乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法 #02 いま求められる子どもたちへのアプローチ

こんにちは。歯科衛生士の古家と申します。

私は小児期の矯正(顎顔面矯正)を行う歯科医院で小児専門歯科衛生士として従事し、今は前職の経験を活かして一般歯科にて勤務しています。

この連載では、これまで私が学んできた小児の健康な口腔育成を行うためのアプローチ方法についてお伝えしていきたいと思います。

今回は、いま求められる子どもたちへのアプローチについてお伝えしていきたいと思います。

前回の記事はこちら

#01 プロローグ

「見るポイント」の大切さ

みなさんは、「健康なお口」と聞いて、どのようなお口を思い浮かべますか?

たとえば、このお口。一見歯並びが良さそうに見えますよね。

でも、よく観察してみましょう。

まず、このお口に永久歯はありますか?

一番に生え変わる永久歯は、およそ6歳頃に生え変わる下顎の中切歯。歯の大きさから見て、まだ生え変わっていないようです。

では今度は、歯間部を見てみましょう。

乳歯列には、永久歯へと生え変わるための隙間があるはず。これを発育空隙と呼びます。ですが、このお口にはその隙間が見られません。

そしてもう一つ。この歯並び、上顎の歯が内側に倒れているように見えませんか?キュッと小さく閉じているようにも見えます。

さて、3つの「見るポイント」をお伝えしました。それではもう一度、写真をよく見てみましょう。

あら?はじめてお口の写真を見た時のイメージと違いませんか?

歯列不正の6割は後天的な刺激が原因

そもそも、歯並びはなぜ悪くなるのでしょうか?

顎が小さいから?両親の歯列不正が遺伝したから?

最近の調査では、遺伝による歯列不正が全体の約4割、残り6割は後天的な刺激が原因であると考えられています。

後天的とはつまり、子どもが成長していく過程で受けた何らかの刺激により起こったということです。

それでは、一体お口の中で何が起こっているのでしょうか?

バクシネータメカニズムの図
バクシネータメカニズムの図

歯は唇や頰、舌といった筋肉に囲まれています。

歯はこれら筋肉の力によって動かされ、バランスがとれる位置に並びます。

そのため、もし歯列の外側にある唇や頬の力が強く、舌の力が弱ければ、歯は内側に倒れます。

反対に、歯列の外側にある唇や頬の力が弱く、舌の力が強ければ、歯は外側に倒れるのです。

お口ポカンから見る舌筋の低下

日本病巣疾患研究会
お口がポカンと開いた子供(日本病巣疾患研究会HPより引用)

また、写真のようなお口がポカンと開いた子どもを見かけませんか?

小児だけではなく、大人の方でも口唇が閉まりきっていない方は多く見られます。

このお口ポカンの原因は、舌の力の弱さにあります。

ここで質問です。

いま、この文章を読んでいるあなたの舌の先は、どこにありますか?

  1. 口蓋
  2. 上下顎の前歯の間
  3. 下顎前歯の根元

正しい位置は、① です。

舌は下顎に付着していますが、口蓋へと持ち上げてペッタリとくっついているのが正しい位置となります。

スポットポジション(舌の正しい位置)
スポットポジション(舌の正しい位置)

上記の写真のように、スポットとよばれる上顎前歯の後ろに舌の先端を置き、口蓋全体にペッタリとくっつけます。

慣れていない方にとっては、くっつけるだけで疲れると思います。

舌は自分で自由に動かすことができる。つまり、筋肉でできているんです。

そのため、お口ポカンの改善は、なまった体を、いきなりスパルタな筋トレに駆り出すようなものなのです。

そして舌がペッタリと口蓋にくっつく力によって、上下顎の歯列ともに外へと広がり成長していきます。

歯列は、唇・頰・舌といった筋肉のバランスが安定するところに並びます。

だからこそ、お口ポカンの小児には決まって歯列不正が見られます。

お口ポカンに関しては、dStyleのこちらの記事をぜひお読みください。

小児期における“お口ぽかん”の有病率が明らかに 新潟大

顎でチェック!“隠れ口呼吸”

では今度はお口を閉じてみましょう。

写真のように、顎に梅干しができる人はいませんか?

この梅干しができる人は、ズバリ“隠れ口呼吸”です!

お口ポカンとまではいかずとも、うっすらとお口が開いていませんか?

お口が開いているということは、普段口腔周囲筋が使えていないはず。そのため、お口を閉じようと筋肉を動かすと、顎先が緊張してこのような梅干しができるのです。

口呼吸は歯並びだけでなく、口腔内が乾燥することからう蝕や歯肉炎が増えたり、アレルギーや風邪にもなりやすいといわれています。

一見、耳鼻科の領域にも感じられますが、舌を口蓋につける、唇を閉じるという動きは口腔周囲筋によるもの。完全に歯科領域です!

また、小児期についてしまった噛み方などの癖は、大人になると直すことがむずかしくなります。

そのため、患者さんが小児の頃から、しっかりアプローチしていきましょう!

『なにかが違う』という察知能力を鍛えよう

見るポイントが違えば、受け取る情報は大きく異なりますよね。

私が思う、いま求められる子どもたちへのアプローチは、まさに『なにかが違う』という察知能力です。

この小さな違和感を見逃さず、しっかりキャッチすることは、私たち歯科衛生士にとって何より大切な能力だと思います。

次回からは、年齢別に見るお口の変化とチェックポイントについてお伝えします。

子どもたちのお口について、簡単に説明できる歯科衛生士になりましょう!

乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法

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