こんにちは、アメリカで歯科衛生士として働いているグリフィス友美です。
みなさんは、「アメリカ×歯科業界」と聞いて何を思い浮かべますか?
最新の情報が飛び交っていそう、歯科医療従事者のレベルが高そう、などさまざまかと思います。
本連載では、みなさんに最新のアメリカの歯科事情をお届けできればと思います。
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今回は、近年普及中の「デンタルセラピスト」についてお伝えします。
デンタルセラピスト(DT)とは
デンタルセラピスト(以下、DT)は、1921年にニュージーランドで誕生して以来、アメリカを含む54ヶ国以上で活躍する職種です。DTは、歯科衛生士には禁止されている診療行為ができ、歯科医院で働いたり在宅医療を行ったりしています。
医師のような高度な医療行為はできないことから、ミッドレベル(中度)の医療行為ができる医療従事者=「ミッドレベル・プロバイダー」と呼びます。
このミッドレベル・プロバイダーとは、アメリカでは馴染みのある名称です。ナース・プラクティショナーやフィジシャン・アシスタントなどがよくあげられますが、DTもこれらの職種と同じ位置にあたります。
アメリカでは、歯科医師数が十分ではない地域に歯科治療を提供するべく、さまざまな取り組みを行ってきました。たとえば、「ミッドレベル・プロバイダー」として新たにDTを育成したり、既存の歯科衛生士を育成して、より幅広い施術を行える歯科衛生士ベースのDTを育成するなどです。
2003年、アラスカ先住民の学生たちがニュージーランド研修から帰国し、2005年にミッドレベル・プロバイダーとしてアメリカ初の“デンタルヘルスエイドセラピスト(以下DHATs)”が誕生しました。
DHATsはアラスカ州で認定された学校に行くことにより取得できる資格で、特に歯科衛生士の資格は必要としません。アラスカ先住民の医療制度における定期的な口腔ケアの必要性に応え、州内の農村地域に住む人々に、歯科治療と予防サービスを提供する存在となりました。
アメリカのさまざまな州に普及中!
現在、DTが認可されているのは、以下13州(紫色)です。
ミネソタ、メイン、バーモント、アリゾナ、ミシガン、ニューメキシコ、ネバダ、コネチカット、ワシントン、アイダホ、モンタナ、アラスカ、オレゴン州が該当します。
また、6州(ピンク色)は2021年にDT申請予定となった地域。フロリダ、カンザス、ノースダコタ、マサチューセッツ、ニューヨーク、ウィスコンシン州です。
州ごとに異なるDT
以下は、州ごとの規制を表したものです。
State(州)を見ると、オレゴン州が2016年、2020年と2つありますよね。
これは、先住民の地域で先にDT試験計画をはじめ、その後歯科衛生士ベースのDT試験計画をはじめたからです。
このように認可されている13州においても、DTになるために歯科衛生士のライセンスが必須な州と、歯科の知識がなくても学校に行くことでライセンスが取得できる州、歯科医療認定委員会(以下CODA)プログラムの受講や大学院博士号の取得が義務付けられている州など、州によってさまざまな規制が設けられています。
2021年の時点で、実際にDTが就業しているのはアラスカ、ミネソタ、メイン、ワシントン、オレゴン州のみとなっています。
ミネソタ州
歯科衛生士ベース(歯科衛生士のライセンスが必須)のDTを初めて認めたのは、ミネソタ州です。
ミネソタ州では、2009年にDTが州法で認可され、2011年に最初のクリニックが開業しました。2020年の時点で113名がDTとして就業し、その多くは歯科衛生士ライセンスの保持者です。
ミネソタ州のDTは、ミッドレベルのデンタルヘルスプロバイダーとして教育や臨床、治療のための患者サービスを提供する免許をもった“口腔衛生の専門家”と位置付けられています。
また、ミネソタ州では2種類のDTが存在します。
一つは、ミネソタ州で認可されたデンタルセラピーコースを修了したDTです。そしてもう一つは、歯科衛生士のライセンスを取得後にミネソタ州歯科医師会に認可された大学院コースMaster of Science in Advanced Dental Therapy graduate degree(MSADT)を修了したADTです。
ミネソタ州のDT、ADTは、ともにミッドレベルのデンタルヘルスプロバイダーです。どちらも特定の診療範囲をもち、歯科医師と共同管理契約を結ぶことが義務付けられています。
ネバダ州
ネバダ州でDTとして働くには、DTライセンスと歯科衛生士ライセンス(公衆衛生活動の許可書必須)の2つのライセンス(二重免許)を取得する必要があります。
ネバダ州では2019年に、歯科医療サービスにアクセスできないコミュニティへの対応として、DTが州法で認可されました。
DTが認められている診療範囲は、以下の通りです。
- 口腔衛生(予防とう蝕治療)
- スケーリング・ルートプレーニング
- 乳歯と動揺のある永久歯の抜歯
- 感染症治療の炎症剤や抗生物質の処方
- 歯科医師会が認めている治療
そして、CODAにより認定されたDT教育プログラムを受講し、二重免許の取得後、指導歯科医と共同診療契約を結ぶことが義務付けられています。
オレゴン州
オレゴン州では、2011年にDTの法案が提出されたものの否決。代わりに、デンタルセラピーと同等のスキルを持つミッドレベルの開業医を育てる試験計画が進められてきました。
現在は、2016年に導入されたアラスカ州のDHATsをモデルにしたDTが、試験計画のもとで働いています。2020年には、歯科衛生士ベース(二重免許)のDTを育成する試験計画がはじまりました。
そして、オレゴン州におけるDTの申請者は、CODAにより認定されたDT教育プログラムの修了、もしくは認定歯科医療の試験計画への参加が最終法案に明記されました。
今後はこれらの試験計画をもとに、どのようなDTがオレゴン州で活躍することになるのか、2025年を目処に決めていく予定になっています。
このように、アメリカでは州ごとに細かいルールがあり、どのモデルがニーズに合うのかは、それぞれの州が決めることになっています。そのため、アメリカで働くDTの全員が歯科衛生士ライセンスを取得しているわけではないのが現状です。
現在、DTが認可される13州のうち、二重免許が必要な州は7州。
申請中の6州は、歯科衛生士とDTの二重免許の取得を義務付ける必要があるという法案を出していますが、新たな職種として歯科衛生士のライセンスを必要としないDHATsをサポートする動きもあり、今後の展開はまだわかりません。
歯科衛生士ベースのDTの普及に向けて
現時点で以下の42州は、ダイレクトアクセスという歯科衛生士が歯科医院以外の場所で、歯科医師を必要とせず、限られた患者さんへの診療を行うことが認められています。
アメリカ歯科衛生士会(ADHA)は、
多くの歯科衛生士の口腔保健を提供する能力は整っており、国民は予防医学や医療技術など幅広いスキルを持つミッドレベルの開業医の恩恵を受けることができる。
として、歯科衛生士ベース(二重免許)のDTが普及することをサポートしています。
今後、多くの歯科衛生士ベースのDTが活躍することに期待したいですね。