Dr.内山茂に聞く!SPTにおけるパワーコントロール 第2回 TCHとトゥース・ウェアを理解する

私はこれまで、地域の「かかりつけ歯科医」として35年以上、患者さんの口腔の健康を守ることに努めてきました。

メインテナンスが「すべての患者さんに必要である」ということは周知の事実ですが、患者さんが口腔内に問題点を抱えたままメインテナンスに移行するケースも少なくありません。

そういった患者さんを歯科医院で継続して診ていくことを「SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)」とよびます。

SPTの目的は、歯周病の二大要因である炎症と力を継続してコントロールしながら「病状の安定」を図ることにあります。

前回は、咬合性外傷について解説しました。

前回の記事はこちら

第1回 咬合性外傷を理解する

今回は、歯列接触癖(TCH)とトゥース・ウェアについてお話しします。

力のコントロール

顎関節の痛みがある場合は、歯列接触癖を疑う

咬合に関係した顎関節症の原因の一つとして、歯列接触癖(TCH:Tooth Contacting Habit)が報告されています。*1

TCHとは、1日17.5分程度といわれている「咀嚼」「会話」「嚥下」といった歯が機能している時間以外にも、上下歯列を接触させる習癖のことです。

TCHがあると、強いかみしめなどを行わなくても、歯が接触しただけで咬筋や側頭筋の活動が高まるため、筋の疲労や顎関節の圧迫を引き起こします。

また、顎関節への血液供給が阻害されることで、痛みが過敏化したり、関節の運動がスムーズにいかなくなったりします。

顎関節症

木野先生は顎関節症の増悪因子としてTCHに注目し、「いわゆる顎関節症患者の50〜70%にこのTCHの傾向がみられた」と発表しました。*1

従来から顎関節症の病因は、もっと複雑でむずかしいものだと思われていたため、このデータは多くの臨床家を驚かせました。

このような視点で「顎の痛み」や「関節の痛み」を訴える患者さんを診てみると、確かに多くの心当たりがあることに気づきます。

TCHがある患者さんの口腔内で特徴的なのは、目立った咬耗などがないのに、頬粘膜に顕著な咬合線や舌の圧痕が認められることです。

また、患者さん自身は咬合接触の自覚がほとんどないので、問診では「いつもかみしめていませんか?」という問いかけではなく、「何気なく過ごしている時でも上下の歯が触れていませんか?」と尋ねた方がピンとくることが多いです。

中には、常に歯が接触しているのが当たり前と思っている人もいますが、それを頭ごなしに悪いと決めつけて指摘する必要はありません。

たとえば、患者さん自身に咬筋や側頭筋を押さえてもらい、その状態で臼歯を咬合させた時にどのような変化が起こるか実際に経験してもらいます。その変化、すなわち筋の緊張の持続が、顎関節症だけでなく肩こりや片頭痛などにも繋がることを具体的に説明するのです。

私は、こういったTCHの指導は一度きりで終わるものではなく、メインテナンスの度に繰り返し行うべきものだと思っています。

トゥース・ウェアの病態を理解する

SPTが定着し、残存歯の数が増えてくるにつれてクローズアップされるのが「トゥース・ウェア」です。

トゥース・ウェアは、その病態から以下の4つに分類されます。

  1. 酸蝕
  2. 咬耗
  3. 摩耗
  4. アブフラクション

上記のうち、咬合に関与するものは ② と ④ です。

アブフラクションの成り立ちは、以下のように述べられています。

側方または斜めの偏心性咬合圧(パラファンクション)により、歯が屈曲もしくはゆがむ結果、歯頸部に応力集中が起こり、歯の硬組織が構造的に破綻。その後、摩耗や酸蝕により特徴的な楔状欠損が生ずる。*2

つまりアブフラクションは、咬合性外傷と機械的または化学的な歯の破壊によって起こる複合病変なのです。

歯頸部欠損はアブフラクション以外にもさまざまな原因で生じますが、アブフラクションによる欠損は、歯ブラシによる摩耗性病変などと比べると、辺縁が鋭く角ばって見え、いわゆる典型的な楔状の欠損像を呈します

好発部位としては上顎の犬歯と小臼歯の唇側歯頸部が挙げられますが、下顎の犬歯や小臼歯、上顎の大臼歯口蓋側歯頸部に認められることもあります。

いずれも、過度な側方圧が関与していると考えて間違いありません。

過度な側方圧

筆者の経験では、アブフラクションや咬耗が発現するケースは、比較的骨レベルが良好な歯に多いように感じていますが、まれにそれが歯周病を誘因する因子となってしまい、歯の動揺や骨吸収に繋がる場合もあるので注意が必要です。

歯頸部欠損の治療は、欠損部を複合レジンで修復するとともに、咬合調整によって側方圧の軽減を図ります。しかし原因が除去されていない限り、充填物は再び脱離してしまいます。

全顎でギシギシとかんでいる患者さんの場合は、部分的な咬合調整が困難なため、「かみしめ」の治療方法に準じて行う必要があります。

次回は、咬耗や破折、知覚過敏について解説していきたいと思います。

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参考文献:
*1 木野孔司『顎関節症の増悪因子としての歯列接触癖』「日本歯科医師会雑誌」2008年2月号p6-13,日本歯科医師会
*2 Robert J.Cronin,Jr.,DDS,MS David R.Cagna,DMD,MS. 小林賢一訳(2003)『重篤な歯列のtooth wear』「歯界展望」2003年2月号, 医歯薬出版株式会社