歯科衛生士は社会的価値の高い大切な職業であり、その仕事の幅はますます拡がっています。
dStyleでは、歯科衛生士として全国各地で活躍している方に、これまでのキャリアや仕事にかける想いを語っていただきました。
このインタビューが、歯科業界で輝くヒントになれば嬉しいです。
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今回は、歯科衛生士歴40年目の安生朝子さんにお話を伺いました。
1982年に栃木県立衛生福祉大学校歯科技術学部歯科衛生士学科を卒業した安生さん。現在は36年勤める歯科医院で臨床を行うかたわら、全国各地でセミナーや講演活動を行い、歯科衛生士の人材育成に力を入れています。
卒後4年で立ち上げたスタディグループ「DHパトスの会」は、現在も全国各地から参加者が集い、歯科医療従事者の情報共有や研鑽の場となっています。
歯科衛生士を目指したきっかけ
高校は進学校だったので、同級生は大学や短大への進学を目指す人が比較的多かったんです。
周りの進路がどんどん決まっていく中で、私は進学する目的を考えたんですね。「みんなと一緒に短大行ってどうするの?」「地元を離れたいために大学いくの?」と考えた時に、進学はその先の仕事に繋がっていないと意味がないのではと思ったのです。
将来のことをいうと、父親が職業人だったこともあり、手に職をつけたいと思っていたんですよね。そのためには資格、それも医療系の国家資格がいいなと、高校3年生の後半には考えていました。
はじめは看護師を考えていたのですが、夜勤があるし、土日も休みがなさそうだし…と悩んでいました。そんな時に、かかりつけの歯科医院で求人ポスターを見かけて、そこではじめて歯科衛生士という職種を知ったんです。
そこの院長先生に「歯科衛生士ってどんな仕事ですか」と尋ねたら、その先生は院内の女性スタッフを集めてくださって。「この子が歯科助手で、この子が歯科衛生士。できることが違うんだよ。歯科衛生士は、今後もっと注目される仕事だと思う。これからもっともっと輝けるよ。」と、今から44年も前に教えてくれたんですよね。
それだけのことで、歯科衛生士になることを決めました。
「DHパトスの会」の発足
卒後入職した歯科医院で、その時初めて手にしたクインテッセンスの『歯科衛生士』を読んで…当時はB5サイズで、オレンジ色の表紙でしたね。印象材やラバーダムやセメント練和など、診療補助に関する内容が多かったです。
しかし、中には「これ、わかってないな。勉強しなきゃ」とか「これ知らない。(セミナーに)行ってみよう」という内容が載っていて、結局、「卒業してもまだまだ勉強しないと」と痛感したんです。
ただ、当時は宇都宮から東京に出るだけでも今以上に時間や費用がかかったので、それなら宇都宮で勉強会を作って講師の先生をお招きしよう!と考えました。それに、みんなが集まって勉強すれば、わからないことも解決できるかもしれないと思って、「DHパトスの会」を発足しました。
そんな単純な動機でしたが、すごく集まりましたね。勉強会は月に1回ですが、歯科医師も含めて毎回30人くらいが集まりました。
年に2回は著名な先生をお招きして、勉強会を重ねていくうちにモチベーションが上がってきて。今度は外で講演してみよう、ポスター発表をしてみよう、と活動の幅を広げていったんですね。
はじめは栃木県内の歯科衛生士や歯科医師、歯科技工士の集まりだったのが、今では東京や埼玉はもちろん、大阪や京都などから参加する人もいます。医院単位で参加してくれるところもあります。
また、DHパトスの会では、臨床だけでなく料理やフラワーアレンジメント、中国茶の飲み方講座なども開催しました。
自分自身が癒しのある生活がしたいと思ったことと、受講するみなさんにも、歯科衛生士である前に人間として、女性として、豊かな人になってほしいと思ったんです。
歯科医院には老若男女さまざまな人が来院するので、いろいろなピースを持っていてほしい。患者さんとの話の中で「知らない」「なにそれ」「食べたことない」ばかりでは、ちょっと悲しいですよね。
そういうジャンルはあまり歯科でやっているところないので、ややもすると普通の勉強会の時よりも集まることもあったり(笑)。
株式会社ジョルノ立ち上げの経緯
勉強会をはじめて活動の幅が増えると、講演会にお招きいただくことが多くなってきました。
メーカーさんや歯科医師会、市町村のイベント…平日は臨床に出ていますから、そうすると休みが取れないんですよね。また、実習など講師一人ではできないセミナーもあるので、それなら起業して、事業としてオファーを受けようと思ったんです。
現在は臨床経験豊富な歯科衛生士が7人在籍しており、「ジョルノガールズ」として活躍しています。
「DHパトスの会」がやんわりとした勉強会であるならば、ジョルノは知識や経験とスキルを身につけられる場所。在籍する歯科衛生士の中から、私の仕事をサポートするだけでなく、私を踏み台にしてさらに育ってくれる人が出てきたなら、歯科衛生士全体の底上げにも貢献できるかなと思うのです。
要は、歯科衛生士に経済力を身につけてほしいんですよね。自分の仕事が歯科医院のためになっていると自覚し、医院から正しい報酬いただき、そしていただいた報酬でまた勉強してほしいんです。
−−−経済力を身につける上で歯科衛生士に足りないものとは?
