歯科医院の“歯周基本治療力”をアップしよう! 第1回 「根面探知」編

歯周外科にてフラップを開いたときや抜去歯を見たとき、「こんなところに歯石が残っている」と驚かれることが多々あると思います。

たとえば図1は、歯周治療にて保存を試みたにもかかわらず抜歯にいたった上顎第二大臼歯。

抜去歯根面には、取り残された歯石と滑沢な根面が交互に並んでおり、適切なSRPがなされていなかったことが想像されます。

図1 歯周治療にて保存を試みたにもかかわらず抜歯にいたった上顎第二大臼歯
図1 歯周治療にて保存を試みたにもかかわらず抜歯にいたった上顎第二大臼歯

「ここの歯石除去は無理だよなぁ」と感じることもあれば、「歯周基本治療の段階で適切な歯肉縁下歯石除去が行えていれば、回避できたかも…」と感じることもあるでしょう。

チーム医療のメンバーとして日々歯周基本治療に取り組んでいる歯科衛生士にとっても、「残石」の発見はとても悔しい場面であり、「もっとスキルアップしたい」と心から思う瞬間でもあります。

ゆえに歯科衛生士は日々練習に練習を重ねているわけですが、実は歯周基本治療力の向上には、歯科衛生士だけではなし得ない、いくつかの“壁”があります。

筆者は、歯科医院での臨床や、日本ヘルスケア歯科学会での若手歯科衛生士の指導を通じて、「歯周基本治療力の向上には歯科医師(院長)と歯科衛生士の二人三脚が欠かせない」と日々感じています。

院長の協力があれば、歯科衛生士のスキルアップの角度はグッと上向きになるのです。

そこで本稿では、歯科医院の歯周基本治療力を向上するために、ぜひとも院長先生と一緒にご確認いただきたい項目を、2回にわたって解説したいと思います。

第1回目の今回は「根面探知」についてです。

そもそも「根面探知」とは?

根面探知とは、文字どおり「根面の状態をインスツルメントを用いて触知する」行為です。

得てして「歯石の存在を把握する」と思われがちですが、実際は

  • プラークや縁下歯石の沈着状況の把握
  • 根面の解剖学的特徴の把握
  • う蝕の状態の把握
  • CEJ(セメントエナメル境)や補綴装置マージンの把握

など、多くの情報を探知するために行われます(図2)。

図2 根面探知で把握するもの
図2 根面探知で把握するもの

CEJやマージンのわずかな段差(凹凸)を歯石と勘違いし、不必要にスケーラーを当ててしまうケースは案外多いことから、CEJと補綴装置マージンの把握は特に重要です。

そこで筆者は、「ここから根面」ときちんと認識するために、つぎに示す4ステップにて根面探知を行っています。

根面探知の4ステップ

  1. 小刻みに上下させてエナメル質(補綴装置)の質感を探知
    小刻みに上下させてエナメル質(補綴装置)の質感を探知
    ポイント
    ● エナメル質(補綴装置)はツルツルで硬い
    ● 根面はややザラつきがある 

  2. エナメル質(補綴装置)から降りていき、最初に感じる段差を探知
    エナメル質(補綴装置)から降りていき、最初に感じる段差を探知
    ポイント
    インスツルメントを細かく上下に動かしながら、
    ● 段差がどこから始まりどこで終わるか
    ● 段差の程度(凸凹、硬さなど)を感じる 

  3. 段差を水平に移動してエナメル質(補綴装置)の全体像を探知
    段差を水平に移動してエナメル質(補綴装置)の全体像を探知ポイント
    水平に移動することで、CEJやマージンをラインでイメージすることができる 

  4. 根面探知スタート
    根面探知スタートポイント
    根面を上下左右斜めに移動しながら探知していく

このうちSTEP②が「CEJや補綴装置マージンを把握するステップ」ですが、CEJにおけるエナメル質とセメント質の位置関係にはバリエーションがあるため(図3)、慎重に探知し、形態把握に努めています。

