わたしのDHスタイル #36 中澤正絵さん『歯科衛生士は全身疾患の改善に関与できる存在』

歯科衛生士は社会的価値の高い大切な職業であり、この社会になくてはならない存在です。

dStyleでは、今まさに臨床の現場ではたらいている方々にスポットライトを当て、等身大の歯科衛生士ライフを語っていただきました。

このインタビューが、歯科業界で輝くきっかけになれば嬉しいです。

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今回は、歯科衛生士歴39年の中澤正絵さんにお話を伺いました。

新卒で国家公務員共済組合連合会東北公済病院宮城野分院の外来に勤めた中澤さんは、その後病院統廃合により退職。2005年からは医療法人盟陽会 富谷中央病院に就職しています。

現在は病院に勤務するかたわら、歯科衛生士学校、歯科技工士学校の非常勤講師や各地で講演活動を行っています。

富谷中央病院 中澤正絵さん

病院歯科での仕事内容

今勤めている病院は、歯科外来に2名の歯科衛生士が在籍しており、有病者、主に糖尿病患者さんの歯周病管理を通じて、医科歯科連携研究を行っています。

他にも、インプラントのコンサルテーションやメインテナンスも行います。

また、病棟患者については看護師さんやケースワーカーさんが口腔ケアを行うため、スタッフの皆さんが歯科衛生士が行う口腔ケアに近い処置ができるように、技術指導を行うのも私たちの仕事です。

スタッフの口腔ケア技術にばらつきが生じないように、技術の標準化を目指して指導しています。

セミナーの様子

一般歯科との違い

開業医の元で働いた経験はわずかですが、病院歯科の歯科衛生士は、“有病者を主に診る”というのが役目だと思いますし、特徴だとも思います。

全身疾患の状態について知りながら患者さんをサポートしていけるのが特徴ですね。

また、病院歯科では他職種連携が必須です。医療の知識があってこそ、歯科衛生士が医療人として認めてもらえるんです。

そのため、医療用語を覚えたり、タンパクや肝機能といった生化学検査の正常値を覚えたりして、内科カルテを理解できるような知識が必要です。

他にも、薬の名前や効用、副作用についてもチェックしていますね。

次々に新薬が開発されていますので、新薬が出たら、どういう状態の時に使われているのかをかならず調べます。調べていくうちに、医科的知識がどんどん蓄積していきます。

難しい点でもありますが、非常にやりがいがありますし、知識が増えれば増えるほど、患者さんとのコミュニケーションでも、より専門的なお話ができるようになります。

糖尿病についての知識を深めるきっかけ

たしか1999年頃、当時も有病者の歯周病管理を日常業務の中で行っていました。

そんな中、ある歯科雑誌に掲載されていた「糖尿病と歯周病」に関する記事を目にして、その関連性に興味を持ちました。

ちょうどその頃、整形外科に入院中の1型糖尿病患者の歯周治療を担当しており、糖尿病療養についての勉強を重ねながら歯周病管理を行っていました。

そうしますと、歯周治療を受けた患者さんが、糖尿病の指標となる数値「HbA1c」の変動を報告くださったのです。この現象について、院内の糖尿病専門医に相談しました。

そして、糖尿病専門医にも歯科雑誌の記事を見てもらったところ、その関連に関心を持ってくださり、糖尿病内科をおとずれる2型糖尿病患者を歯科に紹介いただけるようになりました。

その結果、糖尿病治療に変更を加えず歯周病管理をすることで、血糖コントロールの改善がみられる症例に数多く出会うことができたのです。

これをきっかけに、ますます歯周病治療の精度を向上させるべく糖尿病療養と歯周病治療の勉強を強化したところ、以前にも増して歯周病の早期改善ができるようになったんです。

