インプラント患者さんを担当することになったら?インプラントメインテナンスに欠かせないツール5選

いまや多くの患者さんが欠損部補綴の治療として選択するようになった「インプラント」。

インプラント治療が日本に導入されたの約40年前に比べると、現在では治療方法やインプラント埋入のリスク、メリット・デメリットなどが明確になりました。そのため、適応症であるケースにおいては、自信をもって患者さんにすすめることができる歯科医院が増えたのではないでしょうか。

今回は、インプラント治療に13年以上精通してきた歯科衛生士の工藤彩加さんに、インプラント患者さんに対して気をつけていることや、メインテナンスのポイントについて語っていただきました。

歯科衛生士 工藤彩加さん
歯科衛生士 工藤彩加さん

インプラントは若い患者さんにおすすめしにくい?

一昔前は、“インプラント=一生もつもの”として扱われてきたかと思います。それと同時に私たち歯科医療従事者側も、“一生もたせないといけない”と思っていた部分があったと思うんです。

しかしインプラントの症例が世界で急増する中で、インプラント周囲炎に関するエビデンスもどんどん発表されるようになりました。

長期間インプラントをもたせるには、セルフケアやプロフェッショナルケアによる炎症のコントロール、咬合などの力のコントロールも重要ということが明らかになってきたかと思います。

そして現在、インプラントは人体にとって「異物」であり、埋入したインプラントを一生涯喪失させないためにも、「できるだけインプラントの埋入時期を遅らせる」というアプローチをとる先生が増えました。

そのため、20〜30代の患者さんの治療の第一選択としては避けられる傾向がみられてきましたが、私はインプラント治療に対する「当事者意識」をもつ患者さんであれば、選択肢の一つとして考えてもよいと思っています。

インプラント患者さんのメインテナンスを行う工藤さん
インプラント患者さんのメインテナンスを行う工藤さん

どんな年代であっても、“とりあえず歯科医院に来たら口腔疾患を治してもらえると思っている患者さん”っていますよね。なんでも人頼みでものを考える人や、インプラント埋入を軽んじている人というんでしょうか。

そういう患者さんの方が、インプラント周囲炎に罹患するリスクははるかに高いと感じるんです。

なので、ご自身の口腔内にインプラントを埋入することを自分ごととして捉えられる人であれば、若い方でもおすすめするケースはあります。ただ、若くしてインプラントを入れることのリスクについては、十分に伝えた上で同意してもらえる方に限りますね。

また、インプラント埋入部位の歯を喪失した理由についても、歯科衛生士としてしっかりと把握しておくことが大切だと思っています。

歯科衛生士がインプラント手術前と術中で気をつけること

私が勤務している歯科医院では、術前に歯科医師と歯科衛生士でディスカッションする時間をとっています。

ディスカッションでは、最終補綴物の形態がどうなるかを考えた上で、インプラントの埋入位置を決定します。ケースによっては、理想的な位置に埋入できない場合もあるため、その際は補綴物の形態でどうカバーできるかということも一緒に考えます。

そしてその答え合わせができる唯一の場面が「術中」です。患者さんのインプラントが埋入された「ベースラインを知る」という意味でも、術中の状態を見ておくことは大切だと感じますね。

インプラント手術中の様子
インプラント手術中の様子

また、これらの情報を歯科衛生士が把握しておくことで、最終補綴物が入るよりもかなり前から、どうブラッシングすればインプラント部分のプラークコントロールを確立できるか、ということを考えることができます

そうすると、ヒーリングアバットメントやプロビジョナルを装着したときにもスムーズにOHIを行うことができるため、最終補綴物装着時にもどうアプローチするべきか悩むことがありません。

インプラントのメインテナンスでいちばん注目することは?

口腔内でいちばんに着目するのは、やはりインプラント周囲粘膜下、いわゆるインプラント周囲溝周りにバイオフィルムが付着しているかという点です。

私はインプラント患者さんのメインテナンス時に、インプラント部分のどこにプラークが付着していそうか予測を立ててから、染め出しを行っています。それで答え合わせするんですよね。

左:上部構造をはずす前に、プラークが付着していそうな部位をチェック 右:実際にはずした上部構造を染め出した様子
左:上部構造をはずす前に、プラークが付着していそうな部位をチェック 右:実際にはずした上部構造を染め出した様子

そうすると、自分の予測が当たっているところと外れているところが明確になり、どういう特徴があるところにプラークがつきやすいか、という感覚がどんどん研ぎ澄まされていくんです。

左:上部構造をはずす前に、プラークが付着していそうな部位をチェック 右:実際に上部構造をはずした口腔内
左:上部構造をはずす前に、プラークが付着していそうな部位をチェック 右:実際に上部構造をはずした口腔内

やったことがない歯科衛生士の方には、ぜひ一度やってみてほしいです!

