お砂糖博士®︎の雑談コラム「おさトーーク」No11.発がん性があるって本当!?いま話題の人工甘味料“アスパルテーム”

こんにちは、お砂糖博士®︎です。おさトーークの時間がやってまいりました。

このコラムでは、みなさんの身近な「お砂糖」について、お砂糖博士®︎が自由に語ります。

お砂糖を摂り過ぎ→むし歯は小さな子どもだって知っていますが、もう一歩二歩、深いお砂糖のことをお伝えします。

明日の臨床に直接役に立つか分かりませんが、明日の昼休みの雑談には役に立つでしょう(笑)。

前回までのおさトーークはこちら

No1.あなたは一日に何gの砂糖を食べていますか?
No2.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!菓子類編
No3.清涼飲料編 ①異性化糖について
No4.清涼飲料編 ②炭酸飲料について
No5.パン編
No6.乳製飲料の砂糖量
No7.フルーツの“甘さ”は歯や体に良いの?雑学編
No8. バナナ、りんご、みかんに含まれる糖類は?100%ジュースの秘密
No9. ハチミツは砂糖よりも体に良いって本当?
No10. 糖質制限ダイエットの前に知っておきたい“糖類・糖質・炭水化物”

(2023年)7月頃、国内の各ニュースサイトが一斉に「WHOなどの国際研究機関がアスパルテームの発がん性の可能性を発表」と報道しました。ご存じの方も多いのではないでしょうか?
(参照:人工甘味料「アスパルテーム」に発がん性の可能性 国際がん研究機関IARCが警告-WHITE CROSS

アスパルテームはいわゆる「人工甘味料」といわれるものですが、「名前は聞いたことがあるけど詳しくわからない」という方や、「歯や身体への影響が心配…」という方も多いと思いますので、今回テーマに取り上げました。

アスパルテームは危険?安全?

アスパルテームは1965年、胃潰瘍の薬を開発していたアメリカのサール薬品の研究者により、「強い甘みを持つ物質」として偶然発見されました。その後、日本の味の素株式会社が大量生産技術を開発し、世界的に普及しています。日本では、1983年に食品添加物として指定されました。
(参照:安全性対応と国際展開[1969∼1980年]-味の素株式会社

アスパルテームは、砂糖の約200倍もの甘さをもち、使用量がわずかで済むため、カロリーはほとんど“0”です。また、アスパルテームは非糖質系甘味料で糖質を含まないため、う蝕の原因にもなりません

しかし、アスパルテームには開発当初から「知能低下」や「発がん性」の疑いがありました。

アスパルテームが体内で代謝されたとき、フェニルアラニン・アスパラギン酸・メタノールに分解されることから、アスパラギン酸が脳の神経細胞やアストロサイト(神経膠細胞)に作用し、知能低下などの悪影響を与える可能性が懸念されています。また、メタノールが体内で代謝されたときに生じる「ホルムアルデヒド」に発がん性があるという報告もあります。

ただし、アスパルテームにおけるこれらの有害な物質の摂取量はごくわずかであり、「人体への影響はほとんど考慮しなくてよい」というのがこれまでの見解でした。それが2023年に入り、改めてWHOが注意喚起を促したことで話題となったのです。
(参照:アスパルテームに関するQ&A-食品安全委員会

ニュースにあるように許容量は体重1kgあたり40mg(60kgでは2,400mg)と、これに関しては開発当初から現在まで変わりはありませんので、基準が厳しくなった訳ではありません。
(参照:人工甘味料「アスパルテーム」に発がん性の可能性-日本WHO協会

また、WHOからは、「利用可能な科学文献を検討した結果、がんおよびその他の健康への影響に関するエビデンスには限界があることが指摘された。」と発表されており、発がん性が決定的になった訳ではないようです。
(参照:Aspartame hazard and risk assessment results released-WHO

はやりの文句で「おい、お砂糖博士®︎!危険なのかい!?安全なのかい!?どっちなんだい!?…」と言いたくなるところかもしれませんが、結論を急ぐ前に、お話ししておきたい「人工甘味料のあれこれ」について紹介したいと思います。

人工甘味料とは?

