こんにちは、お砂糖博士®︎です。おさトーークの時間がやってまいりました。
このコラムでは、皆さんの身近な「お砂糖」について、お砂糖博士®︎が自由に語ります。
「お砂糖の摂り過ぎ→むし歯」は小さな子どもだって知っていますが、もう一歩二歩深いお砂糖のお話をお伝えしたいと思います。
明日の臨床に直接役に立つかは分かりませんが、お昼休みの雑談くらいには役に立つでしょう(笑)。
どうしたら砂糖量を減せるの??
これまでのお話では、WHOが推奨する一日の砂糖摂取量が25gであるものの、現在の日本では38.6gと、まだまだ多い状況だとお伝えしました。
前回のコラムに書きましたが、国内の用途別砂糖消費量で注目していただきたいのは、加工食品である「菓子類26.2%・清涼飲料18.1%・パン類10.8%」。合計して、55.1%の砂糖が、これらの食品によって消費されていることです。
これまでの記事はこちら
No1.あなたは一日に何gの砂糖を食べていますか?
No2.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!菓子類編
日々の食生活の中で砂糖摂取量を減らすには、家庭内で作った食事を食べ、加工食品の摂取を抑えることが重要なポイントです。
けれどもお菓子やジュース、菓子パンなどの加工食品は依存性があり、一度ハマると離れにくいという難点を抱えています。
「わかっちゃいるけどやめられない…」という声をよく耳にしますが、加工食品の裏側を知れば意識が少し変わるかもしれません。
そこで前回から加工食品についての特集を組み、砂糖消費量の55.1%を占める菓子類・清涼飲料・パン類について、それぞれ私が思うことをお話ししています。
清涼飲料を知るには「○○○糖」を知るべし
今回は第2回ということで、砂糖消費量第2位の「清涼飲料」について解説したいと思います。
「なんだ、清涼飲料は18.1%。お菓子の26.2%より少ないし大丈夫じゃない…」と思ったそこのあなた!そうは問屋がおろしません。
まず知っていただきたいのは、清涼飲料に使われる主な甘味料は「砂糖」ではないということです。
それでは、いったい何が清涼飲料の甘味料として使われているのでしょうか?
正解は「異性化糖」です。
現在、国内の清涼飲料に使用される甘味料は、砂糖よりも異性化糖が主流となっています。
2017年時点では、清涼飲料の砂糖使用量が350トンであるのに対し、異性化糖の販売量は638トン。砂糖の約1.8倍もの異性化糖が使用されているのです。
(参照:令和2砂糖年度における砂糖及び異性化糖の需給見通し-農林水産省)
そのため、清涼飲料について深く知るには、この異性化糖について理解する必要があるわけです。
「ところで、異性化糖って何…?」読者の皆さんの多くは、そう疑問に思われたかもしれません。
その答えは、業界用語ではHFCS(Hi Fructose Corn Syrupの略)。「コーンシロップ」といった方が馴染みがあるでしょうか。
Fructoseとは「果糖」のこと。直訳すれば、大量の果糖を含むコーンシロップということになります。
異性化糖をもっと知る前に、ここでひとつ知っておいてもらいたい予備知識をご紹介します。
下記の分類表をご覧ください。
デンプン(赤丸)は、ブドウ糖がたくさん繋がった「多糖類」。砂糖(青丸)は、ブドウ糖と果糖が一つずつからできている「二糖類」です。
ですが、分類表には異性化糖の項目がありませんよね。これはいったい、どういうことなのでしょうか?
