患者さんのYesを引き出す!歯科医院で使えるロジカルシンキング講座 Lesson.2 相手に期待する反応について考えよう

みなさんは「ロジカルシンキング」や「論理的思考」という言葉を聞いたことがありますか?

近年、これらに関連するさまざまな書籍が販売されており、本屋さんのビジネス書コーナーや電車の広告などで見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。

ただどちらかというと「一般企業に勤めるビジネスパーソンがもつべき考え方」といったイメージで、歯科医療従事者である私たちにはあまり縁がないと感じている方もいるかもしれません。

しかしこの考え方は、円滑なコミュニケーションをとる上で非常に重要なポイントをいくつもおさえています!

前回は、コミュニケーションとは「メッセージのキャッチボールをすること」であり、メッセージを構成する要素は3つあるということをお伝えしました。

前回の記事はこちら

Lesson.1 課題やテーマを明確にしよう

前回お伝えしたメッセージを構成する要素「課題」に引き続き、今回は「相手に期待する反応」について解説します。

相手に期待する反応をわかりやすく伝える

課題やテーマが明確になれば、次は「自分が相手に期待する反応は何か」ということを考えます。

相手に期待する反応には、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。

  1. 相手に「理解」してもらう
  2. 相手に「意見やアドバイス、感想などをフィードバック」してもらう
  3. 相手に「行動」してもらう

① は、相手に内容を理解してもらうだけでOKといった、業務連絡や事務連絡を行いたい場合のことを指し、② は、説明した内容について、相手から賛成なのか反対なのか、またはどうしたいかという意見を引き出す場合のことを指します。
③ については、自分が相手に何かを伝えた上で、相手に何らかの行動をしてもらいたい場合のことを指します。

たとえば歯科では、① はアポイントの日時を伝える場合、②は治療方針を相談する場合、③ は口腔衛生指導を行う場合などに当てはめて考えることができます。

それぞれの項目について詳しく解説していきます。

① 相手に「理解」してもらう

① は、以下のように、ただ患者さんに理解してもらうだけで良い、事務的な連絡のことを指します。

歯科衛生士
次回のご予約は、○月○日○曜日、○時からお取りしています。
患者さん
はい、わかりました。

別パターンとしては、患者さんの口腔内に不適合補綴物や症状のない根尖病巣があり、今すぐ治療する必要はないが、後々治療した方が良い部位として認識しておいてもらいたい場合などにも当てはまります。

ただしこの場合、患者さんにとって重要な問題として認識してもらうことがむずかしかったり、かえって患者さんの不安をあおってしまったりする可能性も考えられます。

不安になりやすい患者さんには、信頼関係がある程度構築できてから説明するなど、患者さんの特性に合わせて対応しましょう。

② 相手に「意見やアドバイス、感想などをフィードバック」してもらう

次に、 ② を患者さんと治療方針を相談する場合に当てはめて考えてみます。以下の2つではどちらの方が患者さんにとって親切な説明でしょうか?

欠損部位の治療について

パターン1
この部位には、ブリッジかインプラント、義歯といった治療方法があります。○○さんのご希望はありますか?
パターン2
この部位には、ブリッジかインプラント、義歯といった治療方法があり、それぞれの費用やメリット、デメリットは〜〜です。○○さんの年齢や残っている歯の負担を考えると、インプラントがベストかと思います。ただ、費用面についてご心配であれば、保険治療のブリッジや義歯をおすすめします。まずは、今後インプラント治療も視野に入れて考えたていきたいかどうかについて、教えていただけますか?

言うまでもないですが、パターン2の方が患者さんにとって答えやすい説明ですよね。

インターネットが普及した現在、「この治療にしてほしい!」と自ら治療方法を希望する患者さんは確かに増えています。

しかし患者さんの中には、「先生がベストと思う治療にしてもらいたい」という方や、「どれが良いかよくわからないから、いちばんお金がかからない方法にしたい」という方もまだまだたくさんいます。

私たち歯科医療従事者は、患者さんからの同意を得られなければ、あらゆる治療を行うことができません。どんな患者さんであっても正しい情報提供を行い、治療に対する同意を得る必要があります。

そのため、まずは「今後の治療について○○さんのお考えをお聞きしたいのですが…」と前置きした上で、患者さんが「どう答えるべきか」をすぐに理解でき、返答に困らないような質問をすると、よりこちらのメッセージが伝わりやすくなるのではないかと思います。

他にも「○○さんは、インプラント治療についてどのようなイメージをおもちですか?」や、「費用面についてはどのようにお考えですか?」といった質問も、相手が答えやすい聞き方ですよね。

私は、① 〜 ③ の中でも ② は特に、相手に期待する反応を明確にして伝える必要があると考えています。

③ 相手に「行動」してもらう

最後は ③ について。

私たちが口腔衛生指導を行う時、「ここは歯間ブラシを使って磨いてください」「できるだけ甘いものは控えてください」などと伝えているかと思います。

確かにそう伝えるだけでも、実際に行動してくれる患者さんはいますが、指導する内容に加えて、「おうちでも歯間ブラシ使えそうですか?」「まずは週の半分、甘いもの我慢することってできますか?」というように、実際の行動についてできるかできないかを、患者さんに答えてもらうことで、より行動に移してもらいやすくなることもあります。

ただ単に行動を促すだけでなく、患者さんがどう行動するかイメージしやすくなるような提案ができると、こちらの意図がより伝わるのかもしれません。

このように、相手に期待する反応をわかりやすく伝えることは、コミュニケーションをとる上で非常に重要なポイントです。

まずはメッセージを伝える自分自身が、相手に期待する反応を明確にしてから話すようにしましょう!

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普段仕事をする中で、何気なくとっているコミュニケーション。

しかし深掘りしてみると、改善できるポイントがたくさんあることに気づきます。

患者さんだけでなく、一緒に働くスタッフとのコミュニケーションにおいても、ぜひロジカルシンキングの知識を応用してみてください!

次回はメッセージを構成する要素の3つ目「答え」について解説します。

参考文献:照屋華子, 岡田恵子(2001)『ロジカルシンキング〜論理的な思考と構成のスキル〜』東洋経済新報社

歯科医院で使えるロジカルシンキング講座

Lesson.1 課題やテーマを明確にしよう
Lesson.2 相手に期待する反応について考えよう