みんなのメインテナンス事情 #03 平澤一美さん『予防歯科は乳児期からはじまることを実感』

歯科衛生士のみなさんは、毎日どれくらいの患者さんのメインテナンスを行いますか?

診療室の状況によっては、時間にゆとりを持って行えるときもあれば、チェアータイムを短縮して行わなければいけないようなときもありますよね。

さまざまなメインテナンス方法がある中、dStyleでは、経験年数10年以上のベテラン歯科衛生士に、普段のメインテナンスについてインタビューを行いました。

このインタビューをきっかけに、ご自身のメインテナンスを見直すきっかけになれば嬉しいです。

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今回は、歯科衛生士歴12年目の平澤一美さんにお話を伺いました。

平澤さんは、学生時代の実習でお世話になった坂田歯科医院に、新卒から現在まで、二度の産休・育休を取得しながら勤め続けています。

育休中も自身の知識や技術の研鑽に励み、現在は歯科医院に来院する患者さんだけでなく、子育て支援センターに訪れる保護者の方に向けたセミナーなども開催しています。

歯科衛生士 平澤一美さん
歯科衛生士 平澤一美さん
現在の職場はどんな歯科医院?

予防歯科がベースとなっている歯科医院で、北欧の診療スタイルに近いと思います。

地域の方々の健康を守るために、質の高いメインテナンスを提供できるよう常に学び、それをスタッフみんなで共有しながら成長してきた医院です。

メインテナンスを担当する歯科衛生士は7名在籍しており、個室で担当患者さんの診療を行います。アポイントも歯科衛生士がとるため、患者さんの口腔内の状態や処置内容によって時間などを調整することができます。

また、治療部専任としても歯科衛生士が3名在籍し、他には歯科助手が1名と受付1名、クリーンスタッフ2名が在籍しています。歯科医師は院長と非常勤の計5名の先生が在籍していますね。

私自身、二度の産休・育休を取得し、生活スタイルに合わせて柔軟な働き方ができているため、職場にはとても感謝しています。

坂田歯科医院のスタッフのみなさん(下段2人目が平澤さん)
坂田歯科医院のみなさんと(下段2人目が平澤さん)
新型コロナウイルスの影響によってメインテナンス方法や患者さんとの接し方は変わりましたか?

マスクの着用が必須になってしまったことについては、個人的に残念だなと感じています。

子どもと関わるときは特に、目元以外にも口元や表情から伝わる情報にとても意義があると考えているからです。

現在は、マスクを着用したままでも最大限のコミュニケーションがとれるよう、以下のことに気をつけています。

  • かならず目線を合わせる
  • 導入時のアイスブレイクを大切にする
  • 目元の笑顔を作る
  • ペップトークを心がける

また、以前よりもユニットや個室内の消毒に時間を割く必要がでてきましたし、換気にも気を配るようになりましたね。

スタッフ全員で感染管理のセミナーを受け、みんなで何度も話し合いながら、効率的かつ的確に消毒できる方法を日々改善して行っています

その延長で、空気清浄機と口腔外バキュームを各部屋に設置してもらえるようになったので、以前よりもより安心・安全な環境になったと感じています。

診療中の平澤さん
診療中の平澤さん
メインテナンスのタイムスケジュールは?

基本的なチェアタイムは、乳歯列期の患者さんの場合は30分、混合歯列期は45分、永久歯列は60分の時間をとっています。

  1. 導入・問診:5分
  2. 必要に応じて口腔内写真撮影や咬翼法、デンタル、パノラマレントゲン撮影:10分
    ※ 年に1回程度
  3. 口腔内診査:10分
  4. セルフケアの確認:15分
    ※必要に応じて染め出しや位相差顕微鏡を使用する
  5. プロフェッショナルケア(エアブラシによるスケーリングやポリッシング):10
  6. PMTC・フロッシング・フッ化物塗布:5分
  7. 次回のアポイントをとる
  8. 機材撤去・清掃・カルテ入力:5分

写真やレントゲン撮影を行う場合は、それぞれのチェアタイムに15分プラスしてアポイントをとっています。

小児のメインテナンスでこだわっていること、または気をつけていることはなんですか?

