食べる力を育てる“赤ちゃん主導の離乳”を学ぶワークショップが開催

歯科衛生士の鯨岡紀子です。

衛生士歴34年目の現在、歯科医師の主人とともに診療所を経営し、働きやすい環境づくりにつとめています。

12月7日、日本BLW協会主催の専門家向けワークショップに参加してまいりました。
(参照:ワークショップ開催報告-BLW

左からTracey Murkett氏、Gill Rapley氏
左からTracey Murkett先生、Gill Rapley先生(提供:根城よしだ歯科 吉田美沙子さん)

今回のワークショップは、赤ちゃん主導の離乳『Baby-Led Weaning』の著者であるGill Rapley先生、Tracey Murkett先生のお二人が来日し開催されたのですが、申し込み開始5分でチケットは完売。世間からの関心の高さが伺えるワークショップでした。

『Baby-Led Weaning』は、昨年末に日本版が発売されています。

日本版「自分で食べる! 」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳(BLW)入門はこちら

自分自身の低位舌の原因を紐解いていく中で、幼少期の食生活を含む環境をあれこれ振り返っていたところでした。また、保育園や小学校の健診に同行する中で、歯列不正や永久歯への生え変わりの遅れなどを課題と考えていました。

今年度より、口を使った遊びの紹介なども取り入れ、歯科衛生士としてさらにどんなアプローチをしたらいいのだろうと思案しているところでもあり、その学びの中で出会った本がこちらです。

宮古島の子どもたち: そしゃく器官の発達のために(MyISBN - デザインエッグ社)
『宮古島の子どもたち:そしゃく器官の発達のために』の詳細へ

編著者は、咀嚼機能を発達させるための取り組みを30年以上前に宮古島でしてこられた、保健師の坂下玲子さん。『宮古島の子どもたち』は、育児の基本書であるといわれています。

彼女はフィンガーフードである離乳食を渡し、行動観察や発達の経過を追っていったようです。その坂下玲子さん監修による新刊を、発売前より心待ちにしていました。発売について知ったのは、たけのやま歯科 山田翔先生のFacebookでした。

ワークショップには歯科関係の方のみならず、助産師、小児科医、管理栄養士などさまざまな職種の方が全国各地から集まりました。

Gill先生からの提案で、自己紹介は、好きな食べものと嫌いな食べもの、その理由をそれぞれ発表していきました。好きなものの理由には、幼少期の家族との思い出を挙げる方が多く、嫌いなものには食感や匂いなどを挙げる傾向がありました。

私の嫌いなものは、納豆。食べたことが記憶にない。匂いが苦手。

というわがままなもので、私の後に発表されたスレンダーで美しいドクターが、「好きな食べものは納豆です。納豆で育ちました。」とおっしゃったときに得た、圧倒的敗北感。医療者として非常に肩身のせまい思いをしました。

同時通訳を介しての講演では、赤ちゃん主導の食事風景が、写真や動画で何枚も流れました。赤ちゃんの笑顔とお母さんの楽しそうな様子に目を奪われました。と同時に、子どもの持つ力に驚かされました。

BLW協会代表 尾形夏実さんのお子さん(7カ月)がスイカを食べている様子
BLW協会代表 尾形夏実さんのお子さん(7カ月)がスイカを食べている様子

また、同じテーブルには、BLWを導入されているお父さんお母さんもいて、お子さんが骨つきの肉にかぶりつく姿をスマホで見せてくださいました。

赤ちゃんには、肉はほぐしてあげるものだという先入観があったので、「うらやましい。楽しそう!もう一度、子育てをしてみたい。」心からそう思いました。

私の子育てにおける離乳食は、完全に一方的でした。核家族でしたので、本や雑誌を参考にしながら、月齢に合ったものをスプーンで口に運びました。離乳食の中には、嫌そうな顔をしたものも多くありました。忘れられないのはブロッコリー粥です。

BLWでは蒸すか茹でたブロッコリーを手でつかんで食べさせます。最初はしゃぶるだけ。徐々に茎のほうまで噛んでいくようになるそうです。はじめはそれが食べものであるという認識はないので、投げて終わる場合もあります。

匂いを嗅いだり、舐めたり・・・。これは食物にかぎったことでありません。赤ちゃんというのは、触ったものを口に運ぶものです。

当時、スプーンであげたブロッコリー粥を、うちの子どもはベーッと吐き出しました。もしかしたら茹でたブロッコリーを用意したら、自分で持って楽しそうに食べたかもしれません。

実際にそういうことはよくあるそうです。スプーンで口にいれたものを吐き出したからといって、嫌いだとはかぎりません。

BLWのメリットとして、野菜や肉、魚の味そのものを知るということもあります。

私たちは、ランダムに用意された何種類かの小さな「もの」を、食べものそうでないものとにグループ分けするというワークを行いました。

グループ分けワークショップの様子
グループ分けワークショップの様子

見る。触る。匂いを嗅ぐ・・・。イギリスで用意されたであろうカラフルなお菓子は、混ぜられたボタンと区別がつきにくいです。でも自分たちの経験を頼りに、「穴が開いているからボタンかな」などと推測するのです。

