患者さんのYesを引き出す!歯科医院で使えるロジカルシンキング講座 Lesson.1 課題やテーマを明確にしよう

みなさんは「ロジカルシンキング」や「論理的思考」という言葉を聞いたことがありますか?

近年、これらに関連するさまざまな書籍が販売されており、本屋さんのビジネス書コーナーや電車の広告などで見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。

ただどちらかというと「一般企業に勤めるビジネスパーソンがもつべき考え方」といったイメージで、歯科医療従事者である私たちにはあまり縁がないと感じている方もいるかもしれません。

しかしこの考え方は、円滑なコミュニケーションをとる上で非常に重要なポイントをいくつもおさえています!

この連載では、ロジカルシンキングブームを巻き起こした書籍『ロジカルシンキング〜論理的な思考と構成のスキル〜』の内容に沿って、歯科医院の現場でも使えるロジカルシンキングの知識や技術をご紹介していきたいと思います♪

歯科医院で使えるロジカルシンキング講座

人に何かを伝えるときに重要なこととは?

突然ですが、みなさんが考える「コミュニケーション」とは、一体何でしょうか?

私たちは毎日、家族や恋人、友達だけでなく、歯科医院の院長やスタッフ、患者さん、業者の方など、たくさんの人とコミュニケーションをとりますよね。

先ほど紹介した書籍『ロジカルシンキング〜論理的な思考と構成のスキル〜』においてコミュニケーションとは、「メッセージのキャッチボールをすること」と定義されています。

そしてその「メッセージ」を構成する要素は、以下の3つであると考えられています。

  1. 課題
  2. 相手に期待する反応
  3. 答え

上記の3つの要素を整理し相手に伝えることで、「メッセージ」として物事が正確に伝達されるといいます。

そのため、まずは相手とコミュニケーションをとる際の課題やテーマを明確にした上で、相手に期待する反応をわかりやすく伝え、課題に対する答えを述べるという一連の流れを身につける必要があります。

今回は、① の「課題」について詳しく解説していきます。

課題やテーマを明確にする

コミュニケーションをとる上で、まず初めに考えるべきことは、自分がこれから「相手に答えるべき課題は何か」「相手と話し合うテーマは何か」ということを明確にすることです。

歯科医院という現場では、患者さんがもつ「主訴」や、これからどんな治療をしていくか決める「治療方針」が、課題やテーマにあたるのではないかと思います。

たとえば、患者さんに歯周病や歯周治療の説明を一生懸命しても、なかなか良い反応が返ってこなかったり、うまく伝わらなかったと感じたりすることってありませんか?

患者さんへの説明

これは、患者さんがもつ「課題」と、私たちが考える「課題」が一致していないということが、原因の一つとして考えられます。

たとえば、ある患者さんが「むし歯が痛いので治してほしい」という主訴で来院したとします。

この場合、患者さんは「むし歯の痛みをなくすためにはどうするべきか」という課題をもっていることになりますよね。

しかし患者さんの口腔内を観察すると、プラークコントロールが非常に悪く、問診をすすめると、毎日清涼飲料水を飲んでいることもわかりました。

この時、私たち歯科医療従事者は「このままじゃ治療してもまたすぐにう蝕になる…」と考え、患者さんのもつ課題を「う蝕治療を繰り返さないためにはどうするべきか」という内容に切り替えてしまいがちです。

その結果、「まずはOHIしなきゃ!」と思い、患者さんのプラークコントロールや食生活を改善させることに熱を注いでしまう方が多いのではないかと思います。

しかし、これでは患者さんの「むし歯の痛みをなくすためにはどうするべきか」といった課題と一致していません。

課題が一致していない

患者さんとの課題が一致していないまま、私たちが「歯磨きの仕方を変えましょう!」「甘いものを摂る回数を減らしましょう!」ということをいくら丁寧に説明しても、Aさんからすると「自分の課題とは別のこと=他人ごと」と、とらえられてしまう可能性があります。

とはいえ、この患者さんのう蝕が、プラークコントロールの悪さや、糖類の過剰な摂取が原因で罹患していることは確かです。

こういった場合は、まず患者さんの「むし歯の痛みをなくすためにはどうするべきか」という課題の解決を最優先に行うため、う蝕治療を提供することをお伝えします。

その上で今回の課題が上がった理由、すなわち主訴の原因として考えられることを説明し、今後う蝕に罹患しないためには、プラークコントロールや食生活を改善する必要があるということを伝えます。

ここで、患者さんも「う蝕治療を繰り返さないためにはどうするべきか」という私たちと同じ課題をもつようになれば、OHIの内容も自分ごととしてとらえてくれるようになるはずです。

しかし中には、「別にまたむし歯になったら歯医者にくれば良い」と考える患者さんもいるでしょう。

そういった患者さんは、現在の課題さえ解決できれば良いと考えているのかもしれません。OHIなどにあまり時間をかけすぎず、最低限の情報を共有するくらいに留めておくのが良いかと思います。

「むし歯だけ治してくれれば良いのに…」と考える患者さんに、「ありがた迷惑」ととらえられてしまわないよう、まずは患者さんと私たちがもつ「課題」を一致させ、共有することが大切です。

もともと予防に興味がない患者さんであっても、歯科医院は「自分の課題をいつも解決してくれる場所」と認識されるようになれば、いつかは治療以外のことにも興味をもつタイミングが訪れるかもしれません。

それまでは、患者さんがもつ課題をできるだけ早く解決し、患者さんに寄り添う姿勢を示し続けましょう!

課題を一致させる

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普段仕事をする中で、何気なくとっているコミュニケーション。

しかし深掘りしてみると、改善できるポイントがたくさんあることに気づきます。

患者さんだけでなく、一緒に働くスタッフとのコミュニケーションにおいても、ぜひロジカルシンキングの知識を応用してみてください!

次回はメッセージを構成する要素の2つ目「相手に期待する反応」について解説します。

参考文献:照屋華子, 岡田恵子(2001)『ロジカルシンキング〜論理的な思考と構成のスキル〜』東洋経済新報社