少しむずかしいお話になりますが、異性化糖は作物由来である「デンプン」を化学的に果糖やブドウ糖に分解してできた「糖類」のことを指します。
異性化糖は、液体の糖類として流通することが多いため「異性化液糖」ともいわれます。
現代では、異性化糖生成法の研究が進んでおり、驚くことに以下のように自由に果糖とブドウ糖の比率を変えることができるのです。
- 果糖が100%、またはブドウ糖が100%
- ブドウ糖と果糖を50%ずつ
- 果糖を70%、ブドウ糖を30%
「でも私、異性化糖なんて聞き慣れないもの摂っていません」と思われるかもしれません。
皆さんは、清涼飲料の成分表示ラベルにある「果糖ブドウ糖液糖」という表示をご覧になったことはありませんか?それが異性化糖の別名です。
日本農林規格(JAS)では、ラベルの表記名が以下のように制定されています。
(引用:異性化糖-Wikipedia)
ブドウ糖果糖液糖
果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が50%未満のもの。
果糖ブドウ糖液糖
果糖含有率が50%以上90%未満のもの。
高果糖液糖
果糖含有率が90%以上のもの。
砂糖混合異性化液糖
上記の液糖に10%以上の砂糖を加えたもの。その液糖がブドウ糖果糖液糖であれば、砂糖混合ブドウ糖果糖液糖となる。
ジワジワ増加中、日本の「異性化糖」消費量
農林水産省が発表した「日本国内の砂糖需要量と一人当たりの消費量」の表を見てみましょう。
国内の異性化糖の摂取量(青枠)は、年々増加していることがわかります。
2017年時の消費量を見ると、砂糖(196.5万トン):異性化糖(82.4万トン)=7:3と、異性化糖消費量は、砂糖消費量の半分弱にものぼります。
1940年代に開発された異性化糖はその後、研究が進み量産可能となり、1970年代以降、日本国内のみならず世界的にも消費量が伸びています。
下記のグラフからも、諸外国と比べて日本は異性化糖の摂取量の多い国であることがわかります。
アメリカにいたっては、砂糖よりも異性化糖の摂取量が多いことに驚きます。
一方で、歴史的に砂糖との関わりが古いヨーロッパ諸国は、砂糖を好み、異性化糖はほとんど使われていないところも興味深いですね。
「異性化糖」消費量の増加≒「清涼飲料」消費量の増加
2017年においては、国内の異性化糖の52.0%が清涼飲料に使用されています。
(参照:令和2砂糖年度における砂糖及び異性化糖の需給見通し-農林水産省)
こうして考えてみると、国内の異性化糖は主に清涼飲料に使用されており、清涼飲料の消費拡大とともにその使用量が伸びているといっても過言ではありません。
「私は清涼飲料を飲まないので、異性化糖を口にすることはありません」とおっしゃるあなた!残念ながら、そんなことはありません。
以下の写真のような「加工調味料」は、異性化糖を使用する製品が増えており、多くの方が気づかないうちに異性化糖を摂取しているのです。
異性化糖の使用量が増える背景は?
近年、なぜ砂糖に代わり異性化糖の使用量が増えているのでしょうか?
それは、販売する企業側に異性化糖を使用するメリットが多数あるからです。
- コストが低い(主にトウモロコシのデンプン由来のため)
- 液糖なので、液状製品(清涼飲料、タレ、ドレッシングなど)に加工しやすい
- 液糖なので、運搬や保存が容易
特に、①コストの低さについては企業側としては最大のメリットです。
2022年現在の砂糖の価格は約200円/kgに対し、異性化などは約150円/kg。約3/4のコストカットとなります。
コストが低く抑えられる理由は、異性化糖の原料がトウモロコシだからです。
トウモロコシはサトウキビに比べ、栽培が容易なため、大規模な農業が可能であり、低コストで甘味料が作製できるのです。
そしてもう一つ、我々消費者が知っておくべき真実があります。
それは、甘味料の原料となるトウモロコシは、アメリカ産を中心とした遺伝子組み換えの「輸入トウモロコシ」ということです。
衝撃!日本人のトウモロコシ摂取量は、お米の2倍?!
意外に思われるかもしれませんが、日本は世界でもトップクラスの輸入トウモロコシの消費国です。
アメリカはトウモロコシ輸出量No.1の国、そして日本はアメリカ産トウモロコシ輸入量No.1の国なのです。
2017年でのトウモロコシの総輸入量は1億5,300万トン、国内のお米の生産量は7,800万トン。ということは、トウモロコシの輸入量は、本来主食であるお米の生産量の2倍ということになります。
こうして考えると、日本人の主食は、いつのまにか輸入トウモロコシに変わっているといっても過言ではないと思います。
「私、そんなに毎日トウモロコシ食べてないです…」多くの方はそう思うでしょう。
それもそのはず。以下のグラフを見てみてください。
輸入トウモロコシの用途の内訳は、 家畜飼料が72.4%に対して、異性化液糖やダンボールなど工業材料の元となるコーンスターチが20.6%。 お菓子やアルコールなどの食用としては、わずか1.0%(その他)しか使用 されていないのです。
日本人は、肉と清涼飲料によって間接的に大量の輸入トウモロコシを消費しているということですね。
ちなみに、甘い清涼飲料の主な成分を見てみましょう。
いちばん多いのは「水」。当たり前ですね。(笑)
そして10%は、異性化糖や砂糖などの甘味料、そしてごく微量に酸味料や香料、着色料が添加されています。
改めてグラフで成分を見ると、「清涼飲料はただの砂糖水だなぁ」と実感がわくのではないでしょうか?
