覚えておきたい!歯科にまつわる糖尿病の知識 第2回 なぜ高血糖が良くないのか

はじめまして、竹内里奈です。

この連載では、糖尿病またはその予備軍の患者さんに対して、実際の歯科診療における管理と考え方を、糖尿病予防指導認定歯科衛生士・糖尿病療養指導士の観点からお話しさせていただきます。

今回は、なぜ高血糖が良くないのか、血糖の役割と高血糖の関わりについてご説明しようと思います。

前回はこちら

第1回 糖尿病とは?

1.「血糖値」とは?
2.高血糖のメカニズム
3.高血糖になるとどうなるの?メインテナンス時のチェックポイント
4.覚えておきたい!糖尿病ミニコラム

1.「血糖値」とは?

“糖尿病”=“Diabetes Mellitus”という名前から意味を考えると、蜜のように甘い(Mellitus)尿がサイフォンのように溢れる(Diabetes)病ということになります。

しかし実際は、前回のイントロでもお話ししたように、糖尿病の定義には尿についての言及はなく、慢性的な高血糖状態であることとされています。

そして実際の臨床でも、尿糖ではなく「血糖」の値により、糖尿病は判断されます。

では、診断の基準になる「血糖」や「血糖値」とはどんなものでしょう?

皆さんの中には通勤などで車を利用する方も多いと思いますが、車を動かすためにはガソリンや電気といったエネルギーが必要ですよね。

人間の場合、糖質(グルコース)が体を動かすエネルギーになっています。そして、消化・吸収され血液中に放出されたグルコースを「血糖」といいます。

糖質(グルコース)designed by Freepik
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2.高血糖のメカニズム

血糖は血液とともに全身をめぐり、筋肉、肝臓や脂肪細胞といった必要な器官に取り込まれることで、体を動かすエネルギーとなります。

そして、その取り込みにおいて重要な働きをするのが「インスリン」です。

インスリンには細胞にかけられた鍵を開いたり閉じたりする機能があり、細胞内のグルコースを調節する働きをしています。そのため、私たちは常に何かを食べていなくても、体を動かすことができるのです。

それでは、もしもインスリンがそのパワーを失ったとしたらどうなるでしょう。

血中のグルコース(血糖)は筋肉に取り込まれず、肝臓や脂肪細胞などでも蓄えられなくなります。すなわち血液中に過剰な糖質が流れ続けることになります。

これがいわゆる「高血糖」な状態ということです。特定健診では、空腹時血糖100mg/dL以上を特定保健指導の基準値としています。

この状態が続くことで、本来ならエネルギーの元となって役に立つはずの糖質が、一転して悪者となり、血管をいじめてしまいます。そのため、高血糖が長く続くと、血管がボロボロになってしまうのです。

高血糖のメカニズム designed by Freepik
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たとえるなら、健康な血管が勢いよく水が流れる新品のホースだとすると、疲弊した血管は、長期間日光に当たりボロボロになってしまったホース。

ボロボロになったホースが水の流れが悪くなるように、いわゆる血管障害を起こすことになるのです。だから、高血糖がよくないんです。

3.高血糖になるとどうなるの?メインテナンス時のチェックポイント

高血糖の典型的な症状には、次のようなものがあります。

高血糖になるとどうなるの?メインテナンス時のチェックポイント

中には歯科受診の際に見分けられるポイントもありますので、糖尿病が疑われる患者さんがいらしたときにはぜひチェックしてみてください。

① 口渇

高血糖による脱水症状で、喉が渇くことがあります。

その結果、口腔が乾燥し、唾液の自浄作用が低下することで歯肉に炎症が起こりやすくなります。

② 多飲

高血糖による脱水症でたくさん飲み物を飲んでしまうことがあります。飲水量と飲んでいる物の内容を聞いてみてください。

③ 多尿

多飲している場合、多尿も認められます。

夜間のトイレ回数が2〜3回以上であれば、糖尿病の可能性が高いでしょう。

④ 体重減少、全身倦怠感

インスリンの欠乏によって糖が取り込めなくなると(高血糖)、重症であれば9〜10キロ痩せる場合もあります。

体重減少には全身の倦怠感も伴います。1ヵ月で急な体重変化がないか、尋ねてみるのも良いでしょう。

⑤こむら返り

高血糖が持続すると、就寝後の夜間や明け方にこむら返りが頻発します。

それは糖尿病の神経障害の症状である可能性があるため、夜間のこむら返りの有無を聞くのも良いでしょう。

毎日こむら返りを認めるようであれば、重度の高血糖が続いている可能性が高いでしょう。

⑥ 脱水症状

口腔内所見で、脱水により唾液分泌が低下すると、表面が乾燥して潤いが失われます。そして同時に、舌が一回り小さくなることがあり、舌の先が尖鋭化してくるようです。

そして、血糖値が正常に戻ると舌に潤いが戻り、丸みを帯びて元の形になるといったことがあります。

糖尿病が疑われる患者さんがいらしたときにはぜひチェックしてみてください。

参考文献:西田亙(2018)『糖尿病療養指導士に知ってほしい歯科のこと』医歯薬出版株式会社.
医療情報科学研究所(2019)『病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌』メディックメディア.
日本糖尿病学会(2019)『糖尿病診断ガイドライン2019』南江堂.

血管障害については、また合併症の回で詳しく話したいと思います。

4.覚えておきたい!糖尿病ミニコラム

幼い頃からの食生活は、色んなことに大きく関わっています。

歯科では、乳歯列期のお子さんには「砂糖を含む甘い清涼飲料水の飲み過ぎはむし歯になりやすい」という説明をします。ただ、これはむし歯だけの話ではなく糖尿病にもいえるようです。

近年、糖質の多いペットボトル飲料の過剰摂取が原因で、糖尿病を発症する10代の若者が増えていることが世界的な問題になっています。
(参照:暑い日はペットボトル症候群に注意-糖尿病ネットワーク

糖尿病を発症していることに気づかずに、糖質たっぷりのジュースやスポーツドリンクなどを大量に飲んだらどうなるでしょうか。

糖質を含む清涼飲料水を1本飲んだだけで血糖値は急上昇します。それを日常的に飲み続けたあげく、血糖値が危険なレベルにまで上昇すると、命の危機に陥る可能性もあります(ペットボトル症候群)。

むし歯や糖尿病への罹患リスクを考えると、甘いペットボトル飲料は百害あって一理なしといえるかもしれません(美味しいんですけどね)。

小さい頃から、普段の喉の渇きを潤すには糖質を含まないお茶や水を飲む習慣を身につけるよう、患者さんにお話ししましょう。

むし歯予防はもちろんのこと、小児の2型糖尿病予防や将来的に糖尿病に罹患するリスクの軽減にもつながることも忘れずにお話しすると、患者さんの目の色が変わるかもしれません。

覚えておきたい!糖尿病ミニコラム

覚えておきたい!歯科にまつわる糖尿病の知識

第1回 糖尿病とは?
第2回 なぜ高血糖が良くないのか