dStyleではじめるインプラント基礎講座 第1回 インプラント治療への第一歩

こんにちは!歯科医師の遠藤眞次です。

みなさんはインプラント治療にどんなイメージをおもちですか?

「横文字の専門用語ばっかり」、「オペ中の術野が全然見えない」、「器材が多すぎる」…。インプラント治療に携わる方なら、一度は思ったことがあるかもしれません。

本連載では、そんなみなさんのモヤモヤを解消する、インプラントの基礎知識を6回に分けてわかりやすく解説します。

その記念すべき第1回は、基礎の基礎から知りたい方に向けた、「インプラント治療への第一歩」。誰にでも一歩目があります。私は今でも初めてインプラントを埋入した日のことを覚えています。

そしてその埋入手術のために、何を言っているのかわからない大量の横文字(カスタムアバットメント、サブジンジバルカントゥア、etc…)を必死に調べました。

インプラント治療への第一歩

当時の私と同じ悩みをもつ方に、この連載を通してインプラント治療を少しでも身近なものに感じていただければ嬉しいです。

[目次]

1.インプラント治療を学ぶメリット
① 就職に有利!?
② 臨床の楽しみが増える
③ 患者さんの笑顔に出会える

2.インプラント治療とは
① 欠損補綴について
② 欠損補綴治療におけるインプラント
③ 世間でのインプラントに対する認識

3.インプラント治療のメリット

4.インプラント治療のデメリット

インプラント治療を学ぶメリット

インプラント治療に詳しくなると、たくさんのメリットがあります。

ここではメリットを3つほど挙げてみました。

  1. 就職に有利?!
  2. 臨床の楽しみが増える
  3. 患者さんの笑顔に出会える

それぞれ見ていきましょう!

① 就職に有利?!

就活の際に、インプラント治療に携わった経験を聞かれたことがある方もいるのではないでしょうか。

治療内容に精通しているスタッフは、クリニックにとって貴重な存在です。とくにインプラント治療をはじめとする外科治療には、むずかしいイメージがあり敬遠されがちです。

だからこそインプラント治療に詳しいスタッフは、歯科医師にとって頼れるパートナーになってくれると思っています。

就職に有利?!

② 臨床の楽しみが増える

「インプラント治療」と聞くとむずかしく感じるかもしれませんが、それがわかった時には歯科治療の楽しさが倍増します

私もインプラント治療を臨床に取り入れたことで、治療の幅が広がり、患者さん一人ひとりに合った歯科医療を提供することができるようになりました

③ 患者さんの笑顔に出会える

インプラント治療では咀嚼機能の大幅な改善が認められるケースがたくさんあります。また、臨在歯を削合したくない患者さんにとっては魅力的な治療です。

インプラント治療を受けた患者さんに「インプラントをやって良かった!」と言っていただくことは非常に多いです。

臨床のモチベーションを上げてくれるいちばんの出来事は、「患者さんからの感謝の言葉」。歯科医療従事者になって良かったと心から思える瞬間ではないでしょうか。

インプラント治療とは

欠損補綴治療について

失われた歯に対して、その形態、機能、審美性を回復する治療のことを「欠損補綴治療」といいます。欠損補綴治療で用いる欠損補綴装置には、「インプラント」「ブリッジ」「義歯」があります。

つまり、歯がないところを何かで補う治療方法のことを指します。

欠損補綴装置
各欠損補綴装置の構造

欠損補綴治療におけるインプラント

欠損補綴治療の中でもインプラント治療は、「第二の永久歯」ともよばれるインプラントを用いて欠損部を補います。

顎骨の中にインプラント体を埋入し、アバットメントを介して、その上に上部構造を装着します。

インプラントの詳しい構造については次回解説しますので、今回は「インプラント体」「アバットメント」「上部構造」の3つがインプラントを構成する基本的なパーツだということだけ覚えておいてください。

インプラントを構成する3つのパーツ
インプラントを構成する3つのパーツ

世間でのインプラントに対する認識

世間でインプラントをまったく知らない人はわずか約5%であり*1、認知度の高い欠損補綴治療であることがわかります。

平成28年度の調査によると、65歳以上かつ欠損補綴治療を受けている方のうち、約4.5%がインプラント治療を選択しているようです*2

4.5%を多いと捉えるかは人それぞれですが、日々の診療でもすでにインプラント治療を受けている方を診察する機会は少なくありません。

まとめると、「インプラント治療とは欠損補綴治療の一つであり、世間での認知度が高く、インプラント治療をすでに受けている方も一定数いる」ということがわかります。

インプラント治療のメリット

どんな治療にもメリットとデメリットがあります。

まずは、インプラント治療のメリットについてお伝えします。

  • 臨在歯を削る必要がない
  • 周囲の歯に過剰な負担をかけない
  • 天然歯に近い咬合力を発揮できる
  • 義歯と比べ異物感が少ない
  • 寿命(生存率)が長い

インプラント治療はブリッジや義歯による欠損補綴治療とは異なり、天然歯に支持を求めることがありません。そのため、他の欠損補綴治療と比べ、隣在歯に与える悪影響が少ないことがわかっています。

義歯と比べると、天然歯に近い咬合力を示し、装着時の違和感もほとんどありません。

となると、次に気になるのは「インプラントが長持ちするのかどうか」。

インプラントって長持ちするの?

インプラントがどれくらい長持ちするのかは、患者さんにとって知りたいことの一つだと思います。インプラントは、他の欠損補綴治療と比べ生存率が高い治療方法であることがわかっています。

さまざまなデータがありますが、日本人を対象としたインプラントの上部構造の10年生存率は94.0%。一方で、ブリッジの10年生存率は54.1%とするデータ*3があります。患者さんの状況にもよるため一概には言えませんが、決して生存率が低い治療ではないことは間違いありません

インプラント治療のデメリット

メリットが多い一方で、インプラント治療にはデメリットもあります。

  • 治療費用が高額になる
  • 外科手術が必要になる
  • 治療期間がかかる

インプラント治療は一部の例外を除き自由診療となるため、治療費が高額になる場合がほとんどです。相場としては、1本あたり30〜60万円程度。大きく顎骨が失われていると、さらに治療費が高くなる傾向があります。

また、ブリッジと義歯では基本的に外科手術を伴わないのに対し、インプラント治療では外科手術が必要となります。しかし、インプラント手術が歯周外科手術などの他の外科手術と比べ、特別に侵襲が大きいわけではないこともわかっています。

インプラント治療のデメリット

治療期間についてはすべてのケースで長期間におよぶわけではなく、ケースによって2ヶ月〜1年ほどの幅があります。

実際には、インプラント治療の間で他の歯の治療を行う場合が多いため、治療期間が長いことによるデメリットはあまりないように感じます。また、治療期間が長くても、頻回な通院は必要ない場合が多いです。

まだまだ続きます!インプラント基礎講座

今回は「インプラント治療への第一歩」として、インプラント治療の概要をお伝えしました。

次回は「インプラントの構造と仕組み」についてお送りします。お楽しみに!

参考文献:
*1 教えて、インプラント治療ってなに-公益社団法人日本口腔インプラント学会
*2 平成28年歯科疾患実態調査-厚生労働省
*3 三野卓哉, 小田師巳, 園山亘, 窪木拓男.日本人を対象とした過去20年間の口腔インプラント治療の臨床成績に関するシステマティックレビュー. Quintessence Dental Implantology 2018:25 号;0746-0757. クインテッセンス出版株式会社