歯科のお仕事完全マニュアル 第6章 予防・治療の知識 STEP11 義歯を作る治療

義歯(ぎし)ブリッジと同じで、う蝕や歯周病などで歯を失ったところに入れる人工的な歯のことをいいます。入れ歯やデンチャーともよばれます。

歯を1本失った場合から全部失った場合まで、形はさまざまです。比較的多くの歯が失われ、ブリッジやインプラントができない患者さんのために作られます。

ブリッジとの大きな違いは、取りはずしができるところです。一方で、ブリッジよりも違和感を強く感じやすくなります。

義歯は、全部床義歯(ぜんぶしょうぎし)部分床義歯(ぶぶんしょうぎし)に分類されます。それぞれの義歯の特徴について説明します。

1.義歯を作る治療

全部床義歯

総義歯(そうぎし)総入れ歯(そういれば)フルデンチャーともいわれ、略してFDと書かれることがあります。

全部床義歯

全部床義歯は、以下のような場合に作られます。

  • 上下顎のいずれか、あるいは両方の歯が1本も残っていない場合
  • 残っている歯が残根状態の場合(残根上義歯)

部分床義歯

残っている歯に金具をひっかけて安定させるような形に作られており、部分入れ歯パーシャルデンチャーともいわれ、略してPDと書かれることがあります。

部分床義歯

歯の欠損部位は人ぞれぞれであるため、部分床義歯の形も患者さんによって異なります。

さまざまな形の部分床義歯
さまざまな形の部分床義歯

2.入れ歯の構成パーツの名前と機能

入れ歯の構成パーツの名前と機能

  パーツの名前 概要
床(しょう) 歯肉に触れる部分。プラスチックの板
人工歯(じんこうし) プラスチックでできた歯
レスト 左上の部分床義歯のように、2つの床をつなぐ金属の板
クラスプ 入れ歯を歯に引っ掛ける器具
バー 左上の部分床義歯のように、2つの床をつなぐ金属の板

※ クラスプをひっかける歯を、鉤歯(こうし)といいます。鉤歯は、歯の一部を削り、レストがはまるようにするなどの鉤歯調整(こうしちょうせい)が必要です。

鉤歯

クラスプによって義歯を歯に固定し、レストを通じて、人工歯に垂直にかかる力を歯に負担させます。

クラスプによって義歯を歯に固定し、レストを通じて、人工歯に垂直にかかる力を歯に負担させます。

3.義歯製作の手順

では、全部床義歯の製作ステップについて学んでいきましょう。

部分床義歯も基本的には同じ手順ですが、部分床義歯では、最終的な印象をとる前に鉤歯調整を行います。

義歯製作の手順

概形印象

義歯を作るための大まかな印象をとる治療のことを概形印象(がいけいいんしょう)といい、個人トレー印象(こじんトレーいんしょう)スタディモデル印象などともいいます。概形印象には既製トレーを使用しますが、これを最終的な印象にすることもあります。

概形印象
個人トレーを使用した概形印象

精密印象

患者さん自身の概形印象をもとに、患者さん専用のトレーを作り、それを使ってより精密な印象をとる治療を精密印象(せいみついんしょう)といいます。個人トレーセット最終印象などともいいます。

精密印象の手順
精密印象の手順

概形印象と精密印象の違い

印象材は、印象をとった直後から少しずつ変形していきます。したがって、印象材の厚みが大きければ大きいほど、変形も大きくなります。大きく変形するほど、できあがる模型も精密ではなくなり、適合が良い義歯が作りづらくなります。

しかし、既製トレーは形が決まっているため、それぞれの患者さんの口腔内に合った形をしていません。したがって、印象材の厚みが大きくなる部分が出てきてしまいます。

既製トレーと比較して、個人トレーは印象材の厚みを薄くできるため、より精密な印象をとることができます。

概形印象と精密印象の違い

個人トレーの周りに巻きつける専用の材料

モデリングコンパウンドという専用の材料があり、これは温めると柔らかくなります。印象をとる際にやわらかくして個人トレーのまわりに巻きつけて使用し、口の中のどの範囲まで義歯床を作るかの情報をとります。

モデリングコンパウンドを個人トレーに巻きつける様子
モデリングコンパウンドを個人トレーに巻きつける様子

バイト(BT)

義歯を作るために咬み合わせを記録する治療。患者さんの精密模型をもとに作られた咬合床(こうごうしょう)とよばれる器具を使用します。

部分床義歯のバイト
部分床義歯のバイト

たとえば、この2人の患者さんでは、上顎と下顎の位置関係が大きく異なることがわかります。これは、咬み合わせが異なるということであり、術者がとらなければならないバイトも異なるということになります。

上顎と下顎の位置関係が大きく異なる患者さん

健康な口では食事をする際、上下の歯がいつもほぼ同じ位置で咬み合い、食べ物をかみくだいています。

この咬み合わせの位置は人それぞれ異なるため、間違った位置でバイトをとると、不自然で食事がしづらいなどといった問題がある義歯を作ってしまうことになります。

バイトを通して、義歯を作るために必要な患者さんの咬み合わせの前後、上下、左右などの情報を集めていきます。

かみ合わせ

ここまでのステップで、精密印象 (口腔内の上下顎の精密な模型)とバイト(咬み合わせの情報)が得られます。これらの情報をもとに、患者さんごとのオーダーメイドの義歯を作ることができます。

患者さん自身の歯が多く残っている、小さな義歯を作る場合は、咬み合わせがはっきりしているため、バイトを必要としない場合もあります。

試適

ロウでできた仮の義歯を試着する治療を試適(してき)といいます。部分床義歯では行わない場合もあります。

試適することによって、見た目や咬み合わせの最終確認を行います。ロウでできた義歯は、強い力をかけると壊れてしまうため、患者さんには、強く咬まないように注意する必要があります。

試適(してき)

また、技工所から送られてくるロウでできた義歯を固定している機械を咬合器(こうごうき)といいます。

咬合器(こうごうき)
咬合器

セット

完成した義歯を患者さんに調整してわたす治療。義歯のセットは、義歯治療のゴールというイメージが強いですが、患者さんの日常生活から考えると、新しい義歯のスタート地点です。

新しい義歯を入れて、いきなり食事で固い肉などをかむと、粘膜に傷がつき、痛みを生じることがあります。そのため、徐々に慣らしていきながら、新しい義歯を調整していく必要があります。

また、セット後も、義歯の土台となっている歯肉の形が変わり、義歯が合わなくなってくることがあるため、定期的にメインテナンスを行う必要があります。

患者さんによっては、義歯セットで治療終了というイメージを持っている方もいるので、メインテナンスの必要性を説明しておきましょう。

完成した全部床義歯
完成した全部床義歯
全部床義歯を装着した様子
全部床義歯を装着した様子

 

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第6章 予防・治療の知識

STEP1 予防
STEP2 投薬
STEP3 歯周病の治療
STEP4 知覚過敏の治療
STEP5 小さなう蝕の治療
STEP6 歯の神経をとる治療
STEP7 かぶせ物を作る治療
STEP8 感染根管の治療
STEP9 TeCを作る治療
STEP10 ブリッジを作る治療
STEP11 義歯を作る治療
STEP12 義歯の調整
STEP13 歯を抜く治療
STEP14 小児患者さんの治療
STEP15 その他の治療