『FACT FULNESS(ファクトフルネス)』から学ぶ、行動変容に繋がる患者指導

こんにちは。歯科衛生士の竹下と申します。この連載ではさまざまな書籍を歯科衛生士としての視点でレビューしております。

そして、若手歯科衛生士によるスタディーグループLeafを運営しており、都内を中心に気軽な勉強会や座談会を開催しています。

みなさまの明日からの臨床にお役に立てれば幸いです。

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DaiGoさん著『自分を操る超集中力』
安藤俊介さん著『はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』
石田淳さん著『教える技術』
スペンサー・ジョンソン著『チーズはどこへ消えた?』

今月は、ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランドによる共同著書『FACT FULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣(2019年発行)』をレビューしていきます。

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著『FACT FULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』へ
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こちらは2006年にスタートした、オンライン配信プロジェクト「TEDトーク」にて、データに関する伝説のプレゼンテーションを遺したことで有名な、ハンス・ロスリング氏が書いた書籍です。

2019年発行ですが、またたく間に大ヒットし、さまざまな経済誌で取り上げられたり、ネットにもたくさんの書評が上がっています。書籍を店頭やネットで一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

今回は、たくさんの書評があるなかで、歯科衛生士としての目線を活かしたレビューをしてみました。

長編になってしまったので、今月と次月の2部構成となりますことをご了承ください。

1.「データをしっかりと受け止めること」が重要
2.思い込みが起こす錯覚に気をつけよう

FACT FULNESSとは?

まず、「FACT FULNESS(ファクトフルネス)」とはどういう意味でしょう?

本によると「データに基づき、世界を読み解く習慣」とあります。

たとえば、「タイ」と聞くと、なんとなく「東南アジアの途上国」といったイメージが漠然と浮かんできませんか?

実際に旅行に行かれたりした方はご存じだと思いますが、タイの首都バンコクには巨大なショッピングモールがあり、高級ブランドが並ぶ大通りも存在します。

このように、「事実」と「イメージ」の相違により、誤った見方をしていないか?それをどのように改善していくか?ということが、この本の全体像です。

それを踏まえて、さらに「歯科衛生士」として活かせることをお伝えします。

「データをしっかりと受け止めること」が重要

患者さんを担当することになったら、まず資料を採りますよね。

医院によってその種類はさまざまだとは思いますが、何はなくともデータの採取をしないと私たちの仕事ははじまりません。

そしてそのデータを正しく読み取る、正しく判断する。私たち歯科衛生士は診断することはできないので、ドクターに指示を仰ぐことになると思います。

しかし、その後の話の流れや患者さんとの向き合い方などは、データをしっかりと受け止めることができないと、誤った方向へ進んでしまうこともあります。

そんなの当然、と思われている方もいらっしゃるかもしれません。

たとえば、カリエスの多い患者さんが来院されたとしましょう。きっとお砂糖をたくさん摂取しているんだ、歯磨きの仕方がよくないんだ、など、先入観を持って接していないですか?

もしかしたら、過去にTBIを受けていて、もう磨き方はご存じかもしれない。砂糖の摂取もなるべく控えているけど、カリエスになりやすい方なのかもしれない。そうしたことの確認をおざなりにして、こちらからばかり話を進めていませんか?

患者指導で一番難しいことは「行動変容を起こさせること」です。つまり「自分ごと」として捉えてもらうこと。

そのためには信頼関係の構築はもちろんですが、「必要な情報」を「必要と思われる時に」「適切に」提供する。やりすぎてもいけないし、やらなさすぎてもいけない。その微妙なさじ加減が難しいんですよね。

そこを見極めるためにも、「データをしっかり受け止めること」は重要ということです。

「データをしっかりと受け止めること」が重要

また、この本には、人間は誰もが10の本能を持っていると書かかれており、その中のひとつに「ものごとを二極化して考えてしまう」という「分断本能」があるといいます。

ざっくりいうと「自分たちの世界とそうではない世界」「貧困と富裕層」「善と悪」と考えてしまうこと。

しかし、統計学的に考えればわかるのですが、そんなに世界は極端ではありません。中間層が最も多く、世界中で貧困と思われている地域はごくわずか、しかもそれは年々減少しているのです。

先ほどの例も、ちょっと冷静になって考えてみましょう。

たしかにカリエスが多い患者さんは何かしらの「問題」を抱えています。それを健康な状態に導いていき、定期的なチェックを行うのが歯科衛生士の仕事です。

まずは患者さんの状況を把握し、何が足りていて、何が不足しているのかを把握することが大事です。

そこから必要なことを患者さんに提供していくことが、歯科衛生士としての「ファクトフルネス」ではないかと考えました。

思い込みが起こす錯覚に気をつけよう

もうひとつ、「歯科衛生士としての知識」が増えるほど、「錯覚」を起こしやすくなるのではないかと考えました。

私は新人の頃(今も新人みたいなものですが)、担当を持たせてもらうだけで嬉しく、その患者さんを精一杯理解しよう、健康にしたいという一心で仕事をしていました。

ですが、だんだんと仕事に慣れ、「カリエスが多い」「歯肉に炎症がある」「プラークコントロールが良くない」などといったネガティブなイメージに引っ張られ、つい「お説教」のようになってしまっていた自分がいました。

毎日を過ごしていくうちに自信がつき、この症例のときはこうすればいいんだ、という思い込みが強くなっていたのです。

患者さんは「お説教」されにわざわざ来院しているのではありません。「健康になりたい」からきてくださっているのです。

それを忘れかけてしまっていた私は、このチャプターを読んでハッとしました。「指導をする」という立場になったということに浮かれていたのですね。

また、このレビューを書くにあたっても、「読者のみなさまにビジネス的な思考をつけてもらいたい」というおこがましい気持ちがあったことに気づくことができました。

思い込みが起こす錯覚に気をつけよう

いかがでしたか?

正直、本の分厚さに、読みはじめるまでにかなり腰が重かったのが事実です。ですが、いざ読みはじめると一気に読了することができました。

細切れでもいいので、ぜひ一度読んでみてほしいです。オーディオブックや電子書籍版もありますし、自分のスタイルにあった方法で取り入れてみてください。

後編は、人間が持つ10の本能のひとつである「焦り本能」について、歯科衛生士目線で考察してみましたのでどうぞお楽しみに。

このレビューが少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。

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