歯科衛生士向けおすすめ論文 No.20「キシリトール製品はガムじゃないと効果がない?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

高濃度キシリトールガムとキャンディーについて調べた論文

今回解説するのはこちらの論文です。

キシリトールガムとキャンディーがプラークの蓄積におよぼす影響:システマティックレビュー
『Clinical oral investigations』

この論文は、フィンランドのトゥルク大学が発表したしたシステマティックレビューです。

* システマティックレビューについては、こちらの記事で説明しています。
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」

前回の記事では、「キシリトールの有効性について明確なエビデンスはない」という結果を示した論文を紹介しました。
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.19「キシリトールって本当にう蝕予防に効果的?」

この論文では、高濃度のキシリトールガムとキャンディーが、プラークの蓄積にどのような影響を与えるかについて調べた研究を集め、その結果を分析しています。

どんな方法で調べている?

1971年から2020年の間に発表された、プラークに対するキシリトールの効果に関する研究から、以下の条件にあてはまるものだけを抽出しました。

  • 前向き無作為化比較臨床試験
  • 健康な被験者を対象にしている
  • キシリトール濃度50%以上の製品を使用している
  • 製品はガムまたはキャンディー、トローチのみ

* 無作為化臨床試験については、こちらの記事で説明しています。
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.15「ゴムタイプの歯間ブラシは歯肉炎に効果がある?」

無作為化臨床試験に「前向き」という言葉がついていますが、これは「前向き研究」のことを意味しています。

過去のデータを集めて研究する方法を「後ろ向き研究」というのに対し、現在から未来に向かってデータを集めて研究する方法のことを「前向き研究」といいます。

キシリトールガムはプラークを減少させる!

上記の条件にあてはまる研究を抽出した結果、16件の研究が該当しました。

その中でも、キシリトールガムについて研究した論文は14件あり、そのうちの13件において、キシリトールガムはプラークの蓄積を減少させたという結果に。

また、キシリトールキャンディーやトローチを使用した研究では、プラークの蓄積について変化はみられませんでした。

キシリトールガム

この研究に対する考察

今回の研究では、前回とは打って変わって、キシリトールガムはプラークを減少させるということが報告されました。

他の代用甘味料であるソルビトールを使用したガムと比較しても、プラークは有意に減少したことから、キシリトールガムは特定のプラーク減少効果を発揮することを示唆しています。

また、16件のうちの一つの研究では、ガムに含まれるキシリトール成分は、ガム咀嚼後1分で唾液中濃度の高さがピークに達し、大部分は3分で溶解するという結果を示しています。

実際に、10〜20分といった咀嚼時間を設定した研究では、プラークの減少量が少なかったという結果がでていました。

よって、ガムを咀嚼する時間を長く設定しすぎると、かえって効果が下がってしまう可能性があるのではないかといわれています。

咀嚼時間

キシリトールキャンディーやトローチについては、今回良い結果が出ませんでしたが、日本でもタブレットなどの製品は多く販売されています。

ガムが苦手という患者さんにおすすめできる製品のため、効果がないと言われると戸惑う方もいるかもしれません。

しかし、今回選ばれたキシリトールキャンディーについての論文は、キシリトールガムの論文に比べると、1日の摂取量が少なかったり、摂取する時間帯が異なったりするなど、あらゆる条件が適切ではありませんでした。

今回の研究に選ばれなかった論文の中には、キシリトールキャンディーやトローチの有効性を示した論文もあったようなので、今後より詳しく研究されることが望まれています。

***

毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:Eva S, Kaisu P. (2021)「Effects of xylitol chewing gum and candies on the accumulation of dental plaque: a systematic review」『Clinical Oral Investigations』2021 Oct; Matthias H, Stefan R.

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