今さら聞けない!小児歯科の基礎知識 #03 仕上げ磨きのポイント

日本小児歯科学会認定歯科衛生士の和田京子と申します。

小児歯科専門の歯科医院で臨床を行うかたわら、小児歯科の分野で自信をもてる歯科衛生士を育成する研修を行っています。

前回は、フッ化物の役割と正しい使用方法についてお話ししました。

前回までの記事はこちら

#01 乳歯列・永久歯列の生え変わり
#02 フッ化物の役割と正しい使用方法

今回は、歯科衛生士の3大業務の一つである「保健指導」に焦点をあててお話しします。

臨床現場で保護者の方と接していると、「正しい磨き方がわからない」「子どもが嫌がってちゃんと磨けているか不安」といった悩みを抱えている方が多いように感じます。

数ある保健指導の中でも、お子さんの「仕上げ磨き」のTBIについては、どのように指導すべきか悩んでいる歯科衛生士の方も多いのではないでしょうか?

まずは私たち歯科衛生士が仕上げ磨きについて理解を深め、日々の指導に活かしていきましょう。

仕上げ磨きをする理由

保護者の方の中には、「乳歯はいずれ永久歯に生え変わるから、多少の磨き残しがあっても問題はない」と考えている方がいるかもしれません。

しかし、健康な永久歯が萌出するためには、乳歯の時から正しいケアを行うことがとても大切です

お子さんによっては、仕上げ磨きをすると泣いて嫌がったり、暴れたりと、時期によっては大変なこともしばしば。しかし、効果的にう蝕予防ができる点は、仕上げ磨きの大きなメリットです。

仕上げ磨きによる効果は、以下の通りです。

  • 歯磨きの習慣を身につけられる
  • 本人だけでは落としきれないプラークを落とせる
  • 子どものう蝕や口腔内のトラブルを早期に発見できる
  • 萌出しはじめの乳歯は歯の質が弱くむし歯になりやすい
  • 萌出しはじめや生え変わりの際は段差などにより磨きにくい

また、萌出しはじめの乳歯は歯質が弱く、う蝕になりやすいことや、萌出途中や生え変わりの時期は歯間に段差ができて磨きにくいことも、乳歯列期の大きな特徴です。

このような理由を挙げて、保護者の方には仕上げ磨きを毎日の習慣にしていくように伝えましょう

仕上げ磨きのスタートはいつ?

歯が1本でも萌出したら、仕上げ歯磨きのスタート時期です。目安としては、乳歯が萌出しはじめる生後6〜8ヶ月頃のタイミングになることが多いでしょう。

まずはお子さんも保護者の方も、歯のケアに慣れることが大切です。

仕上げ磨きにはどんなものを使う?

歯が萌出しはじめて1〜4本程度の頃は、「ガーゼケア」がメインでも問題ありません。本人の様子を見ながら、歯ブラシの感覚に慣れるために赤ちゃん用の歯ブラシをあてることもおすすめです。

乳歯が4〜8本くらい萌出してきたら、歯ブラシを使用していきましょう。

仕上げ用と子ども用の歯ブラシでは仕様が異なるため、保護者の方には、子ども用とは別に「仕上げ磨き用の歯ブラシ」を準備するように推奨します。

仕上げ用の歯ブラシは、持ち手が長くヘッドが小さいため、小回りが利いて操作しやすいといった特徴があります。

子ども用の歯ブラシは、お子さん本人がスプーンなどを持てるようになったタイミングで用意し、そこから積極的に歯磨きの習慣をつけていきましょう。使用する歯ブラシについては、年齢に合わせて、安全なものを選択するようにします。

また萌出状況によって、「デンタルフロス」や「ワンタフトブラシ」を使用することも伝えましょう。こちらについては、次回詳しくお話しします。

仕上げ磨きのタイミングと姿勢

仕上げ磨きの理想のタイミングとしては、1日3回の食事の後や、おやつの後に磨くことが推奨されています。

とはいえ、歯磨きをはじめたばかりの頃は、機嫌が良い時や眠くない時などに磨いても良いでしょう。

食後に毎回仕上げ磨きをするのがむずかしいようであれば、もっともう蝕のリスクが高まる「就寝前のブラッシング」を習慣づけるように促しましょう。

仕上げ磨きをする時は、保護者の膝上に寝かせて磨く姿勢が基本です。

脚の間、または正座した膝の上に子どもの頭を乗せて、顎を固定して磨きます。まだ前歯だけの低年齢のうちは、横抱きで磨いてもよいでしょう。

仕上げ磨きはいつまで?

9歳(小学校4〜5年生)頃までは仕上げ磨きを行い、お子さんのブラッシングをフォローするのが理想です。

お子さんが小学校に上がると自分で磨くようになるかもしれませんが、最後まで本人に任せてしまうと、萌出しはじめの6歳臼歯や歯間部、生え変わりの部分などに磨き残しが出てしまいます。

歯科医院でのチェックで「磨き残しがない」とOKが出るまでは、保護者による仕上げ磨きを行うことが大切です。その後の、永久歯が生えそろう途中の時期については、週に一度ほどチェックできると良いでしょう。

仕上げ磨きの基本

歯ブラシの持ち方・力加減

鉛筆のように歯ブラシを持つ「ペングリップ」で握ることにより、弱すぎず、強すぎない適度な力を入れられます。

力加減については、歯ブラシの毛先が広がらない程度の軽い力(150g~200g)で動かしましょう。歯ブラシの毛先を爪にあてた時、爪が白くなる程度の力加減が目安です。

歯ブラシのあて方

歯ブラシの毛先は歯面(歯と歯肉の境目)に直角にあてましょう。

歯ブラシの動かし方

5~10㎜の幅を目安に小刻みに動かし、1〜2本ずつ磨きます。

ブラッシングの回数やポイント

プラークをしっかり落とすには、1ヶ所につき20回以上磨く必要があります。う蝕の好発部位である「裂溝」や「歯頸部」など、部位ごとに磨く順序を決めて、しっかり汚れを落とすことが大切です

年齢が低いうちは嫌がってしまう可能性があるので、なるべく手早く磨きましょう。

仕上げ磨きのコツ

利き手でない方の手で補助する

利き手でない方の人差し指で頬や口唇を排除して、歯ブラシが入るスペースを確保しながらしっかり目で見て磨くことがポイントです。

上唇小帯に歯ブラシをあてない

上唇の裏側にある「上唇小帯」に歯ブラシがあたると、お子さんが痛みを感じて嫌がることがあります。上唇に指を添えて少し持ち上げ、保護しながら磨くように注意します。

嫌がらないコツ

歯が萌出する前の時期から、頬や唇などの顔周りに触れてスキンシップをとることで、お子さんは徐々に口腔内に触れられる感覚に慣れていきます。

また、1回のブラッシングで目標の秒数を決めるのもおすすめです。目標を達成できたら、褒めて少しずつ秒数を長くしていきます。

定期的な歯科健診で磨き残しのチェックを

磨き残しがないかの確認はもちろん、う蝕や生え変わりのチェックなど、3〜4ヶ月に1度は定期的に健診を受けるようにすすめています

仕上げ磨きは、子どもの健やかな口腔の成長にとても大切な役割を果たします。磨くのが大変な時期もありますが、少しでも親子で楽しみながら継続できるように、磨き方のコツやポイントをアドバイスしていきましょう

次回は今回の続編として、小児の年齢別の歯ブラシの選び方や補助清掃用具の活用方法など、さらにブラッシング指導に役立つ内容をお伝えします。

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