訪問歯科の現場から vol.2 施設に入居している患者さんならではのエピソード

みなさん、こんにちは。歯科衛生士歴15年のYota Morisakiです。

現在は訪問歯科で働きはじめ、6年ほどになります。

訪問歯科の現場では、今までの一般歯科で行っていたやり方がまったく通用しないことがたくさんあります。

前回の記事はこちら

vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード

この連載を通して、私が訪問歯科の現場で日々感じることや、訪問歯科で働く歯科衛生士、また診察する患者さんやご家族の等身大の姿を知ってもらえると嬉しいです。

訪問歯科の現場から

施設に入居している患者さんならではのエピソード

私の訪問歯科の現場は、患者さんの自宅だけでなく、老人ホームなどの施設も含まれています。

家族との会話がメインである自宅療養の患者さんに比べ、施設の患者さんの主な会話の相手は、同じ入居者の方か職員の方になります。

もちろん家族の方が訪問されると患者さんは喜ぶのですが、会話の相手が身内ではないからこそ、話せる内容もあるようです。

今回は、そういった施設に入居している患者さんならではの訪問歯科エピソードをお伝えしたいと思います。

こんなことまで聞いて大丈夫?!話す内容がとってもプライベート!

関東では有数の、大きな施設に訪問した時の話です。

それまでの私は、自宅の患者さんか、施設でもごく少数の患者さんの訪問診療を担当していました。

しかしその日は、施設の8人ほどの患者さんを一日で診るという、私にとっては初めての経験をする日となりました。

まずはじめに驚いたことは、みなさんプライベートな話を非常によく話してくれるということです。

高齢者の機能訓練として、歌を歌ったり、五十音を言ったりするなど、発声することは、口腔の機能保持にとても良いとされています。

会話もその一環なので、私は普段から患者さんの話がはじまったら、なるべく止めないようにして耳を傾けるようにしていました。

それにしても…!みなさん、戦争時代の空襲の話から、子どもの話、はたまた初恋の話や、何歳ぐらいになるとどういう男性にモテるようになるかなどの武勇伝まで(笑)、本当にたくさん話してくれるのです!

もともと私も思い出話を聞くのが大好きなので、つい聞き入ってすぐに時間がきてしまう、そしてまた次の患者さんの思い出話を聞く、ということが本当によくありました。

そして、それは今でも多くあり、それを楽しみに仕事をしていると言っても過言ではありません!

歯科衛生士としてではなく、人として居場所をもらっている感覚

会話の相手が家族ではないからこそ話せる話もあるんだと気がついてからは、さらによく話を聞くようにしました。

それは“家族と暮らしていないから寂しい。”ということではなく、“ふと通りかかったような人にだからこそ話せるストーリーがある。”ということだと思っています。

そんな時、私は歯科衛生士として派遣されている身なのですが、人としてその場にいて良いような、居場所をもらっているような、不思議な感覚になります。

一般歯科であっても、患者さんの話を聞くことはとても大切ですよね。

しかし私自身、一般歯科でここまで深い話をすることはありませんでした。

それよりも大切なのは「きれいになった!」「良くなってる!」などの結果でした。

患者さんも、そういった結果を求めて来院する方が多くいましたし、そのバランスに悩んだこともあります。

でも訪問歯科は、きっと結果がすべてではないのだと思います。

私は、患者さんの機能訓練と並行またはその一環として、「楽しい!」「嬉しい!」「昔を思い出して懐かしい!」などの感情を、一緒に共有できればいいなと考えています。

そして、患者さんのその日のQOLを上げることに繋がること、それが積み重ねられることを望んで仕事に取り組んでいます。

***

訪問歯科で働いていると、患者さんの少しの変化や反応を感じとれる瞬間にたくさん出会えます。

それぞれの患者さんにとっての貴重な瞬間に立ち会えて、一瞬も目が離せない、そんな訪問歯科の現場が私は大好きです。

ご興味をお持ちの方は、ぜひ訪問歯科の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。

訪問歯科の現場から

vol.1 乾燥痰の除去に苦戦した新人時代のエピソード
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