みなさんこんにちは!歯科衛生士の中村麻智子と申します。
この連載では、フィリピン共和国への留学で経験した歯科保健指導についてお伝えします。
国際協力や発展途上国支援、海外における歯科保健活動に興味のある歯科医療従事者の方をはじめ、海外に興味のない方でも、世界の現状を知る機会にしていただけると嬉しいです。
前回まではこちら
vol.1 〜留学したきっかけ〜
vol.2 〜留学生活と、はじめての歯科保健指導〜
私はフィリピンではじめて行った歯科保健指導で、少女の口腔内の状況(前回参照)を目の当たりにして、大変驚きました。なぜなら、日本の臨床の現場では見たことのない状況だったからです。日本の場合、ネグレクトで通報というレベルでしょうか。
それほど、乳歯、永久歯ともに歯冠が崩壊しており、これで満足に食事ができているのだろうか、夜は痛みなく眠れているのだろうかと、疑問に思うほどでした。
少女に出会ったときには、短い留学期間ではあるけれど、限られた時間の中で私にできる最大限のことをしようと心に決め、気が付けば、近くのドラッグストアで歯ブラシを手に入れ、即席で歯科保健指導をしていました。
しかし、しばらくして、「この子どもたちの口腔内の環境を、地域の歯科医療従事者はどう思っているのだろうか?歯科医療関係者は責任を感じていないのだろうか。」と、素朴な疑問が浮かんできました。
そして、フィリピンではどんな感じで歯科治療をしているのだろう?と興味がわき、たまたま立ち寄ったショッピングモールに入っていた歯科医院に立ち寄ってみました。
フィリピンの歯科医院を訪問して
「こんにちは!はじめまして。歯医者さんがあったのできてみました!私は日本の歯科衛生士です」と言って入ってみると、そこにはその日の治療を終えた院長のレティシア先生がいらっしゃいました。
さすがはフィリピンの国民性です!突然訪問してきた外国人にもかかわらず、笑顔で迎えてくれました!
私は、Wi-Fiを持たずにフィリピンにきていたので、単語の調べようがなく、わかる範囲の英語で必死に話しました。
そうするとどうやら一般歯科医院ではなく、矯正専門の歯科医院ということが分かりました。あとで知ったのですが、このショッピングモールの中には、いくつか歯科医院が入っており、そのほとんどは矯正専門歯科医院でした。
私は直近まで英語診療もしている歯周病専門医の元で働いていたので、「私は歯周病をがんばってきた」ことと、「ステップアップするために語学留学でこの街にきた」ことを話しました。
フィリピンの歯科保健事情
現在、フィリピンでは矯正がすごく流行っています。語学学校の先生とは私の職業柄、よく歯科保健について話をしました。時間的にハードなカリキュラムだったので実施にはいたりませんでしたが、学校職員を対象に、歯科保健の講座をしてほしいという案もでていました。
語学学校の先生も、矯正をしている方が多かったです。しかし、矯正のための抜歯というよりは、カリエスが進行したために永久歯を抜歯せざるを得ず、結果、広く開いた隙間を矯正で調整しているような感じでした。
矯正をしていない先生方も、見た感じではありますが、歯が揃っている方は本当に少なかったです。前歯はあるけれど、小臼歯や大臼歯は残根のまま放置してあったり、抜いたままという方が多くいました。
フィリピンでは「乳歯は生え変わるからむし歯になってもいい」という認識を家族から教わるそうです。
また、両親が共働きや出稼ぎにでていることが多く、保育所も3歳からしか入れません。その間は祖母が子どもをみており、甘いものが大好きな国民性も相まって、安価であるお菓子を与えることが多いそうです。
こういった文化のため、語学学校の近所に住む2歳の男の子と会うことがありましたが、全体的に大きなカリエスはないものの、脱灰が著しい状況でした。この子はお母さんが面倒をみていたためか、これでも口腔内の環境はいい方でした。
反対に状態が悪い子の場合は、同じ2歳児でも、乳歯全体がすでにランパントカリエスでした。
その子とはナイトマーケットという深夜に開催される市場で出会ったのですが、店番をしている保護者の代わりに、兄弟が子守をしており、遅い時間にも関わらず眠っていない状況でした。規則正しい生活ができていないのかもしれません。
同じ年齢の子でも生活環境によって口腔内に大きな差があり、その格差を肌で感じました。
フィリピンの歯科医院事情
はじめてフィリピンの歯科医院に訪問し、歯科医師と話したとき、矯正歯科だから当然かもしれませんが「一般的な歯科治療はしない」とおっしゃっていました。
日本ではひとつのクリニックに何台もチェアがある歯科医院が多いですが、フィリピンではひとつのクリニックにつきチェア1台、歯科医師1人が一般的でした。そのためか、フィリピンでは歯科医師はすごく儲かる職業と言われていました。
また、フィリピンには「歯科衛生士」という職業自体が存在しません。基本的に歯科助手、受付も在籍しません。受付は、クリニックを経営している院長の子どもたちが担当しています。
そして、フィリピンの文化だと思いますが、患者さんは事前に予約を取るのではなく、診療室で待つことが普通のようです。
仲良くなった歯科医師は非常に熱心なクリスチャンでした。
日本では基本的に患者さんを待たせてはいけないイメージがありますが、先生がお祈りのイベントに行っていて遅れていても、患者さんはまったく怒っている様子はなく、先生の帰りを待っていました。
むしろ、待っている患者さんたちにも私のこと紹介してくれて、世間話を一緒にして、最後は写真を撮るといったこともありました。
わたしは時折、この歯科医院に立ち寄ることが増え、娘さんから発音練習を受けたり、私のやってきた歯周病の話がもっとできるように歯周病の先生を紹介しようかと声をかけてくれたこともありました。
外国からきた歯科衛生士の私を受け入れて仲良くしていただき、とてもうれしかったです。
日本とフィリピンにおける「歯科医療」の違い
昨今の日本では予防歯科が重視され、かかりつけ歯科医院や定期メンテナンスに重きがおかれていますが、フィリピンでは矯正治療が安価で受けられるためか、まずは見た目の治療の人気が高いように感じました。
その後、もう一軒の歯科医院にもたずねてみましたが、そこでも同じように矯正治療が人気のようで、地域の歯科医療関係者の間では、あまり地域歯科保健に関心が向いていないと感じました。
こうした背景から、語学学校の先生にも相談し、「草の根活動が必要だ!まずは近所の子どもたちの歯科保健指導をやってみよう!」という思いにいたりました。
次回は、実際に近所の子どもたちに歯科保健指導を行うまでをお話しします。
海外における歯科保健指導 in フィリピン
vol.1 〜留学したきっかけ〜
vol.2 〜留学生活と、はじめての歯科保健指導〜
vol.3 〜フィリピンの歯科事情〜