心理学からヒントをもらおう!患者さんタイプ別コミュニケーション 第二回 無口な患者さんから話を聞き出すには?

この連載では、患者さんのタイプに合わせたコミュニケーション方法として、行動心理学などを用いたアプローチについてお話しします。

診療でTBIを行う際、ほとんど返事を返してくれない患者さんに対して、困ったり、焦ったりしてしまうことはありませんか?

普段通りにあいさつしたり、話しかけてみたり、家でのセルフケアについて確認したりしてみるものの、全然返事やリアクションが返ってこない…なんてこと、ありますよね。

今回は、このような「無口な患者さん」から、話を聞き出す効果的な方法をお伝えしていこうと思います。

前回の記事はこちら

第一回 治療に対する恐怖心が強い患者さんの緊張を和らげるには?

無口な患者さんの心理とは?

診療をしていると、あまり話をしない患者さんもいれば、前回の記事でご紹介したような心配性な患者さん、逆にとってもおしゃべりでいつも楽しそうな患者さんなど、いろいろなタイプの患者さんがいますよね。

これは何も患者さんだけの話ではなく、あなたの家族や友達、会社の同僚の中にもいろいろな方がいるのではないかと思います。

ではそもそも、無口な方はなぜ無口なのでしょうか?

無口な方の心理は、大まかに3つに分けられます。

ケース1. 人見知り・恥ずかしがりや

無口で全然話してくれないなと思っていたら、実は相手がただシャイだっただけ、ということがあります。

人見知りであったり、自分の話をするのが恥ずかしいという気持ちから、あまり返事をしなかったり、リアクションがなかったりするのです

これは、思春期のお子さんにも見られる反応ですから、自分の思春期の頃を思い出せば、「そういえばあの頃はそうだったかも…」と理解することができるのではないでしょうか。

ケース2. 用心深い・警戒心が強い

以前通っていた歯科医院とのやりとりの中で、歯科に対して信用がもてなかったり、「また痛い目にあわされるかも」「何か高いものを売りつけられるかも」といった警戒心をもっていたりするため、あまり反応されないという場合があります。

ケース3. そもそも話に興味がない

この3つのケースの中でもっともむずかしいのが、こちらの話にそもそも興味がない患者さんです。

こちらが話す歯科の情報や予防的な話に興味がないため、「いいから早くやってくれ」というような態度で話を聞いてくれず、自分からも話してくれない、という方です。

同じ内容の話をしても、「楽しい!」と感じる程度は人によって異なるように、「無口である」という状態は同じでも、その心理は人それぞれ違います。

まずは話している相手が一体どのタイプなのかを考えて、アプローチの方法を工夫してみましょう

相手がどのケースに当てはまるかを探るには、前回の記事「治療に対する恐怖心が強い患者さんの緊張を和らげるには?」の、体の動きの部分をヒントにしてみてくださいね。

無口な相手から話を引き出すには?ブーメラン効果には注意しよう!

無口な相手の心の状態をふまえた上で、次は相手の話やリアクションを引き出す方法について考えてみましょう。

ここでもっとも大切なのは、「焦らないこと」と「相手のペースに合わせること」です。

「ブーメラン効果」という言葉をご存じですか?

ブーメラン効果とは、投げると元の場所に戻ってくるブーメランの軌道のように、自分の行いが自分自身に返ってくる・逆効果となる心理現象のことで、「説得の逆効果」ともよばれています。

この効果について、わかりやすい例として挙げられるのが、イソップ寓話の「北風と太陽」です。

北風と太陽は、「道ゆく旅人の上着を脱がせる」という勝負をします。北風は強い風で旅人の服を吹き飛ばそうとしますが、旅人は飛ばされまいと、さらにきっちりと上着を押さえて着込んでしまいます。

一方、太陽はそんな旅人をあたたかく照らします。そうすると、旅人は暑くなって自ら上着を脱ぎ始める、という話です。

無口で反応がない人は、ただ「無口で反応がない」だけであり、「話を聞いていない」わけではありません。

反応がないからといって、こちらのペースでどんどん話を進めてしまったり、反応や会話がないことから、「この人はやる気がない」と相手のことを決めつけたりしてしまっては、「情報の押し付け」になってしまいます。

そうすると、このブーメラン効果から強い反発が起こり、説明すればするほど反発されたり、避けられたりと、ますますこちらのアプローチを受けとってもらえなくなり、話ができなくなってしまうのです

とくに、ケース1の「人見知り・恥ずかしがりや」の方や、ケース2の「用心深い・警戒心が強い」方の場合、焦って距離を詰めようとすると、むしろ心が離れていってしまいかねません。

ザイオンス効果で、焦らず、時間をかけてアプローチする

では、どうすれば良いのでしょうか?