その後、連携治療が軌道に乗ってきたところでやむなく退職することとなり、別の業種への転職も考えました。

しかし、当時の糖尿病専門医や担当の患者さんの励ましがあり、現在の職場で歯科衛生士として復職することができました。

そこで医科歯科連携診療に理解のある歯科医師と糖尿病療養指導医との新たな出会いがあり、現在も糖尿病と歯周病の連携研究を続けることができています。

仕事をする上でこだわっていること

短期間で歯周病の炎症抑制をすること。

私の場合、患者さんに初めてお目にかかる回をとても大事にしています。

最初にお話しする内容が患者さんのモチベーションにがっちり入っていくように、検査をして、現状を説明して、歯周治療をすることのメリットをお伝えします。

特に糖尿病患者さんの場合、口腔衛生を改善していくことによって、炎症が抑制されてインスリンの効きがよくなるということ。

インスリンの効きがよくなれば減薬の可能性があることをお伝えして、歯周病の改善に取り組んでいただいています。

短期間での明らかな改善を実感してもらえれば、患者さんの信頼度が上がり、一気についてきてくださいます。

とにかく、「患者利益、第一優先」ですね。

そして、歯周病のデータを管理し、全身の健康データとの関連を見ることにもこだわっています。

当院ではペリオナビやSMTなどの検査機器を活用し、患者さんのBOPやPCR(プラークコントロールレコード)、唾液中のpHなどの数値を記録しています。

ペリオナビで出力したデータを患者さんに提供する

これらの数値やデータを元に、先生と治療計画を立てます。“ID野球”ならぬ、“ID治療”ですね。

患者さんへも、データに注目していただくように指導をしています。“これが何%になった時が「改善」ですよ、それを目指してくださいね”と。

血圧で正常値を目指すのと同じ感覚ですよね。そうすると、患者さん自身がその目標値に向かって努力してくださいます。

そういう意味でも、検査機器は絶対必要ですね。

ペリオナビやSMTなどの検査機器を活用して数値管理を行う

働く中で経験した、うれしい出来事

糖尿病治療の中で、食事療法や運動療法、薬物療法をまったく変えずに歯周病治療を行った患者さんの血糖コントロールに、改善が見られた時は嬉しいです。

歯科衛生士であるにもかかわらず全身疾患の改善に関与できることを体験し、歯科衛生士も医療人なのだということに改めて感動をおぼえます。

また、糖尿病専門医や患者さん自身が歯周病治療の威力を評価し、認めてくださることも嬉しいです。

その治療の効果について自らの全身状態の変化や感想を語ってくださる時に、医科歯科連携治療の重要性について一層認識することができます。

特に、明らかな炎症の改善を短期間で達成できた時は、仕事のやりがいを感じますね。

非外科の歯周病治療を行った糖尿病患者さんの口腔内写真の比較

他にも、患者さんがユニットに着座してすぐにHbA1cなどの血液検査データや直近の体調を詳しく伝えてくれる時、歯科衛生士の私を医療人として信頼くださっていると実感できます。

これまでの人生経験の中で、やっておいてよかったと思うこと

スウェーデンのイエテボリ大学に歯周病研修に行ったこと。

一緒に参加した仲間との出会いによって、もっと歯周病治療がうまくなりたいと思ったので良いモチベーションになったと思います。

もちろん、海外研修そのものも素晴らしいことでしたが、歯周病治療を頑張りたいという仲間に会えたことが、最大の収穫でした。

研修に行ってから15年も経過していますが、この時の出会いによって今の仕事も充実したものになっています。

そして、日本歯周病学会の認定歯科衛生士と、日本口腔インプラント学会専門歯科衛生士試験を受けたことも、やっておいてよかったです。

自分の歯周病治療スキルの確認と症例をまとめる訓練になりましたし、臨床でも症例を振り返る習慣が身につきました。

また、試験会場や学会で仲間に出会えたことが、仕事のモチベーションになっています。

それから、2017年に宮城県糖尿病療養指導士認定機構が発足し、その資格が得られたことで、多職種の仕事内容について幅広く知る機会を得ました。

糖尿病療養支援を行う上で、とても役立っています。

オススメの器具

FOD社のペリオナビです。2006年にペリオナビゲーションを採用したことによって歯周病治療のスピードが明らかに早くなりました。

ペリオナビは、BOPやPCR、歯周ポケット炎症面積の「PISA」などのデータが自動計算されるので、すぐに患者さんにお伝えできるところがいいです。
(参照:歯周炎の歯周組織炎症を簡便に評価する”PISA”について-特定非営利法人 日本歯周病学会

特にPISAは、炎症の度合を面積で表しているので、患者さんにとってもわかりやすいようで、私はその大きさを「おはじき」を使って説明しています。

また、データは印刷が可能で、当日の結果をすぐに患者さんにお渡しできるため、お家に帰って見直してもらえて。資料には出血のポイントも記載されているので、それを見ながら注意して磨いていただけるんですよね。

当院の患者さんの中には15〜16年も通われている方もいますが、患者さん自身が数値を把握していらっしゃるんですよね。

「今日、何パーセントだった!?」と、ユニットが上がるよりも先に身体を起こして聞いてこられたり。

「今日〇〇パーセントを狙ってきたから!」と言われるくらい、患者さんの指標になっていて、生活の中に浸透しているデータなんですよね。

ペリオナビは歯周病と唾液、口腔機能、糖尿病の検査データも一元的に管理でき、医科歯科連携に不可欠です。

そして、もっとも助かっているのはペリオボイス(音声入力機能)です。検査と記録が一人で楽に衛生的にできます。

もう10年間使っていますが、これがないと診療が進まない必須アイテムです。

ペリオナビの音声入力機能で検査と記録を一度に行っている様子

同じく、ライオンのSMT(多項目・短時間唾液検査システム Salivary Multi Test)も必須のアイテムです。

開発段階から携わっていますが、SMTは歯周病治療の成果がデータにはっきり表れます。

だ液中のむし歯菌や酸性度の数値などは、患者さんの努力そのものが結果として出てくる。

SMTのデータ

※ 現在、SMTは測定項目として潜血を除く6項目品が販売されています

明らかな改善データが出ることで、患者さんの信頼を得ることができるんです。

ペリナビとSMTの2つは、私の歯周病治療の最強パートナーといえるでしょう。

後輩歯科衛生士へのメッセージ

医科歯科連携診療に興味を持つ、歯周病治療のエキスパートが増えたら嬉しいです。

歯科衛生士も医療人であるという自覚を持って、知識や技術のブラッシュアップを止めずに、歯科衛生士であるからには前進し医療人として信頼される存在になっていただけたらいいと思います。

多くの糖尿病患者さんは、歯周病の炎症を早く止めてほしいと願っています。

ぜひともそのニーズに応えられる治療技術と療養指導センスを身につけていただけたら、歯科衛生士の社会的な地位も、今以上に向上していくと信じています。

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