに支えられていると思うので、お子さんを持つスタッフの皆さんが働きやすい環境をつくりたいと思います。

有給や産休を申し訳ない気持ちで取るのではなくて、計画的に取れるよう環境を整えてあげることでお互いのストレスも軽減できますし、スタッフの長期定着率にも大きく影響すると感じています。

このような経営者側、スタッフ側の、双方の悩みや不安などは、実は互いにコミュニケーションをとることで解決できることが多くあります。

顧問契約中の医院さんでは、できるだけ毎回スタッフの皆さんと個人面談を実施させていただいています。

スタッフの努力が先生の目に届いていないこともあるので、面談を通して「このような努力をしていましたよ」などと伝えるようにしています。

人間関係も含め、現場での困りごとを解決し、院長先生とスタッフのどちらもが働きやすい環境づくりができるよう、双方の架け橋のような役割も担っています。

そして医院としての目指すものが明確になり、スタッフ全員の共通理解ができたときに、良い方向に成長していくのだと感じます。

仕事のやりがい

今の仕事は非常にやりがいがあり、とても楽しく仕事をしています。

それはおそらく、従業員として働いていた頃に解消する場がなかった“モヤモヤ感”を解決できていることにあると思います。

当時、同様のモヤモヤを抱えている歯科医療者は多くいるのではないかと思い、そこにビジネスチャンスがあるのではないかと感じていました。

これまでも、スタッフが続かなくて困っているという医院さんにご依頼いただき、現場で話を伺うと、新卒の歯科衛生士さんがみんなで退職しようかと悩んでいる真っ只中だった、ということもありました。

依頼主の先生は、まさかそこまでのことになっているとは思っていなくて、とても驚かれていたのが印象に残っています。

その時は一人ひとりに話を聞いて、悩みや不満を解決するべく小さなことでも一個一個芽を摘んでいきました。その後技術面の研修や精神面のサポートを行ったことで退職を防ぎ、やる気を持って働く姿が見られた時は、依頼主の先生にもとても喜ばれました。

職場環境が改善されることで従業員が長く勤めて定着率が上がると、経営者側にもメリットがありますし、双方が活きいきと働くことに貢献できるのではないかと感じています。

私自身も歯科衛生士として、新卒から10 年ほどひとつの歯科医院で勤務していましたが、当時は視野が狭かったと思います。

外部からの風が入り、さまざまなノウハウや考え方を知ることで、そこで働く歯科医師・歯科衛生士の皆さんにとって新しいアイデアを提供できるのだと思います。

定期的に行っているスタッフとの個人面談
TBIの個人トレーニングを行う様子

これからの展望

歯科医院がコンサルティングを依頼しようと考えている時というのは、その多くが院内で何らかがうまくいっていない時です。

基本的にコンサルティングは高価なサービスであるため、 このサービスを利用できるのは資金力のある歯科医院が中心となります。

しかし、歯科医院の多くは小規模な事業所です。私が経営するマネジデント コンサルティングでは、価格帯を相場より安価に設定し、小規模の歯科医院こそが依頼しやすいようにしています。お陰さまでご紹介を多くいただき、沖縄から関東まで幅広く訪問させていただいています。

今後、事業として大きく発展させようとは考えていません。地味かもしれませんが、いま困っている歯科医院一軒一軒に寄り添い、医院と患者さん、そこで働くスタッフにとって良い方向に導いていきたいと思っています。

歯科衛生士のキャリアアップについてのヒント

今年に入って、臨床経験の長い歯科衛生士さんから、コンサルタントの場に同行させてほしいとの依頼が何件かありました。

ある程度経験をお持ちの歯科衛生士さんたちの中には、キャリアアップに悩んでいる方が多くいるのではないかと感じます。

歯科衛生士の仕事は、頑張った努力がなかなか給料に反映されないということもあります。やはり自分が困っているということは、他にも同じように悩んでいる方がいるはずです。

そのため、その課題を解消できるようなスキルを身につけることによって、何かチャンスを得られることがあるのではないかと思います。

臨床のスキルアップももちろんですが、歯科とは異なる資格や能力を組み合わせることにより特殊性が出て、個人の強みも出てくるのではないかと思います。

枠組みにとらわれない新たなチャレンジは、その歯科衛生士自身、ひいては歯科業界全体の成長につながるのではないでしょうか。

今後、歯科衛生士の社会的地位がもっと向上するといいな、と願っています。