乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法 #03 乳歯萌出前編

こんにちは。歯科衛生士の古家と申します。

私は小児期の矯正(顎顔面矯正)を行う歯科医院で小児専門歯科衛生士として従事し、今は前職の経験を活かして一般歯科にて勤務しています。

この連載では、これまで私が学んできた小児の健康な口腔育成を行うためのアプローチ方法についてお伝えしていきたいと思います。

今回は、乳歯萌出前の成長過程についてお伝えしていきたいと思います。

前回までの記事はこちら

#01 プロローグ
#02 いま求められる子どもたちへのアプローチ

乳歯萌出前の成長過程

今回は乳歯萌出前編です!

「えっ、乳歯萌出前?“歯”医者なのに???」と思った方もいるかもしれません。

赤ちゃんのパノラマを撮影したことは私もありませんが、小学生のパノラマならみなさんも普段から撮影されているかと思います。

小学生のパノラマを撮ってみると、乳歯の下で永久歯がむくむくと育っていてとても微笑ましい気持ちになりますよね!

あの小さなまあるい歯のタネを「歯胚(しはい)」といい、この歯胚が乳前歯に成長します。

永久歯が乳歯の根元で育っているように、一見歯がまだ生えていない赤ちゃんの歯茎の中でも乳歯の歯胚はしっかりと育ち、生える時を待っているのです。

歯胚は赤ちゃんがまだお母さんのお腹の中にいる妊娠7週頃にできはじめ、妊娠10週までにはすべての歯胚が揃います。

ここで、前回にお伝えした歯並びの話を思い出してみてください。

歯は唇や頬、舌など、筋肉のバランスが取れたところに並びます。赤ちゃんのお口にはすでにお母さんの母乳を力いっぱい吸うことのできる筋肉が揃っていますから、健康なお口へとアプローチするには乳歯が生える前からのお声がけが必要になるのです。

赤ちゃんがお母さんから母乳をもらっている時や哺乳瓶からミルクを飲んでいる時のことを 思い出してみてください。

赤ちゃんはしっかりと乳首に吸い付き、勢いよく飲み込んでいると思います。「そんなにお腹が減っていたんだね~」と微笑ましく思いながら…自分に置き換えてみてください。
あの勢いで一気飲み…できますか?

お口を開けた状態で何かを咥えたまま飲み込めますか?難しいですよね。

実は、赤ちゃんと大人では飲む機能に大きな違いがあるんです!

哺乳に必要な原始反射3つ

赤ちゃんは生まれた時から、誰にも教わらずとも哺乳することができます。これは、哺乳に必要な動きとして胎生期にすでに原始反射を獲得しているからです。

赤ちゃんの口に指を近づけた際の探索反射(引用:いらすとや)
赤ちゃんの口に指を近づけた際の探索反射(引用:いらすとや)

哺乳に重要な役割を持つ原始反射は、以下3つです。

  1. 探索反射:口の周囲に突起物(乳首や指など)が触れるとその方向に口を向けて咥え込む
  2. 吸啜反射:口の前方から入ってきた乳首などを舌で包み込むようにして吸う
  3. 咬反射:口角から指などで臼歯部にあたる歯茎周辺を刺激すると、上下の歯茎を閉じて噛み込む

赤ちゃんは①と②の反射によって母乳やミルクなどを摂取し、「嚥下反射」によって飲み込んでいます。これらの反射は、生後〜5ヶ月後にかけて少しずつ消失していきます。

「乳児型嚥下」と「成人型嚥下」の違い

哺乳期では気管や食道の入口の位置がとても高い位置にあり、気管の入り口については、のどちんこのすぐ下にあります。このため、赤ちゃんのお口に入った母乳やミルクは気管の入り口の両脇を通り、気管に入ることなく食道へと送られます。

このように、のどちんこによって気管がカバーされているため、赤ちゃんは乳首をくわえたまま母乳などを吸っても呼吸をほとんど止めることなく連続して飲み続けることができます。このような飲み方を「乳児嚥下」といいます。

吸啜期・離乳期・咀嚼期における成長過程

授乳時のポイントは「ラッチオン」

哺乳期から幼児期前半にあたる0~3歳までのお口は劇的な成長発育を辿ります。原始反射が消失するだけでなく、舌の動きが大きく変化し、呼吸の仕方まで変わるのです。

ほとんどの小児は12~15ヶ月までに成人嚥下の動きをおおむね獲得しますが、この発達の段階は地続きであり、いずれかの段階をジャンプしてしまうことは決してありません。

