根強いファンも多いスケーラー「グレーシィーキュレットミニ」の工場見学レポート

麻布東京デンタルクリニックの歯科衛生士の塚原桜です。

7月15日、歯科用インスツルメントを製作している菅原歯科精器工業さんの工場見学に行ってきました。

有限会社菅原歯科精器工業さんの公式HPはこちら

歯科衛生士の皆さん、皆さんには“推し”のスケーラーはありますか?

例えばキュレットスケーラー一つをとっても、さまざまなメーカーから色々なタイプが販売されています。

当院のスケーラーボックスにも、たくさんのスケーラーがあります。

当院のスケーラーボックス
当院のスケーラーボックス

中でも私の最近の“推し”は、菅原歯科精器工業さんのグレーシィーキュレットミニのスケーラーです。

今回は、このグレーシィーキュレットミニの製造工程を見学させていただき、その魅力に迫りました。

菅原歯科精器工業 グレーシィーキュレットミニ
菅原歯科精器工業 グレーシィーキュレットミニ

絶妙な細さ・長さ・切れ味を備えたグレーシィーキュレットミニ

皆さんは、こんな経験をしたことはありませんか?

  • ミニタイプのキュレットスケーラーは深い歯周ポケットの深部に挿入しやすいが、あともう少し刃の長さがほしい
  • キュレットスケーラーは、しばらく使用してシャープニングを繰り返し、細くなってきた頃が使いやすい
  • 自分でシャープニングをすると切れ味が鈍くなってしまう気がする

これらの悩みを解決してくれるのが、菅原歯科精器工業さんのグレーシィーキュレットミニのスケーラーです。

その魅力は何と言っても刃部の細さと絶妙な長さ、そして鋭い切れ味です。

今回の工場見学のきっかけは、クリニックで菅原歯科精器工業さんのキュレットスケーラーを新調したことです。

注文して届いたキュレットスケーラーの刃部の幅が、これまで使用していたものと比べて太くなっていたのです。菅原歯科精器工業さんに問い合わせてみると、刃部の幅を太く変更したとのことでした。

「あの刃部の幅が細いキュレットスケーラーのファンなんです。もう一度作っていただけませんか?」と無理をお願いしたところ、特別に作ってくださることになったのです。

そこで、ぜひスケーラーの製造工程を見せてくださいとお願いし、今回の工場見学が実現しました。

根強いファンも多い菅原歯科精器工業のインスツルメントの秘密とは?

菅原歯科精器工業さんではさまざまな歯科用インスツルメントを製造、販売されています。

そのほとんどすべての製造工程を荒川区の小さな工場で、二代目社長の菅原明さんとそのご子息の菅原崇弘さんとで行っているのです。

有限会社菅原歯科精器工業 菅原崇弘さん(左)と、社長の菅原明さん(右)
有限会社菅原歯科精器工業 菅原崇弘さん(左)と、社長の菅原明さん(右)

菅原社長は中学卒業後から、もう60年以上歯科用インスツルメントの製造に携わっているといいます。

中学を卒業後に福島県から上京し、株式会社上島歯科製作所に勤めた菅原社長は、当時の会社の先輩である先代社長と菅原歯科精器工業を創業されました。工場にある機械のほとんどは、先代と菅原社長とで改造されたものだそうです。

菅原歯科精器工業さんのブランド「DAGOOL」の由来は、先代が好きだった、ドイツのカメラメーカーのレンズの名前からきているそうです。

同社のスケーラーに刻まれた「DAGOOL(DGL)」のロゴも、出来上がったインスツルメント1本1本に手作業で刻印されています。

インスツルメントにロゴを刻印しているところ
インスツルメントにロゴを刻印しているところ

社長のご子息である菅原崇弘さんは、一度印刷メーカーに就職した後、菅原歯科精器工業の仕事を手伝うようになったそうです。

たとえば紙などの印刷物は部数が多ければ多いほどコストが安くなります。

ですが菅原歯科精器工業のインスツルメントは、ほとんどの工程をお二人が手作業で行っており、いわばハンドメイドであるため、そうはいかないとおっしゃっていました。

大量生産されたコンビニのお弁当も美味しいかもしれませんが、手間暇かけて心を込めて作られたお母さんのご飯はもっと美味しく感じますよね。

どんなものでも心が込められたものは、気持ちが伝わってくるものです。

グレーシィーキュレットミニができるまでの製造工程

キュレットスケーラー1本が出来上がるまでには、10以上もの工程があるといいます。

まず、ステンレスの細長い棒をシャンクの長さに切断していきます。ステンレスはそれぞれのインスツルメントに適したものが使用されますが、グレーシィーキュレットミニにはとても硬いステンレスが使われているということです。