また、メインテナンスに入った患者さんにおいても、インプラントのことを自分ごととして捉え続けられているかということはチェックします。モチベーションの部分ですね。

患者さんが自分のリスクについて理解し、セルフケアでコントロールできる部分については、必要なテクニックを身につけて実践できているか、ということはとても重要だと思います。なので、どの患者さんに対しても、そこのチェックはかならず行っています!

インプラントのメインテナンスに欠かせないアイテム5選

インプラント患者さんにおけるメインテナンス時のアプローチとしては、基本的に以下の順番で器具を使っています。

  1. SUSブラシ(口腔内全体)
  2. 歯間ブラシ(口腔内全体の歯間部)
  3. ※ スーパーフロス(ポンティックがある場合)
  4. ペリオブラシ・ワックスなしフロス・歯間ブラシ・ラバーカップ・(インプラント周囲溝内)

SUSブラシは、大まかなプラークはもちろん細かいプラークもすみずみまで取れるので、メインテナンス時に必ず使用しています。インプラント周囲にもアプローチしやすいので、長年のお気に入りアイテムです。

インプラント周囲にも届きやすいSUSブラシ
インプラント周囲にも届きやすいSUSブラシ

そしてプロフェッショナルケアでもセルフケアでも、インプラント部に使用するフロスは「ワックスなし」を選んでいます。インプラント周囲溝内にワックスが残存してしまうと、インプラント周囲粘膜に炎症を起こす可能性があるからです。

セルフケア用品としては、患者さんが使いやすいホルダータイプのものを選ぶことが多いですね。

ホルダータイプのフロスでインプラント周囲溝にアプローチしている様子
ホルダータイプのフロスでインプラント周囲溝にアプローチしている様子

特にプラークコントロールがむずかしいと思うのは、上部構造のカントゥアが頬側に張り出したような形態になっているインプラントです。

近遠心方向に張り出している場合は、フロスを使えばインプラント周囲溝にアプローチできるのですが、頬舌的に張り出している場合は、フロスでのアプローチが一気にむずかしくなります。

このようなケースに使えるのが「ペリオブラシ」です!ブラシの毛のコシがしっかりとしているので、周囲溝内にピンポイントに当たってくれるんですよね。

インプラント周囲の清掃に欠かせないペリオブラシ
インプラント周囲の清掃に欠かせないペリオブラシ

また、インプラント周囲に歯間ブラシを挿入する際は、歯間ブラシに洗口剤や歯磨剤をつけてプロフェッショナルケアを行っています。

例えば、歯間部にどれくらいプラークがついているか確認したい場合は、「コンクールF」を薄めた溶液を歯間ブラシにつけて挿入しています。

インプラント患者さんのメインテナンスの様子
インプラント患者さんのメインテナンス中の様子

コンクールFは緑色の溶液なので、歯間ブラシにプラークが付着してくると、一目でわかるんですよね。

すると、患者さんにもどれくらいプラークがついているかアピールしやすいので、プラークの付着量が多い患者さんにはコンクールFを使用することが多いです。

コンクールFを歯間ブラシにつけて清掃する様子
コンクールFを歯間ブラシにつけて清掃する様子

一方で、プラークコントロールが良好で、プラークの付着がほとんどみられない患者さんについては、「ジェルコートIP」を使用しています。

私が担当している患者さんは、全顎的にインプラント治療を行っている方がたくさんいるので、天然歯に対するフッ化物の恩恵を受ける必要がないんですよね。

中にはインプラント体のスレッドが露出している症例などもあるため、万が一のリスクを考えて、フッ化物無配合のジェルコートIPを使用しています。

歯間ブラシにジェルコートIPをつけて清掃する様子
歯間ブラシにジェルコートIPをつけて清掃する様子

いずれの清掃用具も、インプラント周囲溝内を何としてもきれいにしたいがために選択しているもので、「ここのバイオフィルムを取るには何がベストか」ということを常に考えることや、興味をもつことが大事だと考えています。

今回お伝えした内容が、歯科衛生士のみなさんにとって、充実したインプラントメインテナンスを行えるヒントになれば嬉しいです。

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