歯科衛生士向けおすすめ論文 No.23「PMTCで歯周病予防はできない?!」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

PMTCが歯周病予防に効果的であるか調べた論文

今回解説するのはこちらの論文です。

歯周炎の二次予防において長期的かつ日常的に行われる専門的な機械的プラーク除去の効果:システマティックレビュー
『Journal of Clinical Periodontology』

この論文は、2004年から2014年までに発表された、歯周病予防に対する専門的な機械的プラーク除去(PMTC)の効果について調査したデータを大量に集め、信頼性の高いものだけを抽出し、その結果を分析したものです。

* システマティックレビューについては、こちらの記事で説明しています。
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」

どんな方法で調べている?

さまざまなデータベースの中から、研究タイトルと要約によって1,655本の論文が選択されました。そのうち24本が抽出され、中でも新しい研究であった3本の論文が適当と判断されました。

選ばれた論文については、歯肉炎の有無に関わらず、18歳以上の男性または女性を対象としており、糖尿病や臓器移植患者など、特定の健康状態の被験者を調査した研究は除外されました。

この論文の中での「PMTC」とは、歯肉縁上縁下のスケーリングのことを指し、積極的なルートプレーニングや根面デブライドメントについては含まないとしました。

器具については、スケーラーやキュレットといった手用器具だけでなく、エアスケーラーや超音波スケーラー、コントラアングルハンドピースといった器具も使用しました。

歯肉縁上縁下のスケーリング

OHIせずにPMTCを行うことには価値がない?!

結果としては、口腔衛生指導(OHI)とPMTCを組み合わせて行うと、プラーク指数と歯肉からの出血が大幅に減少することが示されました。

ただし、 徹底的かつ反復的にOHIのみを行った場合も、OHI+PMTCの場合と比べ、プラーク指数と歯肉からの出血に対する効果に違いはみられなかったとのこと。

そのため、プラークの付着と歯肉の炎症に対する効果を考えると、OHIなしでPMTCを行うことには「ほとんど価値がない」ということが結論づけられました。

この研究に対する考察

今回の論文では、徹底的なOHIは、OHIとPMTCを組み合わせた場合と同程度の効果をもたらすということが示されました。

歯周病を予防する上で、OHIやセルフケアは非常に重要であるということを強く理解することができる論文ではないかと思います。

しかし本文まで詳しく見てみると、PMTCは「治療に対する患者さんの満足度を高める可能性がある」とも記載されています。

そのためPMTCは、患者さんが定期的なメインテナンスを受診するためのモチベーションに影響することが考えられ、それは非常に重要な要素であるといえます。

私たち歯科衛生士が日常的に行っているPMTCは、患者さんの歯周病予防に直接的な効果をもたらしているわけではないのかもしれません。

しかし、患者さんの口腔内に爽快感を与えることで、間接的な効果を生み出しているといっても過言ではないのではないでしょうか。

私自身も「メインテナンス=PMTC」といった、ルーティンワークになってしまうような施術は避けるべきだと感じます。

OHIやセルフケアの重要性を認識した上で、患者さんの満足度やモチベーションも高められるようなPMTCを提供し、患者さんとの関係性をより良いものにしていきたいです!

OHIやセルフケアの重要性

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毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:I Needleman, L Nibali, A D Iorio(2014)「Professional mechanical plaque removal for prevention of periodontal diseases in adults–systematic review update」『Journal of Clinical Periodontology』2015 Apr;42 Suppl 16:S12-35.

歯科衛生士向けおすすめ論文

No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」
No.2「ストレートVSアングル どっちの歯間ブラシを使うべき?」
No.3「スケーリングで削られてしまうセメント質はどれくらい?」
No.4「スケーリング前に行うブラッシングの効果は?」
No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」
No.6「プラーク除去に有効な歯ブラシの形状は?」
No.7「う蝕予防に効果がある歯磨剤のフッ化物濃度は?」
No.8「抗うつ薬服用患者はインプラントを喪失しやすい?」
No.9「ホワイトニング歯磨剤の着色に対する効果は?」
No.10「電動歯ブラシと手用歯ブラシどっちが有効?」
No.11「全顎 OR ブロックごと、どっちのSRPが有効?」
No.12「効果的に清掃できる歯間ブラシの新しい形状とは?」
No.13「効果が高いクロルヘキシジン含有洗口剤の濃度とは?」
No.14「新型コロナウイルスと喫煙の関係は?」
No.15「ゴムタイプの歯間ブラシに歯肉炎やプラークを減少させる効果はある?」
No.16「ヨーロッパの歯周病専門医や歯科衛生士が推奨するOHIとは?」
No.17「新型コロナウイルスにクロルヘキシジンやポピドンヨードの洗口は有効?」
No.18「スケーリング後の補綴物にバイオフィルムはつきやすくなる?」
No.19「キシリトールって本当にう蝕予防に効果的?」
No.20「キシリトール製品はガムじゃないと効果がない?」
No.21「アメリカの歯科衛生士が行うインプラントメインテナンスとは?」
No.22「プラスチックキュレットの効果的な使い方とは?」
No.23「PMTCで歯周病予防はできない?!」