実は、人工甘味料という言葉は、定義にやや曖昧なところがあります。一般的に、甘味料は大きく「糖質系甘味料」と「非糖質系甘味料」の二つに分けられます。

糖質系甘味料は、身近なところでは砂糖やブドウ糖、果糖などの「糖類」や、キシリトールを代表とした「糖アルコール」も含まれます。

非糖質系甘味料は主に二種類あり、一つはステビア、ラカント、甘草(かんぞう)などの「天然甘味料」です。そして、もう一つが今回の話題である「人工甘味料」です。

人工甘味料のことを「合成甘味料」と表示している場合もあり、この二つは同じ意味合いで使われています。文章よりも図で確認した方がわかりやすいので、下図をご覧ください。

甘味料の分類
甘味料の分類(図は参考文献*1より引用)

う蝕の原因となる「ミュータンス菌」や我々人間も糖質をエネルギーとしているので、糖質系甘味料を摂り過ぎると、う蝕や肥満に繋がります(各種の糖アルコールなど、一部例外はあります)。

一方で、非糖質系甘味料は、そもそも糖質ではないためう蝕の原因にはなりません。しかし、「人工甘味料の長期的な摂取により、2型糖尿病や心血管疾患、死亡率の増加などのリスクが実は高まるのではないか?」といった疑いがなかなか払拭できずにいるのが現状です。

国内に流通するさまざまな人工甘味料

現在国内では、サッカリンやステビア、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース、ネオテームなどが人工甘味料として使用されています。

農林水産省のデータによると、2023年現在、人工甘味料の種類の内訳ではアセスルファムKが約79%のシェアを占めており、今回話題のアスパルテームは約8%と、そこまで多く流通していないことがわかります

また、国内需要量は788t(砂糖は約180万t)ですが、近年のダイエットやう蝕予防などの健康ブームに伴い、人工甘味料全体の市場規模は拡大しつつあります。

需要量こそ、砂糖と比べて4桁ほど少ないものの、人工甘味料は砂糖の約200〜600倍の甘さであることを考えると、かなりの量の砂糖が人工甘味料に置き換えられていると推測できます。

言い換えれば、日本人の甘味の満足度は年々人工甘味料に頼るようになってきているようです

高甘味度人工甘味料の輸入量(参考文献*2より、お砂糖博士®︎がグラフ化)

人工甘味料の歴史を学ぶ〜①元祖のサッカリン〜

人工甘味料のことをもう一歩深く学ぶために、歴史について学んでみましょう。

人工甘味料の開発経緯や認可、普及に関しては、いずれも似たような経緯を辿ります。その一例として、サッカリンを紹介します。

サッカリンという名前は聞いたことがあるかもしれません。世界最古の人工甘味料といわれ、1879(明治17)年のアメリカでコールタール(石炭を熱分解すると得られる副産物のこと)の研究中に偶然発見されました。

「えっ!コールタールから!?」と思うかもしれません。しかし、人工甘味料のほとんどは別の薬品の開発中に偶然見つかったものが多く、このことが開発当初から健康に対する懸念が現在も拭い切れていない要因の一つではないかと思います

  • コールタール→サッカリン
  • 胃潰瘍薬→アスパルテーム
  • 農薬→スクラロース

上記のように、薬品の開発中に見つかっている人工甘味料はたくさんあります。

サッカリンは普及当初の1960年代にアメリカ国内で発がん性の疑いが浮上し、一時は使用禁止扱いとなりました。しかし、その後安全性の確認が再度行われ、現在では使用禁止が解除されて許容範囲内(5mg/kg)の使用が認められています
(参照:人工甘味料を巡る消費者運動についての一考察-岡部昭二

日本でも使用が認められており、実はAmazonでも購入できます。砂糖にはない独特の苦味があり、コーヒーなどに使用している方もいるようです。

国内の甘味料 歴史年表(参考文献*3より、お砂糖博士®︎がグラフ化)
国内の甘味料 歴史年表(参考文献*3より、お砂糖博士®︎がグラフ化)