ここで必要なのは、「時間をかけること」です。

「えっ?それって『時間が解決する』ってこと?」「そんな投げやりな…」と思った方もいるかもしれません。

でも実はこれ、「ザイオンス効果」という心理学的なアプローチなのです。

ザイオンス効果とは、単純接触効果ともよばれ、「同じ情報に何度も接触するうちに、好感をもったり、好印象に変化したりする現象」のことです。

「昔からずっと使っているから、なんとなく捨てられない」という愛着心がこれにあたります。

これと同じで、長く一緒にいる人、接触した人にも愛着がわきます。

人は、何度も会ったり、何度も見たり、何度も聞いたりすると、回数に応じて好感度が上がることがあります。

なので、診療を担当制にするのも良いと思いますし、来院回数を重ねることで相手が歯科医院という場に馴染み、「安心して通える場所」に変わることで、少しずつ表情やリアクションに良い変化が起こることも期待できます。

また、併せて「予防の大切さ」という同じ情報を、以下のように角度を変えて少しずつ伝え続けてみましょう。

「健康な歯があるからこそおいしく食事が食べられますよね」
「むし歯になってしまうと歯に穴が開いて痛みが出たり、機能面に問題が出ますよね」
「キレイな歯はそれだけで好感度が上がりますよね」

だからこそ、歯を大切にすることって大事ですよね

このように、毎回少しずつ歯に対する理解を深めてもらったり、「来院していること自体が歯を守っている予防行動であり、価値のあること」だと伝えたりすることで、さらに興味関心をもってもらえるかと思います。

ぜひ相手との関係性を築くこと自体に焦らず、少しずつ時間をかけて相互理解を深めていきましょう。

相手のペースに合わせる・観察する・共通点を見つける

自分のことを話さない人から強引に話を聞き出そうとすると、余計に相手が殻に閉じこもってしまう可能性があります。

人見知りやシャイな人にとって、「話さなければならない」という雰囲気は、それだけでプレッシャーとなります

まだ親しくなっていない人に対して、自分の話をすること自体が苦手な人もいます。

そのような相手に対しては、最初から深く話を聞こうとしても、余計に警戒されてしまい、さらに心の距離が広がってしまうだけです。

相手がまだ話したくなさそうにしていたら、いったんその話題はやめて、興味のありそうな話題に変えるなど、相手のペースに合わせた対応を心がけます。

そのためには、会話をしているときの表情の変化や視線の移り変わり、相手の仕草、持ち物などが会話のヒントになります

話の中で少し興味深そうな表情をしたり、こちらに目線を移したりする場合、その話題は相手にとって興味がある内容である可能性が高いです。

自分のことを話さない人と信頼関係を築くには、まずは相手を観察することから始めてみましょう。

そして相手を観察する以外にも、相手の防衛本能を働かせないようにする具体的な方法があります。

それは、相手と自分との共通点を見つけることです。

たとえば、「同じ年齢である」とか、「出身地が同じ」とか。

また、相手の持ち物から、「好きなキャラクターが同じ」と共通点を伝えたり、「スポーツの趣味があるの?」と尋ねたり、身につけているスマートウォッチを話題にしたりするのも良いと思います。

そして、共通点が見つかったら、それにまつわる話をしてみましょう。

そこで通じ合うことができると、相手は少しずつ親しみを感じて緊張感がほぐれ、コミュニケーションがうまくいくようになっていきます。ぜひ試してみてくださいね。

無口な患者さんの対応は「苦手」?まずは先入観を捨てるところから

コミュニケーションは「相手」と「自分」があってこそ成立するものです。

無口な患者さんに限ったことではないですが、相手の反応に対して自分が「どのように感じ」「どのように思うのか」「そしてどのような反応を示すのか」を知ることが、コミュニケーションを円滑に進める上で大切な要素になります。

無口な患者さんを担当することになったとき、あなたならどう感じますか?

「苦手だなあ…」「怖そうだなあ…」「何を考えているのかわからないなあ…」など、感じることはさまざまあると思います。

ここで大切なことは、「苦手という先入観をもってしまっている私」の反応です

「無口であること」自体は、悪いことではありませんよね。

でも、そうわかっていても、「無口な人はなんだか怖い」と感じてしまうのはなぜでしょうか?

これは「無口である」、つまり「感情表現をしない」相手を見て、相手がどのような状態なのか、何を考えているのかが伝わってこないことから不安感を抱き、「苦手」「怖い」と感じて相手を警戒するためで、「警戒仮説」という心理作用です。

「警戒仮説」とは、得体の知れないもの、脅威を感じるものから自分を遠ざけることで、不快に感じることを未然に防ごうとする心理作用のことです。

相手が無口で反応がないと、「何を感じて、何を考えているのかわからない」という不安感に駆られますよね。このように感じると相手を警戒し、そして積極的に関わろうとは思えなくなってしまうのです。

この「苦手意識」がパターン化され、警戒仮説が働くことによって、今後「同じような脅威」に対しても同じ思考が繰り返されてしまう(怖がってしまう)

自分を脅威から守るための大切な機能ではあるのですが、一度「無口な人は怖い」→「だから苦手」という気持ちが自分の中でできあがってしまうと、初対面で苦手と感じた相手ではなくとも「無口な人=苦手」という図式が成り立ってしまい、「無口な人」というだけで話しにくくなってしまうのです。

この「無口な人は怖いから苦手」という先入観を捨てることこそが、コミュニケーションをとるための最初の一歩であると言っても過言ではありません。

また、初めにお話しした「無口な患者さんの心理」を思い出して相手のことを知ろうとすることで、少しでも相手と話がしやすくなるかと思います。

緊張は波及しますから、まずは自分から落ち着いた明るい笑顔でコミュニケーションをとってみてくださいね。

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