みなさまこんにちは、柏井伸子です。
本シリーズでは、全身疾患と口腔領域との関連性について考えています。
口腔も全身の中の一器官であると考えると、一生懸命にプラークコントロールを続けているにもかかわらず、状態が改善されない患者さんには、多角的アプローチが必要です。
今回は口腔領域への骨粗しょう症の影響と予防業務についてお伝えいたします。
第4回 口腔領域への骨粗しょう症の影響と予防業務
日本人女性の多くが閉経後のホルモンバランスの変化に際し、骨粗しょう症のリスクを抱えています。
そして現在、日本国内において骨粗しょう症と診断されている患者さんは約630万人とされています*1。
通常、骨折のリスク判定には、骨密度を用います。
骨密度の測定方法には、腰椎部や大腿骨近位部におけるDXA法(二重X線エネルギー吸収法:Dual energy X-ray Absorptiometry) や、踵骨におけるQUS法(定量的超音波測定法:Quantitative Ultrasound)があり*2、筆者も1年に1回は定期的に測定するようにしています。
また、骨強度とは「骨密度」と「骨質(骨の材質・微細構造・リモデリングの速度などの代謝回転)」を加味した指標であり、特に骨密度に大きく左右されます。
日本骨粗鬆症学会が発行する『生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド2019』によると、近年では、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病との関連に由来する骨折が懸念されているといいます。
その原因として、体内の糖化や酸化によるストレスの蓄積が挙げられています*3。
本シリーズの第2回で糖尿病を取り上げましたが、近年では、メタボリックシンドロームの元凶とされる肥満や、それによる炎症性サイトカインの放出に、歯周病が連動していることが分かってきています*4。
第2回はこちら
さらに、今回の骨粗しょう症についても、歯周病との関連性が明らかになってきています。
では、骨粗しょう症と口腔領域との関連性について考えてみましょう。
骨粗しょう症の治療法と歯科治療における注意点
骨粗しょう症とは、骨強度の低下によって骨がもろくなり骨折しやすくなる骨疾患。主に閉経や加齢が原因の「原発性骨粗しょう症」と、その他の要因による「続発性骨粗しょう症」に分類されます。
治療法にはカルシウム・ビタミンD・ビタミンKを多く摂取する食事療法、歩行やストレッチなどによる運動療法、そして服用による薬物療法があります*3。
薬物療法に使用される薬剤には、主に次のようなものがあります。
- 活性型ビタミンD3製剤
- ビタミンK2製剤
- 抗RANKL抗体製剤
- エストロゲン製剤
- ビスホスホネート製剤(BP製剤)
骨芽細胞に作用する骨形成促進薬として、「活性型ビタミンD3製剤」・「ビタミンK2製剤」などがあります。
さらに近年汎用されるようになりつつあるものに、「抗RANKL抗体製剤(デノスマブ)」があります。
これは、破骨細胞分化促進因子であるRANKLリガンド(RANKL)を阻害して骨吸収を抑制することで、骨密度を高めるように作用します。
BP製剤は、骨吸収抑制薬として破骨細胞に作用しています。薬が骨に蓄積されることで骨ハイドロキシアパタイトと結合して取り込まれ、破骨細胞を細胞死に導き、骨吸収を抑制します。
骨折予防という目的からも、整形外科領域で処方されるBP製剤ですが、歯科においては服用患者さんに対して抜歯などの外科処置を行うことにより、顎骨が壊死するという「BRONJ(BP Related Osseo Necrosis Jaw)」を引き起こすことが懸念されています。
また、「ボナロン錠」や「ベネット錠」、「ボノテオ錠」、「アクトネル錠」などのBP製剤に加え、「ランマーク」や「プラリア」というデノスマブによっても顎骨壊死が生じるとされており、Medication(薬剤)由来のBRONJということから、「MRONJ」と総称されています。
歯科における骨粗しょう症患者さんへの対応
では、症例をご紹介します。
患者さんは79歳女性非喫煙者で、全身疾患として高血圧症に加え骨粗しょう症という診断を受けています。
そのため、活性型ビタミンD製剤のエルデカルシトールとBP製剤のアレンドロン酸サワイが処方されており、それぞれの薬剤の影響を受け、口渇や顎骨壊死のリスクが生じています。
実際に拝見すると口渇が懸念されたため聞き取りを行うと、就寝中にかなり口が乾くということから、就寝前に保湿剤としてライオン歯科材製 アクアバランスをスプレーすることをおすすめしました。
歯周病はかなり進行していますが、上顎臼歯部には局部床義歯、下顎臼歯部にはインプラント治療がなされており、メインテナンスを継続中です。
まとめ
今回で本シリーズが終了となります。
これまでお伝えしてきたように、全身疾患とそれに伴う薬物療法においては、口腔領域の状態と関連したり影響が生じることが分かってきました。
しかしながら、その関連性をイメージしない患者さんもいらっしゃり、歯科受診の際に自主的に既往歴や身体の状況をお話しいただけないこともあります。
そのため、来院時にはかならずおくすり手帳を確認し、全身の治療経過や現状について確認することが重要です。
情報収集や知識を深め、ヘルスケアプロバイダーとして健康増進を支えていきましょう。
参考文献:
*1 平成29年 患者調査(傷病分類編)-厚生労働省
*2 荒井秀典著(2019年)『介護予防ガイド』国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター.
*3 杉本利嗣著(2019年)『生活習慣病骨折リスクに関する診療ガイド2019年版』一般社団法人 日本骨粗鬆症学会.
*4 医療情報科学研究所 編集(2019年)『病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌』メディックメディア.
全身疾患とDHワーク
第1回 歯周病の病因論と全身疾患のかかわり
第2回 歯周病と糖尿病の関連性
第3回 口腔領域への高血圧症の影響と予防業務
第4回 口腔領域への骨粗しょう症の影響と予防業務