このワークで、ヘレンケラーの水を思い出しました。手に水を注ぎながら、手話で“water” と綴る。突如として、ヘレンはものに名前があることに気づく。闇に光が差した瞬間だといいます。

赤ちゃんは経験を通じて、食べることを学ぶ。最初から食べものであるとは認識していない。繰り返し繰り返し体験することで学んでいく。と同時に、五感が鍛えられる。

決定権が赤ちゃんにあるからこそ、あんなにいい表情で食べているのだという私自身の気づき(water)の瞬間でもありました。

Gill先生は、食べ物について学ぶことは教育につながる。物理を学ぶようなものである、と言いました。

幼児教育に携わる知人は、子どもが不器用になっているのは、手づかみで食べさせないせいだと話していました。

最初は口まで食べものが運べないところから、徐々に口の中に運べるようになり、大きいものだけでなく小さいものをつかめるようになる。汚さないように運ぶ。そしてカラトリー(スプーン、箸)へと移行する。

口の中の異物を吐き出す。目で見て食べられないもの(皮)を除去するなど、さまざまな段階で手や口を使い、機能や考える力を育んでいくのだと思います。

そして手づかみで一生懸命食べることは「今、この瞬間を大切にするマインドフルネスの実践」ともいえます。食べることへの集中・・・。

つづいて、既製のペースト食にどんな素材が入っているかというワークを行いました。

提供されたペースト(提供:歯科衛生士 吉田美沙子さん)
提供されたペースト(提供:根城よしだ歯科 吉田美沙子さん)

何が入っているかを色、匂い、味で判断し、グループディスカッションをしましたが、口当たりの良い工業製品を食べている感じでした。すべてを当てられるような人はいないぐらい難しかったです。

BLWには野菜や肉、魚の味や形そのものを知るというメリットがあるということがよくわかりました。

最後は、赤ちゃん役と親役の二手に分かれ、ペースト食をスプーンで食べる&食べさせるワークでした。私は食べさせる側でしたので、わが子に食べさせていた日のことを思い出しました。

「早く食べてくれないかな、残さないでほしいな、汚さないでほしいな。」

食事の時間は1日3回巡ってきます。早く食べさせて、片付けたい。そして次のことをしたい。そんな親の本音が頭をよぎりながら、でも医療者なんだしいいとこ見せたいし、優しそうに食べさせなくちゃ・・・!という邪念。

赤ちゃん役はなかなか食べてくれません。口を開けない・・・。

今回赤ちゃん役をしてくださった歯科医の先生は、BLWを実践していらっしゃいます。赤ちゃんに食べさせることすらできない自分。この日、2度目の敗北感・・・。

わが子にも無理やり食べさせたことがあったし、私自身も無理やり食べさせられていたことが多かったということに気づきました。(絶対に楽しくない体験の繰り返し)

私は食が細かったのに、毎回、無理矢理完食させられていたことが苦痛でした。母はよく食べる兄を基準に考えていたかもしれないし、弟もいたしという忙しい中で、悪気があったわけではないはずです。でも飲み込めなくて、口にため込んでいた。噛まない、舌を使わない。それが幼少期の私。

今もお母さんたちは、わが子の身体のためにと一生懸命食事の支度をし、一生懸命スプーンで口に運んでいるはずです。子どものためにと…でも、子どもがどんな気持ちか、ということまではなかなか想像できないと思います。ちょっとイライラしながら、でも自分を責めているかもしれません。

噛むことを自然に促せるBLWを通じて、咀嚼機能の発達を期待するだけでなく、お母さん自身、もちろん赤ちゃんも一緒に楽しく食事の時間を過ごせるようにと願ってやみません。

私は、このワークショップをきっかけに、納豆を食べはじめました。さらに、食が身体を作るということを、今まで以上に強く意識するようになりました。このことを多くの子育て中の方、これから子育てをする方、また祖父母世代の方に伝えたいと思っています。

食べることで得られるものは、栄養だけではありません。五感を鍛える、集中力を高める。後にはマナーや教養にも繋がります。なにより楽しむことが肝要であると思います。

食べることについて学ぶことは、教育につながる。物理を学ぶようなもの。

なお、BLWには開始時期、赤ちゃんの姿勢、誤嚥防止などに配慮が必要になりますので、下記の記事もご参照ください。

体験したママたちの声 イギリス発の手づかみ食べ離乳法BLW-たまひよ

今回写真を一部提供していただいた根城よしだ歯科の吉田美沙子さん。BLWを実践されているママさん歯科衛生士です。彼女のブログもぜひご覧ください。

日本BLW協会役員の方と、イギリスから来日されたお二人の先生
日本BLW協会役員の方と、イギリスから来日された先生方