上の図は、明治以降の砂糖や糖アルコール、人工甘味料の年表グラフです。

ここで、国内の砂糖(黄色の棒グラフ)と、サッカリン(紫色の棒グラフ)の関係性の歴史に注目してみましょう

明治40年前後から、日本の統治下にあった台湾の製糖業が成功し、国内の砂糖価格が下がり本格的に普及していきます。すると、これまで砂糖の不足分の甘味を補うために使用されていたサッカリンは不認可となります。

しかし、1945(昭和20)年に終戦を迎えて砂糖の供給が途絶えたことにより、サッカリンは再認可されて使用が再開されるようになります。

他の甘味料の普及に伴い、近年では使用量が減少したサッカリン。人工甘味料料の中では古参であり、時代背景や砂糖とその他の人工甘味料の普及状態に大きく左右された「激動の人工甘味料人生?を歩んだなぁ…」と、お砂糖博士®︎はしみじみ思うわけです。

人工甘味料の歴史を学ぶ〜②百花繚乱?の近年人工甘味料〜

サッカリンは当初の悪いイメージや味質(苦味)もあり、現在その需要は新しく開発された人工甘味料(アスパルテームやアセスルファムKなど)に取って代わられました。

そんな近年の人工甘味料の普及の歴史を見てみましょう。先の図に追記した、下図の赤枠に注目してみてください。

国内の甘味料 歴史年表(参考文献*3より、お砂糖博士®︎がグラフ化)
国内の甘味料 歴史年表(参考文献*3より、お砂糖博士®︎がグラフ化)

1960年代からはじまったダイエットブームにより、まずは1970年代に天然甘味料のステビア(砂糖の200倍の甘さ)が国内で普及します。

よもやま話ですが、ステビアが普及して認知が広がった1990年代に、「ポカリスエットステビア」が登場しました。しかし、一時ステビアに発がん性の疑いが出たため、現在は名称が変わり「ポカリスエットイオンウォーター」がそのブランドを引き継いだようです。

今回話題のアスパルテームは1983年に国内で認可がおり、ちょうどその頃「コカコーラライト」が販売されました。さらに1999年にスクラロース、2000年にはアセスルファムKと立て続けに認可され、ダイエットコーラ(現在のコカコーラ0)などの販売が開始されます。

比較的味が砂糖に近いスクラロースやアセスルファムKの登場により、人工甘味料の味質は改善が重ねられ、さまざまな商品が誕生しました。こうして、カロリーオフの市場はさらに発展していきます。

人工甘味料の認可や普及と商品開発は密接に関わっており、これらの関係性も興味深いところです

歴史の浅い人工甘味料は慎重に付き合うべき

最後に、お砂糖博士®︎の人工甘味料に関する見解をお話しします。

今回解説したような人工甘味料の歴史を振り返ると、改めてその歴史が浅いということに気づきます。2023年現在、話題のアスパルテームは認可がおりてから40年、もっとも普及しているアセスルファムKにいたっては23年です。

また、この短い歴史の中で、ほとんどの人工甘味料は発がん性などの疑惑が浮上したり、鎮火したりを繰り返すといった、紆余曲折の経緯を辿っています

「食品の安全性は100年、親子三代に渡り食べての検証が必要」ともいわれますので、人工甘味料は注意深い付き合いが必要な食品添加物であるといえるでしょう

もう一つ、注意点があります。

人工甘味料だけでなく食品添加物全般にいえることですが、その添加物単体では安全かもしれないけれど、他の添加物との組み合わせによる安全性は誰にもわからないということです。

一例を挙げると、2006年に厚生労働省医薬食品局食品安全部から「清涼飲料水のベンゼンについて」という報道が発表されました。

清涼飲料中の安息香酸(保存料)とアスコルビン酸(酸味料、酸化防止剤)は、ある条件下で反応し、毒性の高い「ベンゼン」が生成する可能性があるという内容で、疑いのある清涼飲料に自主回収を要請する事態となりました。

確かに、一つひとつの添加物や薬品は、試験管や動物実験などである程度安全性は検証されています。しかし、実際の製品に使用されるときには数種類から数百種類の添加物と混合されるため、未知の事態が起きてもまったく不思議ではないということです。

清涼飲料などの加工食品を摂取するということは、このようなリスクを常に抱えているということを念頭に置く必要があるのではないかと思います。

教えて!お砂糖博士®︎Questionコーナー

なぜキシリトールは他の甘味料より食品に含まれていないのでしょうか?発がん性がある甘味料を入れるくらいなら、キシリトールの方が良いのでは?と思いましたが、高価なものなのでしょうか?

