Dr.内山茂に聞く!SPTにおけるパワーコントロール 第3回 咬耗と破折、Hysを理解する

私はこれまで、地域の「かかりつけ歯科医」として35年以上、患者さんの口腔の健康を守ることに努めてきました。

メインテナンスが「すべての患者さんに必要である」ということは周知の事実ですが、患者さんが口腔内に問題点を抱えたままメインテナンスに移行するケースも少なくありません。

そういった患者さんを歯科医院で継続して診ていくことを「SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)」とよびます。

SPTの目的は、歯周病の二大要因である炎症と力を継続してコントロールしながら「病状の安定」を図ることにあります。

前回は、TCHとトゥース・ウェアについて解説しました。

前回の記事はこちら

第1回 咬合性外傷を理解する
第2回 TCHとトゥース・ウェアを理解する

今回は、咬耗と破折、象牙質知覚過敏症状についてお話しします。

力のコントロール

咬耗と歯冠破折について考える

咬耗は、トゥース・ウェアの中でもっとも多い病態です。

咬耗自体、もともと程度の差はあれど加齢とともに誰にでも起こりうる病態ですが、注意すべきは「かみしめ」などによる強い持続力です。

これによって起こるもっとも多いトラブルは歯冠部の破折。定期的なメインテナンスの際に歯の破折線(クラック)などに気づいたら、すみやかに歯科医師に報告しましょう。

臼歯部の咬耗は、時として歯周組織の急激な破壊や支台歯の破折、補綴物の大きなトラブルにも直結するため、常に警戒が必要です。

また、咬耗の激しい患者さんは、日常的に硬い食べ物を好む傾向があります。

特に長いブリッジや前歯部補綴、無髄歯が多い方には、SPT時に食べ物の嗜好をうまく聴き出すことも大切です。極端に硬いものや歯ごたえのあるもの、前歯部で噛み切って食べるものには注意するよう、繰り返し説明しましょう。

歯根破折やセメント質剥離の徴候に気づいたら…

歯根破折

歯科衛生士が歯根破折を見つける機会は意外と多いものです。

SPTにおけるプロービング時や、細いエキスプローラーで根面のざらつきなどを調べている時、指先にわずかな段差などを感じたら、歯根破折の可能性があります。すぐに歯科医師に報告しましょう。

一見、歯周炎が急発したように見えるフィステルも、根尖付近より歯頸部寄りに現れた場合は歯根破折の兆候であることが多いです

パーシャルデンチャーの鉤歯や無髄歯、補綴歯、咬耗、ファセットが激しい歯には特に注意します。

歯根の縦破折は、横破折に比べ圧倒的な予後不良が報告されており、抜歯して次の処置に移るというのが通法となっています。

しかし、患者さんによっては抜歯を希望しないことも多いため、痛みや腫れなどの自覚症状が著しくない場合は、歯科衛生士による長期的なケアで対応します。

また、X線写真では歯根破折のように見えても、根管治療で改善するケースもあるため、診断は慎重に行う必要があります。破折部位によっては接着技法を駆使することで、歯を保存できる可能性も残されています。

歯根破折

セメント質剥離

歯根破折と並んで、外傷によって起こる歯根面の破壊の一つとして、「セメント質剥離」があります。

通常、剥離片はうろこ状を呈していて、SRPなどの際に発見されることも多いでしょう。

話題に上がることが少ないテーマですが、丸森先生らは多くの症例を検証した結果、「セメント質剥離は決してまれなものではなく、急速な歯周炎の進行時には鑑別診断の選択肢として常に頭に入れておかなければならない」と述べています。

また、咬合性外傷やクレンチングとの関連については、「一概に相関があるとの結果は出なかったが、咬合状態などによる力の要素は無視できない」とも述べています*1

セメント質剥離は、応力集中の起きやすい歯槽骨頂部付近から発生します。その後、急激なアタッチメントロスを経て、歯周組織の破壊に結びつくケースも多いため、歯根破折と同様にSPTにおいて大いに注意が必要です。

50代以降の患者さんで、無髄歯や補綴歯、かみしめなどのブラキシズムがある人には要注意です。

なお、セメント質剥離への対応としては、以下の2つの方法が推奨されています。

  1. 歯周ポケットと交通している場合:ルートプレーニングや歯周外科で剥離片を除去する
  2. 歯周ポケットと交通していない場合:感染しないよう注意深く観察する

象牙質知覚過敏症とブラキシズムへの対応

歯周治療中あるいは治療後などに生じる「象牙質知覚過敏症(Hys)」は、歯科医療従事者がよく遭遇する症状です。

その際は、すぐに対症療法に走るのではなく、なぜHysが生じたのか、その原因について考える習慣をつけましょう

まず思い浮かぶのは、粗い歯磨剤や硬い歯ブラシによる「オーバーブラッシング」ですが、実際の原因としてはそれほど多くないようです。

黒酢やリンゴ酢による健康法、炭酸飲料・乳製品などの過剰摂取による「酸蝕」でHysを招くこともありますが、これもまれなケースでしょう。

また、SPT時の「オーバーインスツルメンテーション」も理由の一つとして挙げられます。歯周デブライドメントなどで繰り返し根面を触る場合には、より繊細な器具操作を心がける必要があります。それに加え、処置後にはフッ化物などを利用してHysと根面う蝕を予防すると良いでしょう。

セルフケアで使える、Hysを予防する歯磨剤も有効です。

ちなみにこの対応は、歯周治療後の著しい歯肉退縮によってHysが起きた場合にも使えます

象牙質知覚過敏症の原因
象牙質知覚過敏症の原因

これ以外の原因でもっとも頻度が高いのが、「ブラキシズム」に伴って起きるHysです。

ブラキシズムは、上下の歯を無意識にこすり合わせるグラインディング、かみしめやくいしばりを意味するクレンチング、連続的にカチカチとかみ合わせるタッピングなどのことを指します。

これらの習癖は就寝中だけでなく覚醒中にも生じ、歯に強い持続圧が加わるため、歯周組織に咬合性外傷を引き起こしやすいとされています。

ブラキシズムに伴って起きるHysの特徴は、一歯のみではなく数歯にわたって起こることです。時には症状が全顎におよぶという場合もあります。

SPT時に患者さんが広範囲、もしくはあちこち不特定な部位のHysを訴えたら、まずブラキシズムを疑いましょう。

次回は、「かみしめ」について解説していきたいと思います。

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参考文献:
*1 丸森英史他(2001)「セメント質剥離の臨床像と考察」『歯界展望』Vol.97 No.6 2001-6 p1174-1177, 医師薬出版株式会社.