歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?
歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。
ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?
「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。
このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!
さまざまな器具によるセメント質の喪失量を研究した論文
今回解説するのはこちらの論文です。
さまざまな器具でスケーリングを行う際のセメント質の喪失についての生体外研究
『Journal of Clinical Periodontology』
歯周治療に関するさまざまな書籍や出版物でよく取り上げられる、有名な論文。
この研究では、ハンドキュレット、超音波スケーラー、エアスケーラー、ダイヤモンドバーの4種類のインスツルメンテーションによって、削れてしまうセメント質の量を調べています。
どんな方法で調べている?
下顎切歯90本の唇側面、舌側面、近心面、遠心面のそれぞれ4面、計360面において、臨床的に適切な力で12回器具をウォーキングストロークさせました。
その後、特殊な測定器によって、セメント質の喪失量を測定しました。
もっともセメント質が残っていたのは?!
この研究の測定結果によると、それぞれの器具によるセメント質の喪失量は以下の通りでした。
エアスケーラー 93.5μm
キュレット 108.9μm
ダイヤモンドバー 118.7μm
よって、この4つの器具の中では、超音波スケーラーを使用したときが、もっともセメント質が残っていたという結果でした。
この研究に対する考察
今回の研究結果で、注目したいポイントは、2つあります。
1つ目は、超音波スケーラーとエアスケーラーとでは、セメント質の喪失量が大きく異なる ことです。
メーカーによって差はありますが、超音波スケーラーは約20,000〜60,000ヘルツの振動数で動作するのに対して、エアスケーラーは約2,000〜6,000ヘルツで動作します。
ただし、どちらも出力の調整が可能なので、本来ならどれくらいの振動数でストロークさせたかを比較しなければいけません。
要約には記載がありませんが、仮にエアスケーラーの最大出力と超音波スケーラーの最小出力で比較していたとしても、振動数としては超音波スケーラーの方が大きいはずです。
それでもこれだけのセメント質の喪失量に差が出るということは、エアスケーラーでむやみやたらに歯肉縁下のスケーリングを行うことは、少し危険かもしれません。
2つ目は、キュレットとダイヤモンドバーとでは、セメント質の喪失量がほとんど変わらないことです。
つまり、私たちが普段キュレットで行っているSRPは、ダイヤモンドバーで歯牙を切削したときと同じくらいのセメント質を削っていることになります。
より少ないダメージでルートプレーニングやデブライドメントを行えるよう、オーバートリートメントにはくれぐれも注意する必要があります。
セメント質の厚みは、歯頚部付近で20~50μm、歯根部付近では150μmです。そのため、厚みが薄い歯頸部付近での操作には、とくに注意しましょう。
いかがでしたか?
毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。
自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです!
参考文献:Luca Ritz, Arthur F. Hefti, Klaus H. Rateitschak(1991)「An in vitro investigation on the loss of root substance in scaling with various instruments」『Journal of Clinical Periodontology』1991 Oct;18(9):643-7. John Wiley & Sons Ltd
沼部幸博・貴島佐和子・土屋和子編著(2014)『歯周病を治すSRP できる歯科衛生士のスキルと知識』医歯薬出版.
歯科衛生士向けおすすめ論文
No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」
No.2「ストレートVSアングル どっちの歯間ブラシを使うべき?」
No.3「スケーリングで削られてしまうセメント質はどれくらい?」