歯科医療従事者にとってはもちろん、一般の消費者にとっても、知名度の高い「キシリトール」は、私たちのいちばん身近な代用甘味料といっても過言ではありません。

キシリトールは1990年代後半に登場し、「むし歯の抑制や予防効果」のイメージを全面的に推し出して宣伝販売された経緯があります。
(参照:キシリトールLABO「背景・食品としての情報」-日本フィンランドむし歯予防研究会

また、数ある糖アルコール(ソルビトール、還元水あめ、エリスリトールなど)の中でも、もっとも商業的に成功した糖アルコールともいわれています。

さまざまなシュガーレス製品に今回特集した「人工甘味料」が使用される一方で、「キシリトール」がそれほど使用されていない要因はいくつか考えられます

ご質問の文中にもあるように、まずは価格が高いことが要因の一つでしょう。他の糖アルコールはせいぜい約1,000円/kg程度であるのに対し、キシリトールは約2,500円/kgと群を抜いて高価です。

また、一度にたくさん摂取すると腹痛になることも要因に挙げられます。飴やガムなどに含まれる程度の量であれば問題ありませんが、クッキーやケーキになると使用量は多くなります。

そしてもう一点は、カロリーが約3kcal/gとまあまあ高いこと。砂糖が約4kcal/gなので、ダイエット目的で使用するには不向きでしょう。

この辺りに理由があるのかもしれません。

お砂糖博士なら、食品に「砂糖(糖類)が入っているもの」と「人工甘味料が入っているもの」、どちらを選びますか?もしくはどちらも選ばないでしょうか?

「無糖」と書かれ「人工甘味料」を使用したレモン酎ハイ、かたや通常の「砂糖(糖類)」を使用した、安定した味のレモン酎ハイ。目の前に並ぶ両者のどちらを選ぶか…これは、日々のコンビニで起きる悩ましい究極の選択ですね(笑)。

僕の場合、迷わず「砂糖(糖類)」入りを選択します

今回の特集のように安全性の疑いももちろん理由にありますが、それ以前に人工甘味料の舌に残るような独特の甘さが苦手で、味覚に合わないということが主な要因です。

僕自身は元々そんなにお酒をたくさん飲めないので、お楽しみでたまに飲むときには好きなものを飲むというスタイルです。勝手にお酒の話になってしまいましたが、個人的に人工甘味料がよく使用されるガムや飴、甘い清涼飲料などはほとんど摂りません。そのため、たまに飲食する機会があれば、やはり味の良い「砂糖」入りを選びます。

ただし、明らかにう蝕の多い患者さんなどはこの限りではありません。例えば飴や清涼飲料などに依存して、日頃から糖類を大量に摂取しているとなると、人工甘味料の選択も必要になるかもしれません

参考文献:
*1 砂糖以外の甘味料について-独立行政法人 農畜産業振興機構
*2 令和5砂糖年度における砂糖及び異性化糖の需給見通し-農林水産省
*3 高添一郎, 予防活動・健康教育のためのガイド 「歯を守る」甘味料(1977), 株式会社ティピィジャパン.

お砂糖博士®︎の雑談コラム「おさトーーク」

No1.あなたは一日に何gの砂糖を食べていますか?
No2.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!菓子類編
No3.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!清涼飲料編 ①異性化糖について
No4.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!清涼飲料編 ②炭酸飲料について
No5.砂糖を減らす鍵は、加工食品にあり!パン編
No6.ヤクルトは健康?乳製飲料の砂糖量
No7.フルーツの“甘さ”は歯や体に良いの?雑学編
No8. バナナ、りんご、みかんに含まれる糖類は?100%ジュースの秘密
No9. ハチミツは砂糖よりも体に良いって本当?
No10.糖質制限ダイエットの前に知っておきたい“砂糖・糖類・糖質・炭水化物”
No11.発がん性があるって本当!?いま話題の人工甘味料“アスパルテーム”