歯科衛生士向けおすすめ論文 No.11「全顎 OR ブロックごと、どっちのSRPが有効?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

24時間以内に全顎のSRPを行う方法と、ブロックごとにSRPを行う方法を比較した論文

今回解説するのはこちらの論文です。

成人の慢性歯周炎におけるフルマウス治療(24時間以内)の方法
『Cochrane Database of Systematic Reviews』

こちらの論文は、イギリスに本部をおく「コクラン」という団体がもつ膨大なデータベースの中で、とくに信頼性が高い論文を集めて研究したシステマティックレビューです。

* システマティックレビューについては、こちらの記事で説明しています。
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」

慢性歯周炎の治療法のひとつである、「フルマウススケーリング(FMS)」。こちらは、24時間以内に全顎のSRPを行い、口腔内の歯周病細菌を一度になくす方法です。それに加えて、消毒薬を併用する方法のことを、「フルマウスディスインフェクション(FMD)」といいます。

この研究では、FMSとFMD、口腔内を4ブロックに分割してSRPを行う従来の方法の臨床的効果を比較した研究を集め、その結果を分析しています。

どんな方法で調べている?

2015年までに発表されたさまざまな比較研究から、信頼性の高いものだけを抽出。

侵襲性歯周炎や全身疾患をもつ方や、抗生物質を服用している被験者を除外し、少なくとも3ヶ月のフォローアップを行っている研究結果を選択しました。

その上、FMS群とブロックごとのSRPを行う群(コントロール群)、FMD群とコントロール群、FMS群とFMD群をそれぞれ比較した計12個の研究を選択し、分析しました。

フルマウススケーリング(FMS)

SRPの効果に有意差はなし?!

12個の研究を分析した結果、プロービング値(PPD)やアタッチメントレベル(CAL)に有意差はなく、FMSまたはFMDが従来のSRPと比較して有効な方法であるという明確なエビデンスはありませんでした。

有意という言葉については、第1回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

また、もっとも重大な副作用として、FMSまたはFMD後の発熱が報告されました。

この研究に対する考察

今回の研究では、慢性歯周炎に対するFMSやFMDの効果は、従来のSRPと変わらないということがわかりました。

一方で、効果が変わらないということは、これらの方法が歯周治療のひとつの選択肢であることを同時に示しているとも考えられるのではないでしょうか。

歯科医院に何度も通院できない事情がある患者さんや、一度に早く歯周病を治したい患者さんにはおすすめできる治療方法かもしれませんね。

ただし、治療後の菌血症によって発熱が起こるケースが報告されているため、終了時に抗生物質などを処方する歯科医院も多いようです。

また、ブロックごとに行う従来のSRPには、患者さんが歯科医院に何度も通院することで、術者との信頼関係が構築されるというメリットがあります。SRPで来院される度に、プラークコントロールの状態を確認でき、TBIも並行して行えるため、患者さんのブラッシング技術の向上を図れます。

それぞれの利点を理解して、患者さんにベストな治療をできるように心がけたいものですね♪

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毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです!

参考文献:Eberhard J, Jepsen S, Jervøe-Storm PM, Needleman I, Worthington HV.(2015)「Full-mouth treatment modalities (within 24 hours) for chronic periodontitis in adults.」『Cochrane Database of Systematic Reviews』2015 Apr; Cochrane Review Group

歯科衛生士向けおすすめ論文

No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」
No.2「ストレートVSアングル どっちの歯間ブラシを使うべき?」
No.3「スケーリングで削られてしまうセメント質はどれくらい?」
No.4「スケーリング前に行うブラッシングの効果は?」
No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」
No.6「プラーク除去に有効な歯ブラシの形状は?」
No.7「う蝕予防に効果がある歯磨剤のフッ化物濃度は?」
No.8「抗うつ薬服用患者はインプラントを喪失しやすい?」
No.9「ホワイトニング歯磨剤の着色に対する効果は?」
No.10「電動歯ブラシと手用歯ブラシどっちが有効?」
No.11「全顎 OR ブロックごと、どっちのSRPが有効?」