日本歯周病学会は3月30日、『歯周治療のガイドライン2022』を発表しました。
このガイドラインは、2015年に発刊された『歯周治療の指針2015』の改訂版として、日本における歯周病の実態や分類、全身性疾患への配慮、検査、診断、治療計画、口腔バイオフィルム感染症、インプラント周囲疾患の治療、さらに継続管理までを視野に入れて作成されました。
また、高齢者や有病者、周術期患者、障害者へ歯周治療を提供する際の、医科歯科連携を行う上で考慮すべき事項にも焦点をあてています。
今回は、歯科衛生士のバイブルといっても過言ではない、この新しいガイドラインについて詳しく解説します♪
新ガイドラインの目次
今回のガイドラインは大きく分けて、以下の16個の目次から成り立っています。
- 歯周病とは
- 歯周治療の進め方
- 医療面接、患者の紹介と医療連携
- 歯周病検査、診断、治療計画立案
- 在宅医療、周術期患者、障害者と歯周治療および口腔バイオフィルム感染症
- 応急処置
- 予防処置
- 歯周基本治療
- 歯周病のリスクファクターと治療上のリスク管理
- 歯周外科治療
- 根分岐部病変の治療
- 歯周-歯肉病変の治療
- 口腔機能回復治療-固定・ブリッジ・義歯・インプラントの選択
- インプラント治療
- インプラント周囲疾患の治療
- 継続管理
前回のガイドラインと変わった目次は ⑤ ⑮ ⑯ の項目で、⑤ については「障害者」と「口腔バイオフィルム感染症」という文言が追加され、⑮ については「インプラント周囲炎」から「インプラント周囲疾患」へと変更されました。
また、⑯ については「サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)とメインテナンス」から「継続管理」という文言に変更されました。
『歯周治療の指針2015』との違いは?
前回のガイドラインと大きく違うポイントは、全部で7つ!それぞれの内容について詳しく紐解いていきます♪
1.歯周病の新分類についての記載が追加
2.歯周病検査にPESAとPISA、口腔細菌定量検査が追加
3.障害者と口腔バイオフィルム感染症への対応が追加
4.歯周基本治療の項目から「音波スケーラー」「歯周ポケット掻爬」の記載が削除、「禁煙支援」が追加
5.歯周外科治療にFGF-2製剤を応用した手術法が追加
6.インプラント周囲粘膜炎への対応についての記載が追加
7.継続管理の項目に歯周病重症化予防処置(P重防)が追加
1.歯周病の新分類についての記載が追加
2018年に、アメリカ歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病連盟(EFP)が公表し、2019年に日本歯周病学会も対応すると発表した「歯周病の新分類」。
今回のガイドラインでは、この新分類について詳しく記載されています。
認定資格の申請書類を作成する上でも、記載が必要な分類であるため、知識があやふやな方は新ガイドラインで徹底的に学びましょう!
2.歯周病検査にPESAとPISA、口腔細菌定量検査が追加
歯周ポケットの臨床的アタッチメントレベル(CAL)と歯肉退縮量、プロービング時の出血の値(BOP)を計算用フォーマットに記入することで計算できる、歯周ポケット上皮の面積(Periodontal Epithelial Surface Area=PESA)と、炎症部の面積(Periodontal Inflamed Surface Area=PISA)。
計算用フォーマットはこちら(Excelデータがダウンロードされます)
PESAとPISAは、定量的に評価することで、歯周病の重症度だけでなく炎症創の広がりを数値で示すことができます。
歯周病と全身性疾患の関連を調べる際の指標として有用であることが示されているため、今回のガイドラインにも掲載されたようです。
また、2022年度の診療報酬改定で新設された「口腔細菌定量検査」についても、歯周病検査の項目に盛り込まれることとなりました。
3.障害者と口腔バイオフィルム感染症への対応が追加
前回のガイドラインに記載があった、在宅医療と周術期患者への歯周治療における対応に加え、障害者への対応も追加されました。
それに加え、口腔細菌定量検査の結果や舌苔の付着度から評価する「口腔バイオフィルム感染症」についての記載も新たに加わりました。
評価/評価基準 | 舌苔の付着度(%) | 口腔細菌数(CFU/mL) | 歯肉の炎症状態 | リスク |
---|---|---|---|---|
口腔バイオフィルム感染症 | 50%以上 | 108以上 | +++ | 危険域 |
不良歯冠部 | 40%以上 | 107以上 | ++ | 注意域 |
安定 | 40%未満 | 107未満 | ++ | 正常域 |
4.歯周基本治療の項目から「音波スケーラー」「歯周ポケット掻爬」の記載が削除、「禁煙支援」が追加
時代の流れに沿ってか、これまで歯周基本治療の項目に記載されていた「音波スケーラー」の器具名は、今回から削除。
加えて「歯周ポケット掻爬」については、2022年度の診療報酬改定によって廃止された背景を受け、今回のガイドラインから削除されました。
喫煙については、これまでも歯周病のリスクファクターとして、喫煙者には禁煙指導を行う旨が記載されていましたが、今回からは歯周基本治療の項目として新たに「禁煙支援」が追加されました。
通常のたばこだけなく、加熱式たばこについても注意喚起が必要である旨が記載されています。
(参照:歯科9学会の共同声明 加熱式タバコに関する注意喚起-WHITE CROSS)
歯周基本治療については、同学会が公開している『歯周基本治療 -進め方とポイント-』もあわせて読むことで、理解がさらに深まります。こちらもぜひご覧ください!
