チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩 第3回 口腔内症状と栄養素の関連性

みなさんこんにちは!歯科衛生士の山本典子です。

前回は、口腔内の診るべきポイントや栄養指導のタイミングについてお話しました。

今回は、口腔内の症状と栄養素の関係について、具体的な例を挙げながら解説します。

歯肉出血は栄養不足が影響している?

まずは、歯肉からの「出血」について考えてみましょう。

歯肉から出血するというと、まず思い浮かぶのが「歯周病」だと思います。歯周病では口腔内の細菌によって歯肉が炎症を起こしますが、炎症箇所は刺激に弱いため容易に出血します。

しかし患者さんの中には、プラークコントロールは良いのに歯肉が発赤している人や、探針で触れただけで出血してしまう人もいます。

そんな患者さんには、ぜひ胃腸の調子や普段の食事内容を聞いてみてください。

栄養素の側面からみた歯肉出血は、主にタンパク質・ビタミンC不足の影響が考えられます。歯肉も血管もタンパク質からできていて、タンパク質の合成にはビタミンCが不可欠だからです。

胃腸の調子の確認が必要な理由は、食事をしっかり食べていても、タンパク質やビタミンCの消化吸収が上手くいっていない可能性があるためです。

人間の体はタンパク質からできています。もちろん胃や腸そのものもタンパク質からできており、消化酵素もタンパク質からできています。ですからタンパク質が足りないと、消化酵素が作られる量も減ってしまいます。

特に「お肉や魚が苦手」という人は、消化酵素が足りないことから、食べると胃もたれを起こすために本能的に避けている場合があります。

消化不良

他にも、豆腐や大豆などの植物性タンパク質の方が体に良いと考えて、動物性タンパク質を摂っていない方もいると思います。

しかし、実際には動物性たんぱく質が必須アミノ酸を9種類すべて含んでいるのに対し、植物性タンパク質では一部不足しているものがあり、体への吸収量も動物性に比べると劣ります。

もちろん植物性タンパク質も大切なのですが、お豆腐などばかりをたくさん食べていても、タンパク質量が足りていないケースが考えられます。

その場合、まず消化を促すために胃酸の補助が必要です。食事前にレモン水を飲んでもらったり、酢の物を食べてもらったりすると良いでしょう。

タンパク質不足を補うために、「BCAA」や「EAA」などのアミノ酸のサプリメントを少し飲むことからはじめるのも良いと思います。

タンパク質

歯周病患者はより多くのビタミンCが必要

ビタミンCは、タンパク質の合成に必要なだけでなく、脳や副腎など、体内での需要がとても多い栄養素です。

みなさんの中でも、喫煙者にビタミンCが不足しがちになることを知っている人も多いでしょう。他にもストレスや風邪などを引くと体内での需要が増えます。

そして歯周病は、歯周病菌の炎症刺激によって過剰に分泌される好中球の活性酸素が歯周組織にあたえる酸化ストレスにより、組織破壊が生じると考えられています。
(参考:花田信弘(2013)「歯を守る栄養学と全身も健康」,『ヘルスサイエンス・ヘルスケア』,深井保健科学研究所.

この活性酸素を除去してくれる抗酸化物質の一つとして有名なのがビタミンCです。そのため、指導の際には患者さんが思っている以上に体内で必要であることを説明します。

ビタミンCは水溶性ビタミンなので、過剰症の心配が少ないですから、サプリメントで摂取してもらうことをすすめても良いでしょう。

ビタミンC

チョコレートの過剰摂取は味覚障害への第一歩

次に「味覚障害」を考えてみましょう。味覚障害の原因は、唾液分泌低下やカンジダ症、舌乳頭の萎縮・消失などさまざまな原因があります。

味覚障害=亜鉛不足と認知されていますが、この亜鉛不足を引き起こす一つの原因が「銅の過剰摂取」です。体内で銅が多くなると、亜鉛の吸収が悪くなります。

銅なんて何の食べものに入っているの?と思うかもしれませんが、代表的なものが「チョコレート」です。みなさんの周りにもチョコレートを毎日のように食べている人はいませんか?

チョコレート

銅はヘモグロビンの合成に必要で貧血予防に必須の栄養素ですが、亜鉛とのバランスが重要です。舌にある味蕾細胞は、約10日間という短期間で新陳代謝が行われていますが、亜鉛が不足するとこの代謝が上手くいかず、味覚障害が起こるといわれています。

亜鉛は、補酵素として300以上の体の代謝に関与しているため、これも体内での需要が大きな栄養素の一つです。

患者さんからの聞き取りでは、亜鉛を多く含むものを食べているかだけではなく、チョコレートなどの銅を多く含むものをたくさん食べていないかもチェックしてみましょう

みなさんは、爪に白い斑点が出てきたことはありませんか?学生の頃など、「幸運がおとずれる前触れ」などと占い雑誌に載っていることもありましたが、残念ながらこれは亜鉛不足の現れですよ!

指導するときに気をつけたいポイント

今回、二つの症状に対して解説しましたが、患者さんへ指導するときに気をつけていただきたいことがあります。

それは、医師法や薬機法に抵触しないようにしなければならないということです。

私たちは歯科衛生士ですから、「問診」や「診断」はできません。「○○の病気にはこれが効きます!」ということも言うこともできません。

もし、「この病気なら△△のサプリメントで治りますよ」と言ってしまうと、その時点で△△が医薬品であることになってしまい、薬機法に触れてしまいます。サプリメントはあくまで食品ですから、伝え方に注意が必要です。

また、重大な病気が隠れている可能性もありますから、気になる所見がある場合は、かならず歯科医師に相談して判断を仰いだ上で、患者さんへ説明や指導を行うようにしましょう。

チェアサイド

次回は、もそもサプリメントは効くのか?をテーマに解説します。

チェアサイドの栄養指導 はじめの一歩

第1回 歯を守るための栄養指導
第2回 口腔内を診るときのポイント
第3回 口腔内症状と栄養素の関連性