哺乳期にしっかりとした吸啜運動を行うことで舌の機能が発達し、離乳期の食べる機能へとつながっていくのです。

乳歯萌出前は吸啜期と呼ばれ、反射による吸啜によって赤ちゃんは母乳を飲み込んでいます。赤ちゃんは原始反射によって乳首を捉え飲み込んでいますが、ここで大切になるのが乳首の捉え方です。

生まれたばかりの赤ちゃんは母乳を飲むことにも慣れてなれていませんし、飲み込む力も弱いため、うまくおっぱいを捉えることができません。

乳首だけを口に入れるような飲ませ方では、お口周りの筋肉や舌の筋肉を上手く使うことが難しく、離乳期における食べる機能の発達にも影響すると考えられています。

赤ちゃんのお口を見てみると、口蓋の中央が高くなっています。

赤ちゃんの口は口蓋の中央が高くなっている
赤ちゃんの口は口蓋の中央が高くなっている

これは吸啜窩と呼ばれます。赤ちゃんはこのくぼみと舌で乳首を捉え、舌を前方に突出させて舌と口蓋で乳首をしごくようにして母乳を吸っています。

この舌の動きにより嚥下機能が鍛えられ、ほとんどの赤ちゃんが12~15ヶ月までに成人嚥下のおおよその特徴を会得するといわれています。

乳児嚥下から成人嚥下へとスムーズに変化していくことが、舌突出癖などの改善しにくい嚥下パターンを回避することにも繋がります。

そのため、しっかりと乳首を捉えて母乳を飲むことがとっても大切なんです!

しっかりと乳首を捉えて母乳を飲むことで嚥下機能を鍛えられる
しっかりと乳首を捉えて母乳を飲むことで嚥下機能を鍛えられる

浅く乳首だけを咥えこむのではなく、しっかりと乳輪全体を咥えることを「ラッチオン(吸啜)」といいます。

お口をアサガオのように外側に開くよう開けさせ、お口全体で乳輪に吸い付くように深く咥えさせます。

大人が肉まんやハンバーガーなどに大きく口を開けてバクリと食いつく姿をイメージしてみてください。まず下唇から迎えに行って、それから上唇がバクリと被さってくると思います。

赤ちゃんも同じで、お口の中におっぱいが入るよう支えながら、下唇から上唇へと被せるようにサポートするとラッチオンの姿勢が取りやすくなります。

寝ながらの授乳ではどうしても乳首の咥え込みが浅くなってしまいやすいため、推奨はできません。

ですが、そこはお母さんもお疲れがあるところ。知識としてお伝えはしても強要はしないよう、お話するときには気をつけてくださいね。

また、ラッチオンは母乳でなくともニプルでも同じです。浅く捉えさせないことはもちろん、しっかりと唇や舌を使うことでミルクが出てくる・口腔機能の育成ができるニプルを選ぶこと、ミルクの調整濃度を守ることが大切です。

発達段階から紐解く口腔機能

このように、赤ちゃんの時から飲む力という口腔機能を育てることができます。

実際にまだ歯の生えていない赤ちゃんを歯科に連れてこられる方は少ないと思いますが、赤ちゃん連れのお母さんや、その兄弟のメンテナンス時などにお伝えしてみてくださいね。

また、吸啜窩は成人嚥下を身につけていく段階で舌の圧力により口蓋が押し広げられ、歯列の拡大とともに変化して、高さが低くなっていきます。このため、口蓋の高さから口腔機能の発達状態を推測することができるのです。

実際には、大人でも口蓋の高い方はかなり多くみられます。

口蓋が高いということは、舌の圧力が口蓋へ伝わっていないということ。
つまり、舌をスポットに上げることで飲み込む成人嚥下が上手く獲得できていないことを示しています。

前回お伝えした「バクシネーターメカニズム」を覚えていますか?
舌をスポットに上げることができずに、お口ポカンになると…歯列不正へと進んでいくのです。

このように、知識はどんどん繋がっていきます。

自分の医院には子どもはあまりこないからと思わずに、発達の段階から紐解くことで患者さんの口腔内を観察・推測すると、仕事が楽しくなりますよ!

ぜひ今日から患者さんのお口を探検してみてくださいね。

乳歯が鍵!健康なお口育成アプローチ法

#01 プロローグ
#02 いま求められる子どもたちへのアプローチ
#03 乳歯萌出前編