5.歯周外科治療にFGF-2製剤を応用した手術法が追加
歯周組織再生療法の治療法としては、今回新たに「FGF-2製剤を応用した手術法」が追加されました。
これは、2016年9月から保険治療として算定可能になった『リグロス®︎』を用いた再生療法が広く普及したことによるものです。
作用機序や特徴について、しっかりと把握しておきましょう!
6.インプラント周囲粘膜炎への対応についての記載が追加
前回まで「インプラント周囲炎」のみを取り上げていた項目では、今回から「インプラント周囲粘膜炎」についても言及。「インプラント周囲疾患」として、インプラント周囲粘膜炎と周囲炎について解説する項目となっています。
また、それぞれの疾患への治療法として、「非外科的療法」と「外科的療法」について詳しく記載されるようになりました。
7.継続管理の項目に歯周病重症化予防処置(P重防)が追加
サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)とメインテナンスの項目では、2020年度の診療報酬改定で新設された「歯周病重症化予防処置(P重防)」についての記載が追加されました。
(参照:2020年4月から算定可能!診療報酬改定で新設された「歯周病重症化予防治療」とは?)
「メインテナンス」「歯周病重症化予防処置(P重防)」「サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)」を「継続管理」という項目に集約し、それぞれの用語の定義や治療の流れが紹介されています。
日本歯周病学会のPR活動がスゴい!
他にも日本歯周病学会は4月18日、歯周病治療について啓蒙するWebアニメ「にゃんかむちゅ~」を公開。
ある日ネコの「にゃんちゃん」が、ネズミを食べようと大きなお口を開けると、ネズミに歯周病じゃない?と指摘されてしまう。
かまわず食べようとするけれど、生き残るために歯周病の恐ろしさを並べたて、ネコを脅すネズミ。
歯周病の恐ろしさに震えていたら、「せっかくかわいい顔してるのに、歯周病になったら…」などと、さりげなく誉めてくるネズミに、ちょっと胸キュン。結局言いくるめられ、ネズミに逃げられてしまったネコは、あいつ…絶対見返してやる…と復讐を誓いつつも、淡〜い恋心が生まれていた。
恋のような友情のような…ネコとネズミのハートフルストーリーを楽しみながら、口腔ケアに役立つ知識を覚えて歯周病を防ごう!
(「歯周病を知っていますか?」HPより抜粋)
なんとも可愛い「にゃんちゃん」と「ネズミ」のやりとりを見ているだけで歯周病についての理解が深まる、歯科業界イチオシのYouTube動画!現在全6話が公開されています。
また、登場人物の声を一人で三役すべてこなすのは、アニメ『鬼滅の刃』で竈門炭治郎役を務める花江夏樹さん。
患者さんに紹介するも良し!待合室で流すも良し!子ども受け間違いなし!の、魅力がたっぷり詰まった動画です。
新ガイドラインはもちろんですが、こちらもぜひチェックしてみてくださいね♪
にゃんかむちゅ〜YouTube公式チャンネルはこちら
参考文献:特定非営利活動法人日本歯周病学会編集(2022)『歯周治療のガイドライン2022』医歯薬出版
特定非営利活動法人日本歯周病学会編集(2015)『歯周治療の指針2015』医歯薬出版