また、クエン酸などの「酸味料」も輸入トウモロコシ由来のデンプンから作成された添加物です。
このように、清涼飲料の原材料のほとんどは輸入トウモロコシ由来であり、“ジュースをたくさん飲む”ということは“輸入トウモロコシ(遺伝子組み換え)をたくさん消費している”とも言えますよね。
現在の科学では、遺伝子組み換え作物由来の添加物の人体への影響について、安全性に問題はないとされてます。
しかし、100年後の科学の知見はわかりません。
現在ただちに起こる健康被害は確認されていませんが、世代を超える長期的な影響は不明な点も多く、個人的には慎重に摂るべきだと考えています。
今回の特集で、異性化糖や世界一である、アメリカのトウモロコシ農業に興味をもたれた方は、ぜひこちらの映画をご覧ください。
ちなみに、アメリカ人の頭髪の炭素69%はトウモロコシ由来だそうです。
アメリカ人は、間接的にどれだけトウモロコシを摂っているのか?日本人も対岸の火事ではないはずです。
僕自身は「清涼飲料≒輸入トウモロコシ(遺伝子組み換え)」というイメージをもってから、完全に清涼飲料を手にとる気がなくなりました。
皆さんは、これを聞いていかがですか?
診療で忙しい毎日、患者さん一人ずつに清涼飲料と輸入トウモロコシのお話をしている時間はないと思いますが…。(笑)
もしも、清涼飲料が大好きな患者さんとお話しする機会があれば、ぜひお伝えしてみてください。
「あなたは、実はトウモロコシ(遺伝子組み換え)をたくさん摂っているのですよ」と。
教えて!お砂糖博士®︎Questionコーナー
異性化糖には、ブドウ糖と果糖が含まれており、基本的に砂糖であり同じ糖類です。そのため、う蝕リスクは変わりありません。
厳密にいうと清涼飲料は、異性化糖の中でも果糖が70%以上含まれる「果糖ブドウ糖液糖」が使用されています。
そしてブドウ糖と果糖では、ブドウ糖の方がう蝕リスクは高いとされています。
そのため、ブドウ糖と果糖が50%ずつである砂糖の方が、果糖ブドウ糖液糖よりもう蝕リスクはやや高いということになります。
ただ、ややこしすぎるので患者さんには、「砂糖も異性化糖も成分は同じ糖類なので、どちらも同じようにむし歯になります」という説明で良いかと思います。
患者さんに「どんな飲み物だったら飲んでいいの?」と聞かれた時、どう答えるのがベストですか?
やはり水か、着色などを気にしなければお茶やブラックコーヒーをすすめることが一般的に感じます。
たとえば、牛乳や豆乳も含めてお砂糖博士のご意見を伺いたいです!
やはり「水」「お茶」がベストです!
お子さんの場合は、緑茶よりもノンカフェインで苦味の少ない麦茶や、番茶をおすすめします。
大人でカフェインを気にしなければ、ブラックコーヒー(無糖)も良いかと思います。
もし「牛乳や豆乳は子どもに与えても良いですか?」と質問された場合には、成分無調整のものであれば問題ないと説明することが多いですね。
ただし牛乳は嗜好品の一つと考えており、自ら推奨はしてません。理由は以下の通りです。
- 牛乳は意外とカロリーが高く、たくさん飲むと食事が摂れなくなる。
- 牛乳に合わせる食事は、パンやケーキなどの菓子類が多いので、砂糖や油が多くなりがち。
- 日本人は乳糖(牛乳に含まれる糖類)分解酵素が少ないので、お腹を壊しやすい。
ですが、ジュースをたくさん飲むよりは、だいぶマシですので、牛乳がお好きな子の習慣を無理に取り上げる必要もないと思います。
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次回は清涼飲料普及の歴史を振り返りつつ、現在の消費量や動向、さらに清涼飲料の依存性の秘密についておさトーークしたいと思います。
お砂糖博士®︎の雑談コラム「おさトーーク」
No1.あなたは一日に何gの砂糖を食べていますか?
No2.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!菓子類編
No3.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!清涼飲料編 ①異性化糖について