はじめまして、増田梢です。
日本顕微鏡歯科学会認定歯科衛生士の資格を取得し、臨床のさまざまなシーンでマイクロスコープを活用しています。
最近では、「マイクロスコープは歯科医師が使うもの」というイメージから「歯科衛生士も一緒にマイクロスコープを使ってより良い治療を」と考えてくれる歯科医師が増えています。
私にとってマイクロスコープは、日々の臨床で歯科衛生士の楽しさ、大切さ、そして必要性を感じるツールのひとつです。
これから何回かに分けて紹介させていただく私の経験が、これからマイクロスコープを使ってみたい、活用したいと思う歯科衛生士の方のヒントやきっかけになれば幸いです。
出会いときっかけ
歯科衛生士歴18年目の私がマイクロスコープに触れるようになってから、6年が経とうとしています。
私のマイクロスコープとの出会いは、感染根管治療のアシスタントについた時でした。モニター越しの口腔内を見ているうちに、「私も自分の目で見てみたい」と思うようになったのがきっかけです。
当時、日々の診療の中で、歯石やプラークは取り残していないか?自分の説明は患者さんへ伝わっているのか?という不安を感じることがありました。
そのため、マイクロスコープから得られる情報を活用することで、患者さんの口腔内をしっかり治したいと思い、マイクロスコープを覗きながら診療を行うようになりました。
そして、マイクロスコープを使いはじめて1年ほど経った頃、日本顕微鏡歯科学会認定歯科衛生士の資格に挑戦し、無事合格することができました。
詳しくはこちら:わたしのDHスタイル#42 増田梢さん『認定資格で広がる世界』
私がマイクロスコープを使う理由
つづいては、日々の診療において、私がマイクロスコープを使用する理由をご紹介します。
① 拡大し、明るい状態で治療ができる
機種により倍率は異なりますが、マイクロスコープは低倍率から高倍率に拡大して見ることができます。
そのため、「何もないように見えるけど、炎症がおさまらない」「プラークを取り残しているかもしれない」といった、肉眼では見えなかったこと、悩んでいたことが明確になります。
そして、目視できることにより、確実にインスツルメントを操作できるため、精密で低侵襲な治療が可能になります。
② 情報のフィードバックができる
肉眼やルーペとは異なり、録画装置を設置することで自分が見ている状態を記録することができます。
また、その記録を共有することで、患者さん本人に、プラーク残存によるカリエス、歯肉からの出血、腫脹、歯石の付着があることを目で見て知っていただけます。さらに、歯科医師やスタッフへの申し送りもスムーズに行うことができます。
そして、後に活用できるような記録を残すためには、撮影するタイミングにも意識を向ける必要があるので、より治療に集中できるようにもなります。
③ 身体に負担のかからない姿勢を保てる
マイクロスコープを使用することで、無理に口腔内を覗きこまずに処置できるため、首や背中が曲がらず、自分自身に負担のかからない姿勢で治療ができます。
良い姿勢の維持は、継続して患者さんの施術をするだけでなく、長く歯科衛生士を続けるためにも大切なことです。
④ スムーズなアシスタントワークができる
私は普段、歯科医師のマイクロスコープ診療の補助も行っています。
自分自身が経験しているからこそ、術者の「こうしてほしい」がわかりやすくなり、スムーズなアシスタントワークを行うことができます。
マイクロスコープの活用シーン
これからマイクロスコープを使ってみたいと考えている方の中には、どんな治療に使ったらよいか迷われている方もいるかもしれませんが、私は何にでも使用できると考えます。
私は日々の診療で、主にこのようなことに使用しています。
- 口腔内診査
- OHI
- SC
- SRP
- イリゲーション
- 歯科医師、スタッフとの情報共有
口腔内診査での活用
まずは全体を見るために、見える範囲が広い低倍率からスタートします。
気になった部分で倍率を上げ、プラークや歯石、歯肉の状態、カリエス、クラック、補綴状態など、さらに詳しい情報を得ます。
こちらは、マイクロスコープの使用により、歯肉縁下歯石の存在とカリエスの疑いを発見できた時の写真です。
録画情報から得た情報は、今後の治療において大きな助けになります。
OHIでの活用
口腔の健康を守る上で、歯科医院で受ける治療時間よりはるかに多くの時間を費やす必要があるのはセルフケアです。
セルフケアを確立して、細菌をコントロールすることは、全身の健康にもつながるとても重要なことです。
以前は、お口の中は暗くて狭く、一人ひとり違うことがあって、模型だけでは伝わらない…理解してほしくても伝わらない…と、もどかしさを感じることがありました。
「メラビアンの法則」によると、人は視覚からの情報にもっとも左右されるといいます(視覚55%・聴覚38%・言語7%)。
そのため、患者さん自身に実際の口腔内を見せることで、口腔内の状況が伝わりやすくなり、セルフケアのモチベーションアップにもつながります。
さらに、歯ブラシや歯間ブラシ、フロスなどの指導の時に、患者さん自身の歯列や粘膜の状態で、そして動きを交えて指導できることも、マイクロスコープの強みです。
この際、私たち歯科衛生士は、ただ記録した情報をお見せするだけでなく、歯肉から出血する原因や全身への影響、栄養指導など、“健口’’でいるための情報を伝えていく必要があると考えます。
しかし、私たちは「良くなってほしい」という思いから、改善点ばかりを指摘しがちです。
良いところも記録して、その方の頑張りを認めることも大切だと感じています。
患者さんの負担を軽減
痛みのない治療は、患者さんとの信頼を構築する上で欠かせません。
マイクロスコープで拡大することで、プラークや歯石をしっかりと認識し、適切なインスツルメントを正確に使用することで低侵襲な治療が可能になります。
今回のおわりに
マイクロスコープの操作は、拡大し、見たいものを認識することからはじまります。
たとえば、まずは歯肉の状態を見て、歯石の付着を疑います。そして、歯石がどこに付着しているのか、形状、色を認識します。そこに確実にインスツルメントを当てることで、除石の確認ができます。
「何かあるかも?」と思うことは大切で、マイクロスコープを覗いたからすべてが見えるのではありません。
また、異常な状態を感知するためにも、正常な状態を知っていることも大切です。
マイクロスコープから得る情報は、歯科衛生士として成長するためのツールのひとつになり、やりがいやスキルアップにつながるはずです。
興味を持ったなら、マイクロスコープのはじめ時です。ぜひ拡大の世界を覗いてみてください。