この硬さが、鋭い切れ味につながっているのだと思います。

ステンレスを1本1本シャンクの長さに切断する
ステンレスを1本1本シャンクの長さに切断する

シャンクを切断した後は、別の機械を用いて細さを調節し、第一シャンク第二シャンクと屈曲を一つずつ付けていきます。その後、刃の形が作られ、焼戻しやさび止めの工程を経て、いよいよ刃付けの工程です。

このキュレットスケーラーの刃部の幅の細さと長さは、先代と菅原社長とで研究を重ねられた、菅原歯科精器工業オリジナルだそうです。

グレーシィーキュレットのレギュラータイプの刃部の幅が大体約0.8mmであるのに対し、ミニタイプの細いものは約0.6mm。驚いたことに、これを目測で調整されているというのです!

熟練の経験があるため、1本1本測るよりも、目測の方がかえって正確なのだとか。これぞまさに職人技ですね。

形成されたスケーラーに刃付けを行う
切断したシャンクの細さを調整する

また、何と言ってもこのキュレットスケーラーの良さは、刃部の絶妙な長さにあります。

一般的なミニタイプのスケーラーよりも、少し長めに設計されています。そして、特殊な削り方で、刃が施されています。これは菅原歯科精器工業さんの企業秘密です。

他社製品(左)とグレーシィキュレットミニ(右)のブレードの比較
他社製品(左)とグレーシィキュレットミニ(右)のブレードの比較

この特殊な削り方により独特の切れ味の良さが生まれ、私たち歯科衛生士がシャープニングを行った後でも、切れ味をキープすることができるのです!

いつまでも同じ切れ味で施術が行えることはありがたいですよね。

ハンドメイドならではの使い勝手の良さを感じました。

まとめ

菅原歯科精器工業さんは小さな町工場ではありますが、菅原社長からもご子息からもこの歴史ある工場で誇りを持って歯科用インスツルメントを作製していることが、ひしひしと伝わってきました。

今回の工場見学を通して、この技術は絶やしてほしくない、ぜひ後世に繋いでほしいと思いました。

実は今回、工場見学でお伝えした私たちの熱い要望により、グレーシィーキュレットミニの幅を、細いタイプに戻して販売することになったそうです。

前述したように、「ミニタイプのキュレットスケーラーは深い歯周ポケットの深部に挿入しやすいが、あともう少し刃の長さがほしい」。このような場合に使いやすいのが、菅原歯科精器工業さんのグレーシィーキュレットミニです。

私は定期メンテナンス時のデブライトメントにもよく使用しています。

健康な薄い歯肉辺縁もこの刃部の幅であれば無理なく挿入が可能ですし、刃部の長さが絶妙で歯肉縁上にも縁下にもアプローチしやすいです。痒いところに手が届く、そんなキュレットスケーラーです。

そして鋭い切れ味により、歯面をできるだけ傷つけずに歯石やプラークを除去することができます。

確かに、大きくて硬い縁下歯石を除去したい時などには物足りなさを感じることがあると思います。そんな時はレギュラータイプのキュレットスケーラーを選択し、使い分けるのが良いのではないでしょうか。

SRPの上達には技術習得がもちろん大切ですが、適材適所という言葉があるように、症例や歯肉の状態に合ったスケーラー選びも重要だと、改めて感じました。

今回ご好意で、特別に「SAKURA」と私の名前をハンドルに入れていただきました。ずっと宝物にしたいと思います。

工場を見学させていただきました、菅原歯科精器工業の菅原明さん、菅原崇弘さん、ありがとうございました。