歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?
歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。
ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?
「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。
このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!
根管治療後の歯の寿命を調べた論文
今回解説するのはこちらの論文です。
アメリカの一般歯科医院における根管治療生存率解析
『Journal of Dental Research』
この論文は、アメリカの「歯科医院ベース研究ネットワーク(National Dental Practice-Based Research Network)」に所属する一般の歯科医院を対象に行われた、後ろ向き研究です。
「後ろ向き研究」とは、過去のデータを集めて研究する方法のことを指し、反対に、現在から未来に向かってデータを集めて研究する方法のことを「前向き研究」といいます。
歯科論文誌の中でも非常に信頼性が高いといわれている『Journal of Dental Research』に掲載されています。
どんな方法で調べている?
今回の研究では、「歯科医院ベース研究ネットワーク」に所属する99の一般の歯科医院で、2015年10月までに永久歯の根管治療を受けた患者さんの匿名化されたデータが用いられました。
これらのデータには、46,702人の患者さんと根管治療の経験をもつ71,283本の永久歯が含まれており、特定の歯に行われた最初の根管治療後の生存率を推定。生存期間の分析は「カプラン・マイヤー推定法」にて行われました。
根管治療後にクラウンを装着すると、歯の寿命は5年以上延びる!
今回の研究結果によると、根管治療後の歯の生存期間の中央値は11.1年であることが明らかになりました。
しかし、根管治療後すぐに充填を行いクラウンを装着した歯は、生存期間の中央値が20.1年に。一方で、クラウンのみの場合は11.4年、充填のみの場合は11.2年、補綴・充填処置をともに行わない場合は6.5年という結果になりました。
以上の結果から、根管治療後にクラウンを装着した場合、生存期間の中央値は5.3年長くなることが示されました。
ちなみに「中央値」とは、データを大きい順に並べた時の中央の値のことを指します。
そして歯の生存期間における有意な予測因子としては、歯の種類や歯科治療中に歯科保険に加入していたこと、住んでいる地域、根管治療後すぐに補綴物や修復物を装着したことが挙げられました。
また、今回の大規模研究はこれまでに行われた研究よりも、根管治療を受けた永久歯の寿命が短くなる結果になったといいます。
* 有意という言葉については、前回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」)
この研究に対する考察
今回の論文において、根管治療後の歯の寿命は約11年であることや、クラウンを装着すると歯の寿命は5年以上延びるということが明らかになりました。
しかし欧米では、一般的に補綴物の材料にはメタルを使用しません。そのため、今回の論文で用いられたデータの歯については、セラミックやジルコニアなどの補綴物が装着されていると考えられます。
これらは日本の保険治療で提供される補綴物とは異なる材質のため、日本でも同じ結果がでるとは言い切れないでしょう。
しかしながら、治療方針を決める時に、患者さんから「補綴物がどれくらいもつか」と質問される機会は決して少なくないはず。
患者さんからこのような質問をされるのは歯科医師だけはありません。な歯科衛生士や歯科助手、トリートメントコーディネーターといった、歯科医院のスタッフであれば誰しもが受ける可能性があるため、歯科医院内で統一しておきたい見解の一つです。
う蝕の範囲が限局している場合、患者さんの要望によっては、インレーやアンレーといった修復物やレジン充填を選択するケースもあるかもしれません。
しかしクラウンを装着することで生存期間が5年以上長くなると知れば、患者さんの選択も変わってくるのではないでしょうか。
今後、患者さんの治療方針を考慮する上で、一つの指標として覚えておきたいエビデンスです!
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毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。
自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。
歯科衛生士向けおすすめ論文
No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」
No.2「ストレートVSアングル どっちの歯間ブラシを使うべき?」
No.3「スケーリングで削られてしまうセメント質はどれくらい?」
No.4「スケーリング前に行うブラッシングの効果は?」
No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」
No.6「プラーク除去に有効な歯ブラシの形状は?」
No.7「う蝕予防に効果がある歯磨剤のフッ化物濃度は?」
No.8「抗うつ薬服用患者はインプラントを喪失しやすい?」
No.9「ホワイトニング歯磨剤の着色に対する効果は?」
No.10「電動歯ブラシと手用歯ブラシどっちが有効?」
No.11「全顎 OR ブロックごと、どっちのSRPが有効?」
No.12「効果的に清掃できる歯間ブラシの新しい形状とは?」
No.13「効果が高いクロルヘキシジン含有洗口剤の濃度とは?」
No.14「新型コロナウイルスと喫煙の関係は?」
No.15「ゴムタイプの歯間ブラシに歯肉炎やプラークを減少させる効果はある?」
No.16「ヨーロッパの歯周病専門医や歯科衛生士が推奨するOHIとは?」
No.17「新型コロナウイルスにクロルヘキシジンやポピドンヨードの洗口は有効?」
No.18「スケーリング後の補綴物にバイオフィルムはつきやすくなる?」
No.19「キシリトールって本当にう蝕予防に効果的?」
No.20「キシリトール製品はガムじゃないと効果がない?」
No.21「アメリカの歯科衛生士が行うインプラントメインテナンスとは?」
No.22「プラスチックキュレットの効果的な使い方とは?」
No.23「PMTCで歯周病予防はできない?!」
No.24「染め出しはプラーク除去にどれくらい効果的?」
No.25「SRP前のクリーニングに効果はない?」
No.26「根面う蝕にもっとも効果的なフッ化物は?」
No.27「根管治療後の歯はどれくらいもつ?」