ずばり、「自己投資」です。
雑誌を読んだり、学会に出たりするのは普通のことです。たとえばそこから勉強の仕方や資料の集め方、文献の読み方などを学ぶことが大切で。我々の年齢になると、発表している姿を見れば、自己投資している人かどうかは分かるんですよね。
お金をかけて学会に行くことだけが勉強ではなくて、臨床の場で歯科医師や患者さん、スタッフから学ぶことも自己投資の一つ。毎日が勉強の場なんですよ。
これまでの人生経験の中で、出会ってよかったと思う人
いままで出会ってきた歯科医師です。
卒後に勤務した歯科医院の院長、36年勤めている現在の職場の院長、副院長。共通して言えるのは、みなさん歯科衛生士の存在を大切にしてくれる方でした。私は、歯科医師に恵まれてきたなと思います。
歯科衛生士のもつ悩みの多くは、メインテナンスに関わること。歯科医師とうまくいっていないという歯科衛生士の中には、認められるだけの成果を出せていない、歯科医師の苦労を解ろうとしていないというパターンも多いです。
しかし難しいのが、メインテナンスは正しい歯科治療の延長線上にあるということ。
そのため、正しい治療をする歯科医師のもとで働くことは、歯科衛生士が成果を上げるために必要不可欠な条件です。これは私の勤務先に限らず、学会などでお会いした全国各地の歯科医師を見てもそう感じています。
今後の歯科衛生士に求められること
「知っていること」と「分かっていること」は違うんですよね。
いまは知りたいことが瞬時に分かる時代ですが、調べただけで分かった気になっていると、実際の臨床現場とか自分の人生では役に立たないです。
調べて知ったその知識に、自分の色や経験、考え、ニュースなどを付け加えていくんです。そんなふくよかな言葉にこそ説得力があり、その言葉が人を動かすのです。患者さんやスタッフ、自分のことさえも。
改めて今大切なのは、「きちんとした言葉で話すこと」、「相手を思って聴き取ること」、「謙虚に伝えること」、そしてそれを「重ねていくこと」。
重ねていくことで、雰囲気のある人間になっていくような気がします。
私には日本を代表する歯科衛生士の仲間がたくさんいますが、みんな同じように経験を重ねて、苦労して、涙して、ここまで積み上げてきています。ときどきお酒を飲みながら話しますけど、やっぱりみんな「イイ女」ですよ。
それに、イイ女は仕事だけでなく家庭を大切にしている方が多いです。女のさしすせそ(裁縫、しつけ、炊事、洗濯、掃除)をきちんとこなしているんですね。私自身も料理が大好きで、夫との時間を大切にするためにも、出張がない夜は自分でご飯を作っています。
いま挑戦していること
もう、後輩育成ですね。
離職率を下げたいと思っていますので、歯科衛生士の仕事が良いのだということを、多くの場で発信していきたい、また発信できる歯科衛生士を育てて助けていきたいです。
それともう一つ、歯科衛生士もビジョンをもって仕事をしてほしいと思っています。
来年、3年後、5年後、10年後。卒業したら、出産したら、介護が終わったら…立てた計画通りじゃなくていい。
「ブランク」なんて存在しないんですよ。育児も介護もすべて経験。経験した人にしか、本当の共感はできないんです。
近年は、“口から食べる支えをしたい”、“オーラルフレイル予防が大切”とよく言いますが、身近にそういう人がいたら、いやでも痛感すると思いますよ。私は父が、口から食べられずに亡くなりましたから。
経験は財産。たくさんの経験を重ねて、「イイ女」になってほしいです。
全国の歯科衛生士へメッセージを!
日本の各地で働く歯科衛生士の皆さん、元気ですか?
泣く日もあるし、笑う日もあるし。午前と午後で気分が違ったり…実は私もおんなじ。
明日はかならずくる。そして、あなたに会いにくる患者さんはたくさんいる。「君がいてくれなきゃ困るよ」と言ってくれる歯科医師もたくさんいる。
そんな人のために、自分を可愛がってください。自分を責めたりすることなく、自分をどうぞ可愛がってください。
あなたはあなたで、大切な誰かの「あなた」なんですから。輝いてください!
そして最後に、自院のスタッフへ。
一緒に働くあなたたちは、私のダイヤモンド。人のために、自分のために輝いてほしいです。皆さん、いつもありがとう。
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