CEJにおけるエナメル質とセメント質の位置関係のバリエーション
図3 CEJにおけるエナメル質とセメント質の位置関係のバリエーション

抜去歯を用いた根面単治のイメージ①

補綴修復物が装着されている場合は、マージン部分をきちんと確認します。

抜去歯を用いた根面単治のイメージ②

修復治療のなされていない歯では、CEJの位置の確認が大事です。

臨床をイメージした顎模型での根面単治のイメージ

すぐにインスツルメントを歯肉縁下に挿入するのではなく、エナメル質から触知を開始し、質感の変化を感じるようにします。

インスツルメントがなにかに当たり、ザラザラした感触を経て再び根面の感触に戻った場合は、縁下歯石の可能性が高いです(図4)。

図4 ザラザラゾーンの始点・終点がある場合は、縁下歯石の可能性が高い
図4 ザラザラゾーンの始点・終点がある場合は、縁下歯石の可能性が高い

縁下歯石を発見した際は、その幅・深さ・厚みを触知し、歯石の形態をイメージします(図5)。

図5 縁下歯石の幅・深さ・厚みを探知する
図5 縁下歯石の幅・深さ・厚みを探知する

一方、「ザラザラゾーン」に終点がなく、根尖に向かうほど厚みが増すような場合はセメント質肥厚の可能性があるため、SRP時にオーバーインスツルメンテーションにならないよう注意します(図6)。

図6 セメント質の肥厚は、ザラザラゾーンに終点がなく、歯石よりも圧倒的に硬い感触があります
図6 セメント質の肥厚は、ザラザラゾーンに終点がなく、歯石よりも圧倒的に硬い感触がある

歯周基本治療力アップのために必要な2つのポイント

さて、ここからは歯周基本治療力アップ(根面探知力アップ)のために必要なポイントを2つご紹介します。

1)根面探知用インスツルメントを用意する

根面探知は、インスツルメントを極軽圧(フェザータッチ)で根面にあて、インスツルメントを伝わる感触で根面の状況を把握する繊細な作業です。

使用するインスツルメントによっては根面の状態が伝わりにくいものがあるので、ぜひ根面探知に適したインスツルメントを揃えていただきたいと思います。

筆者がおすすめするのは、YDMのぺリオプローブWHOとヒューフレディのEXD 11/12です。

ぺリオプローブWHOはとにかく軽く、先端についた球が根面のわずかな凹凸を指にダイレクトに伝えてくれます(図7)。

図7 ぺリオプローブWHO
図7 ぺリオプローブWHO

そのため、通常のプローブでは見逃しがちな、狭くて深いポケットにも対応。根分岐部内部の探知も可能です。

また、EXD 11/12は、グレーシーキュレット11/12と同様の形態でありながらも刃はついておらず、細くてしなりがあるシャンクが敏感に根面の状態を伝えてくれます(図8)。

そのため、単根歯の近遠心にある根面溝、歯冠豊隆の強い大臼歯の深いポケットの探知、大臼歯の複雑な根周囲や、根分岐部内の探知に向いています。

図8 ヒューフレディ EXD 11/12
図8 ヒューフレディ EXD 11/12

なお、スタッフ間で使用感や「感触」を共有することが歯科医院全体の根面探知力アップには欠かせないため、使用する根面探知用インスツルメントは院内で同一のものを揃えることをおすすめします。

2)十分なチェアタイムの確保

歯周ポケットが深くなるのは歯周炎によるものがほとんどですが、深い歯周ポケット内部にはかならず歯肉縁下歯石が沈着しているというわけではなく、「何が原因なのか」は検査をしてみなければわからないのが本当のところです。

また、歯石除去を行うにしても、その歯肉縁下歯石がこれまでまったく手が付けられていなかったものなのか、それとも取り残された歯石なのかによって治療計画や処置内容に差が生じます。

こういった臨床上の「謎」を解明するべく根面探知を行うわけですが、集中して根面をイメージするためには、それなりの時間が必要です。

たとえば、単根歯で全周6mmのポケットであれば、熟練度にもよりますが約3分程度、根面の探知に時間がかかると思います。

ゆえに、歯周基本治療のアポイントは、根面探知の時間を考慮した十分なチェアタイムを確保することが大切です。

第1回のまとめ

歯科医院の歯周基本治療力向上をテーマに、根面探知のスキルアップにおいて院長と一緒にご確認いただきたいことを2つご紹介しました。

根面探知のスキルアップにはデンタルエックス線写真読影による解剖学的形態の把握とイメージングが欠かせませんが、本稿ではあえて割愛し、「経営者ならではの協力」という観点から、2つに論点を絞ったことをご理解いただければ幸いです。

本稿をきっかけに、皆様の歯科医院で「根面探知のスキルアップ」が話題に上がることを願っております。