小児といえども、いち個人として接することです。

保護者の方と一緒に来院されても、本人の意思や意見を聞き出せるような問いかけ方を心がけています。

低年齢児は言葉の表現がまだむずかしい時期なので、「しぐさ」や「表情」にも目や耳を傾けるよう気をつけていますね。

成人の患者さんであってももちろんですが、特に小児の場合は、相手から歯科医療従事者のことを信頼してもらう必要性を強く感じます

流れ通りに業務を進めることよりも、その子に「いま何が必要なのか」ということをよく考えて行動する、柔軟な思考と対応が必要とされると思います。

チェアタイムがいつもより短い、そんなときはどうしていますか?

主訴や要望がある場合は、まずそこを優先して処置します。

特になければ、ポイントを絞って必要なことを必要なだけやるのみです。

メインテナンスって、ただ「クリーニングをする時間」ではないと思うんです。なので、毎回全歯をクリーニングしてあげることだけが大切ではないと思っています。

それよりも、セルフケアで対応できるところと、プロフェッショナルケアが必要なところを患者さんと私たちが共有し、セルフケアで行えることを増やしていくための知識や技術を得てもらうことの方が重要だと考えています。

患者さんも一回ではたくさんのことを覚え切れないため、毎回一つのテーマに絞り、その時間内にできることを選んで指導しています

患者さんにOHIを行う平澤さん
OHIではテーマを一つに絞るように心がけている
メインテナンスに欠かせない器材は?

小児のメインテナンスには、MIペーストのチョコレート味とピカキッズをよく使っています。

PMTCに使用するペーストの味が選べるのは、小児の患者さんにとってはモチベーションの一つになっているようです。

特にMIペーストのチョコレート味は、思っていたよりも幼児に人気がありました。限定フレーバーのため、販売がはじまったら1年分の在庫を購入しています。

PMTC自体に歯への直接的な効果を求めていないため、ペーストは侵襲性の少ないものを選んでいます。

学童期~プラークの多い成人の患者さんには、ヨシダのユリーもよく使っていますね。

ユリーとMIペースト、ピカキッズ
ユリーとMIペースト、ピカキッズ

また、ブレードがかなり細身で隣接面や細かい部分にアプローチしやすい、シックルスケーラーのPDTモンタナジャックリジットもお気に入りアイテムの一つです!

下顎前歯部のちょっとした歯石の除去に最適で、歯への接触が最小限で済むところが気に入っています♪

PDTモンタナジャックリジット(画像は株式会社マイクロテックHPより引用)
PDTモンタナジャックリジット(画像は株式会社マイクロテックHPより引用)
今後の目標を教えてください

いまの小さな目標は、人が健康に育つために必要なことをさまざまな視点から学ぶことです!

いまは「運動発達学」について学んでいますが、栄養学ももう少し深めたいと考えています。

出産や育児を経験してからは、歯科が母乳育児に関わる必要性をより感じているので、いずれは国際資格である「IBCLC」を取得したいです。

院内の目標としては、より低年齢から通える医院のしくみ作りを提案していきたいですね。

これまでは3歳児健診をきっかけに小児のメインテナンスをはじめることが多かったので、妊婦さんの時期から関わり、お子さんが生まれた後も繋がりを保っていられるようなしくみを作っていきたいです!

お子さんを育てる保護者の方が気軽に頼れる存在であり続けたいんですよね。

支援センターで母親教室を行う平澤さん
支援センターで母親教室を行う平澤さん

私は今まで、小児歯科専任の歯科衛生士というわけではなく、成人や高齢者の方も多く担当してきました。

問題の多い口腔内に出会い、その状態が「なぜ起こったのか」ということを突き詰めてきた結果、歯科疾患の予防は、生まれてすぐの乳児期からはじまっていることを知りました

予防歯科を突き詰めると、人が人として適切に正しく成長していく過程に、いま私たちが見ている口腔があります。

子どものリスクをできるだけ増やさずに、より良く育つためには、私たちが乳幼児期や胎児期から関わる必要があると考えています。今後はそのような院内外のしくみ作りも考えていきたいです。

そして私の大きな目標である、患者さんが「おいしく楽しく健康に“食べる”」ことをサポートするために、広い視点で関わりをもてるような歯科衛生士に少しでも近づいていきたいと思っています。

平澤さんが勤務する坂田歯科医院の求人情報はこちら
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