論文を活用できる歯科衛生士になろう! No.5 プロバイオティクスについての論文を詳しく読み解く

みなさん、こんにちは。歯科衛生士の柏井伸子です。

ゴールデンウィークも終わり、再び日常生活が戻ってきましたね。

生活のリズムが平常モードに切り替わると、肉体的にも精神的にもしんどく感じる方もいるかもしれません。これは、休日が続くと、暴飲暴食や起床時間の遅延といった変化が起きやすく、元のリズムを取り戻すためには気力や体力が必要だからです。

腸内においても、同じようなことが起きます。

腸内細菌叢の中でビフィズス菌に影響を与える乳酸菌「善玉菌」と、有害菌ともいうべき嫌気性のウエルシュ菌とよばれる「悪玉菌」とのバランスが崩れてしまう時です。

元来、このウエルシュ菌は「芽胞」を形成し、食中毒の原因になる通性嫌気性菌です。さらにいうと、ウエルシュ菌は下痢の原因ともなる「エンテロトキシン」という毒素も産生します。

ウエルシュ菌は加齢とともに増える傾向がある細菌のため*1、高齢の患者さんには注意を促しましょう

他にも、「腸内フローラ」のバランスが崩れることで、肥満や精神疾患が誘発されることも報告されています*2

今回取り上げている論文『The effect of orally administered probiotic Lactobacillus reuteri containing tablets in peri-implant mucositis: a double-blind randomized controlled trial』では、ラクトバチルスロイテリ菌の有効性について検証されています。

前回は論文の概要から全体像を把握しました。今回は、いよいよ本文に踏み込んでいきます。

前回までの記事はこちら

No.1 英語論文に対するハードルを低くする方法
No.2 論文の概要をつかむ方法
No.3 論文抄読のまとめ
No.4 プロバイオティクス療法の効果を調べる

まずは論文の導入部分をチェック!

FAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機構)はプロバイオティクスについて、「食材やサプリメントに含まれ、摂取した際に腸内微生物のバランスを改善して健康をもたらす活きた微生物群」と定義しています。

プロバイオティクスは、口腔内全体においてもバイオフィルムを形成したり、う蝕や歯周病の原因菌に対抗したりする働きがあります。

そして口腔内でプロバイオティクスが適用されると、ストレプトコッカスミュータンスによるう蝕リスクを減少したり、歯周治療後の適用においては、歯肉炎や歯周炎を軽減したりします。

ラクトバシルスロイテリ菌を併用した歯周治療では、中等度または重度歯肉炎患者の口腔内において、以下のような効果をもたらすとされています。

  • 歯肉炎指数(GI)の改善
  • プラークの減少
  • P.gingivalisやP.intermediaの抑制
  • 炎症過程におけるサイトカインの高濃度化を抑制

また、クロルヘキシジンとプロバイオティクスをそれぞれ含有した洗口剤の比較においては、両者ともに状態の改善に効果があったものの、プロバイオティクス含有洗口剤の方がより効果的であり、口臭の治療にも有効という結果でした。

口臭治療

研究の材料と方法を理解する

今回の研究では、天然歯に効果的なラクトバシルスロイテリ菌を用いることで、全部歯列欠損症例のインプラント周囲粘膜炎が改善されるかどうかについて調べています。

被験者には、2008年から2010年にかけて大学病院の口腔外科またはインプラント科でメインテナンスを受けた34名が選ばれました。ただし、直近で歯周治療を受けた方や、有病者、喫煙者、非協力的な方は除外されています。

被験者は、以下の2つのグループに分けられました。

  1. インプラント周囲疾患の兆候がない健全なグループ
  2. プロービングデプスが4mm以上あり、骨吸収やBOP、排膿は認めるが動揺はないグループ

具体的には、34名の被験者がもつ合計77本のインプラントが研究対象となり、グループ ① においては健全な22名、54本のインプラント、グループ ② においては1本以上の周囲粘膜炎を有する12名、23本のインプラントが対象となりました。

研究には、ラクトバシルスロイテリ菌を含む「PerioBalance(GUM)」のタブレットとプラセボのタブレットを、それぞれ毎日1錠ずつ、30日以上使用しました。

そして両グループの、改良型プラークインデックス(mPI)とプロービングデプス(PD)、改良型歯肉炎指数(mGI)、浸出液の量、滲出液に含まれるインターロイキン濃度(IL)について比較しました。

ロイテリ菌はインプラント周囲粘膜炎にも有効!

