歯科衛生士向けおすすめ論文 No.25「SRP前のクリーニングに効果はない?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

SRP前に行うクリーニングの効果を調べた論文

今回解説するのはこちらの論文です。

非外科的歯周治療前の専門家による歯のクリーニング:無作為化臨床試験
『Journal of periodontology』

この論文は、ドイツのライプツィヒ大学病院とスイスのベルン大学による共同研究です。

SRP前のクリーニングが、SRPの予後に何らかの影響を与えるかどうかということを調べています。

どんな方法で調べている?

慢性歯周炎の患者さん 52 名をランダムに以下の2グループに分け、それぞれの施術を受けてもらいました。

  1. 動機づけや指導を含むクリーニングのアポイント2回+SRP
  2. SRPのみ

その後、各グループにおいてプロービング値とBOP、プラーク指数などの臨床パラメーターに加え、4種類の細菌数、2種類のバイオマーカーを測定。これをSRP前とSRP3ヶ月後、6ヶ月後の3回計測しました。

SRP前のクリーニングに臨床的な効果はない?!

両グループとも、SRP3・6ヶ月後において、プロービング値とアタッチメントレベル、プロービング時出血(BOP)、プラーク指数が有意に改善されました

クリーニングを行ったグループ ① は、SRPのみのグループ ② と比較して、SRP直前のアポイント時に、プロービング値とBOP、プラーク指数が有意に改善し、5mm以上のプロービング値を認める部位数が有意に減少していました。

また、歯周病原菌のレッドコンプレックスに該当するT.forsythiaは、両グループともSRP3・6ヶ月後で有意に減少し、P.gingivalisはグループ ① のみで減少したとのこと。

一方で、炎症性サイトカインの一種であるインターロイキン-1βは、グループ ② でSRP3・6ヶ月後に有意に減少し、歯周組織の破壊に関与するMMP-8は、グループ ① でSRP3ヶ月後に減少しました。

項目/グループ ① クリーニング2回+SRP ② SRPのみ
T.forsythia 3・6ヶ月後で有意に減少 3・6ヶ月後で有意に減少
P.gingivalis 減少
インターロイキン-1β 3・6ヶ月後で有意に減少
MMP-8 3ヶ月後に減少

結果としては、SRP3・6ヶ月後において、両グループ間の数値に有意差はなかったとされています。

* 有意という言葉については、前回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

この研究に対する考察

今回の論文では、SRP前にクリーニングを行うことは、SRPの予後に影響を与えないということが示されました

また、SRP後の歯肉溝滲出液中のバイオマーカーや主要な歯周病原菌に対する長期的な影響も認められないことが示唆されています。

しかし私が今回の研究結果で重要だと思うポイントは、グループ ① の方が「SRP直前のアポイント時に、プロービング値とBOP、プラーク指数が有意に改善し、5mm以上のプロービング値を認める部位数が有意に減少していた」という部分です。

SRP前にBOPやプラーク指数が減少していれば、SRP中またはSRP後における歯肉の疼痛や知覚過敏といった症状も軽減させられるのではないかと考えられるからです。浸潤麻酔が必要なケースであっても、不要になる可能性も考えられます。

また、BOPやプラークが少ない口腔内でSRPを行うことは、術者側にもメリットが豊富です。

歯石の目視や触知がしやすくなるだけでなく、5mm以上の歯周ポケットが減少していることで、SRP全体にかかる時間を短縮することができます

細菌数やバイオマーカーといった臨床的な数値に有意差はなくても、患者さんにとってはSRP時の不快感や苦痛、術者にとってはSRPの行いやすさに差がでているかもしれません。

あくまでも主観的な評価になるため、数値化することがむずかしい部分ですが、患者さんや術者の負担が減る可能性が考えられるのであれば、SRP前にOHIを伴うクリーニングを行うことは有効な手段ではないかと考えます。

一方で、臨床的な結果に有意差はないということから、治療を早く進めたい患者さんや、できるだけ来院回数を減らしたい方には、疼痛や知覚過敏のリスクを伝えた上で、すぐにSRPを行っても問題はないと考えられます。

個々の患者さんのリスクや事情に合わせて、臨機応変に治療計画を立てられるよう心がけましょう!

***

毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:Holger F R Jentsch, Thea H, Anne W, Sigrun E.(2019)「Professional tooth cleaning prior to non-surgical periodontal therapy: A randomized clinical trial」『 Journal of periodontology』2020 Feb;91(2):174-182.

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