Dr.内山茂に聞く!SPTのキホン 第1回 歯肉縁上縁下のコントロール

みなさんこんにちは。歯科医師の内山茂です。

私はこれまで、地域の「かかりつけ歯科医」として35年以上、患者さんの口腔の健康を守ることに努めてきました。

メインテナンスが「すべての患者さんに必要である」ということは周知の事実ですが、患者さんが口腔内に問題点を抱えたままメインテナンスに移行するケースも少なくありません。

そういった患者さんを歯科医院で継続して診ていくことを「SPT(サポーティブ・ペリオドンタル・セラピー)」とよびます。

SPTの目的は、歯周病の二大要因である炎症と力を継続してコントロールしながら「病状の安定」を図ることにあります。

これから数回にわたって、SPTを行う上で必要な基本知識について解説していきたいと思います。

SPTのキホン

1.歯肉縁上のプラークコントロール(PMTC)

PMTCとは「 Professional Mechanical Tooth Cleaning」の略で、歯科医師や歯科衛生士などの専門家が、さまざまな器具とフッ化物入りペーストを用いて、すべての歯面の歯肉縁上および縁下1〜3mmのプラークを機械的に除去することをいいます。

う蝕や歯周病の予防と管理を目的として、約30年前に北欧でシステム化され、現在多くの研究に裏づけられながら着実に臨床実績をあげています。

特に歯科医療従事者である私たちが歯肉縁上のプラークコントロールを行う場合は、能率性と確実性を上げるためにも、PMTCのテクニックや器材に精通しておくに越したことはありません。

長期的なメインテナンスを続けるには、患者さんが潜在的にもっている歯科に対するマイナスイメージの転換を図りたいところですが、術後の爽快感と快適さを特長とするPMTCは、その意味できわめて有効な方法といえます。

実際に体験するとわかるはずですが、適切なPMTCを受けた後の口腔内は無類の爽やかさで満たされます。

医療にアメニティーを付加するためにも、これを利用しない手はありません。

PMTC

2.歯肉縁下のプラークコントロール(歯周デブライドメント)

PMTCが主に歯肉縁上プラークの除去を目的としていることに対し、歯肉縁下プラークの除去を目的としたテクニックを「歯周デブライドメント」といいます。

歯周デブライドメントという用語は、「歯周炎の原因である非付着性および付着性のプラークや歯石を除去する行為」を総称して用います。

しかし近年、歯周治療後のSPTで繰り返しSRPを行うことは、歯根面を必要以上に傷つけてしまう「オーバーインスツルメンテーション」を引き起こす可能性があると指摘されています。

そのため、単にデブライドメントというときは、「やわらかい沈着物(プラーク)を除去する」という意味で用いられることが多いようです。

根面がガラスのような質感になるまで滑沢にする、従来の「ルートプレーニング」と対比して、根面に付着している細菌性プラークや歯石のみを除去し、セメント質を意識的に残す方法を「根面デブライドメント」とよぶこともあります。

根面デブライドメントには、健全セメント質の温存や、それに伴う歯周組織の再生、知覚過敏・根面う蝕の予防などを期待することができます。

いずれにしてもこれらの考え方は、根面の滑沢化や歯石の存在などに焦点を置いたものではなく、歯肉縁下の環境整備すなわち「プラークや細菌の除去」を重視したものです。

とくにSPTにおいては、歯肉縁下に存在するバイオフィルム状に成熟したプラークや壊死セメント質、歯石、エンドトキシンなどを、デブライドメントという手法を用いて、継続的かつ確実に除去することがきわめて重要なポイントとなります。

歯周デブライドメント

覚えておきたい!ワンポイント用語集

今回解説した内容の中で、重要なキーワードとなった「SPT」「デブライドメント」「根面デブライドメント」。

これらの用語については、定義までしっかりと覚えておきましょう。

SPT
動的な歯周治療の後に開始される治療」のことを指す。
歯周治療後のメインテナンスだけでなく、「歯周疾患に罹患しているにも関わらず、全身状態やその他の理由で歯周外科処置が受けられない患者さん」にも適用される。
その具体的な術式としては、スケーリングやルートプレーニング、専門家による歯面清掃に加え、各種歯周検査にもとづくTBIや補助療法、化学療法などが適宜追加される。*1

デブライドメント
生体に沈着した外来からの刺激物や、それによって変性した組織などを除去することをいう。
歯周治療においては歯肉縁下のプラークや歯石、汚染セメント質、不良肉芽組織を除去することを指す。*2

根面デブライドメント
歯根面に付着した歯肉縁下のプラークや歯石、汚染セメント質を除去することを指す。*2

***

SPTについてもっと詳しく学びたい方は、こちらのセミナーがおすすめ!

内山茂先生LIveセミナーバナー
内山茂先生のセミナーはこちら

参考文献:
*1 アメリカ歯周病学会編集(1992)「AAP歯周治療法のコンセンサス」クインテッセンス出版
*2 日本歯周病学会編集(2007)「歯周病専門用語集」医歯薬出版