みなさん、こんにちは。歯科衛生士歴15年のYota Morisakiです。
現在は訪問歯科で働きはじめ、6年ほどになります。
訪問歯科の現場では、今までの一般歯科で行っていたやり方がまったく通用しないことがたくさんあります。
前回までの記事はこちら
vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード
vol.3 歌によるコミュニケーションの重要性を学んだエピソード
vol.4 患者さんとの距離感について考えさせられたエピソード
vol.5 ご家族が患者さんを大切に思う気持ちが伝わるエピソード
この連載を通して、私が訪問歯科の現場で日々感じることや、訪問歯科で働く歯科衛生士、また診察する患者さんやご家族の等身大の姿を知ってもらえると嬉しいです。
誤嚥性肺炎を防ぎたい!という気持ち
誤嚥性肺炎は、口腔内の細菌が間違って肺に入ることで起こります。
誤嚥性肺炎という病名が一般に広まったのは近年ですが、昔から肺炎による死亡が多かったことを考えると、この病気自体はずっと前からあったのではないかと考えられます。
そして誤嚥性肺炎のリスクは、口腔内の環境を良好にすることで大幅に下がるといわれています。
私自身、いつもどこかで「誤嚥性肺炎にならないように」という気持ちをもって患者さんと接しています。
一方で、口腔内の細菌をゼロにすることはできない点、毎日私たちが口腔ケアを行うことができない点などから、誤嚥性肺炎を完全に防ぐことはむずかしいと感じています。
こんな患者さんには要注意!
一般的に、口腔内に食べ物が残っている患者さんや、訪問歯科以外の口腔ケアをしていない患者さんは、誤嚥性肺炎のリスクが高いといわれています。
しかし、そういった患者さんと並んで注意が必要なのが、「初めて訪問する患者さん」です。
きちんとブラッシングできている患者さんなら良いのですが、できていない患者さんの場合は、私たちがブラッシングを行うことによって、それまで蓄積されていた汚れが一度口腔内に広がります。
その結果、口腔ケアの直後に誤嚥性肺炎のリスクがぐっと上がってしまうのです。
エビデンスとして明確に示されているわけではないかもしれませんが、現場の体感としてはそう感じます。
また、嚥下機能が弱り、患者さん自身はできるつもりでも、うがいでむせてしまうという方にも要注意です。
そういった患者さんのケアを行う時は、ブラッシングをせずに口腔内を拭うだけにするかどうかについて、悩むところです。
担当患者さんが誤嚥性肺炎を起こした時はどうする?
おそらく訪問歯科で働く歯科衛生士がいちばんきついと感じる瞬間の一つに、「担当患者さんが誤嚥性肺炎を起こした時」があります。
中には、誤嚥性肺炎とはっきり診断されてはいないものの、「熱が出ました」とだけ言われるケースもあります。
もちろん患者さんの容態も気がかりなのですが、はっきり「誤嚥性肺炎です」と言われた時は、やはり特別にきついものがあります。
訪問することもできず、何ができるわけでもなく、ただただ気にして待つことしかできないのです。
先輩に「患者さんが誤嚥性肺炎起こしちゃって…」と打ち明けると、「そういう時もあるんだよ。」と、私の気持ちを理解した顔で返事をしてくれました。
「訪問歯科で働く歯科衛生士なら避けて通ることができない道だよ。」ということだったのかもしれません。
次の訪問時には誤嚥性肺炎を再発させないよう、一方で神経質になりすぎないよう、接していて気持ちが良いと思ってもらえるようにケアを行うのみです。
訪問歯科の現場で働く場合、誤嚥性肺炎のリスクとは常に隣り合わせであることを自覚しなければいけません。
その上で、私たち歯科衛生士はそれぞれの患者さんにとって、その時ベストな対応を臨機応変に考える能力が必要です。
かならずしも「口腔内をきれいにする」ということだけがゴールではないということを、訪問歯科での経験を通して学びました。
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訪問歯科で働いていると、患者さんの少しの変化や反応を感じとれる瞬間にたくさん出会えます。
むずかしく感じることもたくさんありますが、それぞれの患者さんにとっての貴重な瞬間に立ち会えて、一瞬も目が離せない、そんな訪問歯科の現場が私は大好きです。
ご興味をお持ちの方は、ぜひ訪問歯科の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
訪問歯科の現場から
vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード
vol.3 歌によるコミュニケーションの重要性を学んだエピソード
vol.4 患者さんとの距離感について考えさせられたエピソード
vol.5 ご家族が患者さんを大切に思う気持ちが伝わるエピソード
vol.6 誤嚥性肺炎について考えさせられたエピソード