プロバイオティクス処置後は、両グループの臨床的パラメーターに改善が認められ、炎症性サイトカインの減少も認められました

比較した項目の、mPI・PD・mGI・ILにおいては、プラセボに対して有意に減少したという結果がでました。

IL-1βのプロバイオティクス処置前後の変動(『Journal of Periodontal Research』を元にdStyle編集)
IL-1βのプロバイオティクス処置前後の変動(『Journal of Periodontal Research』を元にdStyle編集)
IL-6のプロバイオティクス処置前後の変動(『Journal of Periodontal Research』を元にdStyle編集)
IL-6のプロバイオティクス処置前後の変動(『Journal of Periodontal Research』を元にdStyle編集)
IL-8のプロバイオティクス処置前後の変動(『Journal of Periodontal Research』を元にdStyle編集)
IL-8のプロバイオティクス処置前後の変動(『Journal of Periodontal Research』を元にdStyle編集)

どんな考察がされているか確認しよう!

一般的に、インプラントと天然歯に対する各種ラクトバシルスロイテリ菌による研究を比較することはできないとされています。

しかし今回の研究では、インプラント周囲粘膜炎の有無に関わらず、臨床的パラメーターが改善されました。また、炎症性サイトカインのレベルも低下したことによって、ラクトバシルスロイテリ菌は、その改善や予防に期待できると考えられています。

一方で、この有効性を示すにはさらに多くのデータの蓄積が必要と考えられるということが最後にまとめられています。

***

現在乳酸菌は、多くの人々が健康維持に効果があると考え、食品やサプリメントという形で生活に取り入れています。

そして、乳酸菌には非常の多くの菌株が存在します。この株は、人間でいう「個人」のようなもので、それぞれに名前がつけられています*3

今回の論文で紹介された比較研究でも、さまざまな乳酸菌が使用されていました。

私は日頃から、スウェーデンで検証が進んでいるラクトバシルスロイテリ菌のプロデンティスとオスフォルティスを取り入れています。

プロデンティスは本研究と同様のタブレットで、口腔内で溶かして使用しますが、オスフォルティスはカプセルタイプのため、水で服用します。

タブレットタイプ(左)とカプセルタイプ(右)のラクトバシルスロイテリ菌
タブレットタイプ(左)とカプセルタイプ(右)のラクトバシルスロイテリ菌

オスフォルティスには、骨の再生促進が期待できるビタミンD3が添加されているため、骨粗鬆症の予防目的にも適していると考えます。

インプラント周囲疾患にはまだまだ未知な部分が多いですが、特に重要なことはプロフェッショナルケアとしてのバイオフォルムコントロールと、セルフケアによる口腔衛生管理の両立です

口腔内だけでなく、全身の健康維持を心がけることが、天然歯もインプラントも長期にわたって健全に機能することにつながると指導したいものです。

参考文献
*1 光岡知足著(1978)『腸内細菌の話』岩波新書
*2 杉山政則著(2015)『現代乳酸菌科学』共立出版
*3 鈴木智順監修(2020)『ずかん 細菌』技術評論社

論文を活用できる歯科衛生士になろう!

No.1 英語論文に対するハードルを低くする方法
No.2 論文の概要をつかむ方法
No.3 論文抄読のまとめ
No.4 プロバイオティクス療法の効果を調べる
No.5 プロバイオティクスについての論文を詳しく読み解く