歯科衛生士向けおすすめ論文 No.22「メインテナンス中のルートプレーニングに効果的なキュレットの材質は?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

ステンレスキュレットとプラスチックのキュレットを比較した論文

今回解説するのはこちらの論文です。

SPT中に従来のステンレスまたはプラスチックキュレットを使用した場合の臨床効果
『Journal of Clinical Periodontology』

この論文は、スイスのベルン大学で行われた研究で、SPT期間中の患者さんに対する、ステンレスキュレットとプラスチックキュレットの効果を比較しています。

セメント質を傷つけにくいプラスチックキュレットでルートプレーニングを行った場合、ステンレスキュレットを使用した時と比べてどのくらい治療効果に差があるのかということを調べています。

どんな方法で調べている?

この研究には40人の被験者が参加し、まずは積極的な歯周治療を受けました。その後、被験者を20人ずつの2グループに分けました。

SPT期間中、ステンレスキュレットで治療を行うグループと、プラスチックキュレットで治療を行うグループです。

初回と次の3〜6ヶ月後のSPT時には、プロービング時の出血(BOP)や歯周ポケットの深さ(PPD)などの臨床パラメーターを評価しました。また、BOP率については、SPT時の10日後に測定しました。

ステンレス製とプラスチック製のキュレットを比較した論文

ステンレスもプラスチックも効果に有意差なし!

結果として、BOPとPPDの値は、2グループ間に統計的な有意差がないことを示しました。

* 有意という言葉については、前回の記事で説明しています。こちらをご覧ください!
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

どちらのキュレットにおいても、初回SPT時に17〜42%だったBOP率を、10日後には約40%削減することができたといいます。(初回SPT時の平均BOP率は26%、10日後の平均BOP率は16%。)

この研究結果は、プラスチックキュレットが、定期的にルートプレーニングが必要な患者さんにとって価値のある器具であり、歯質への外傷を最小限に抑える可能性があることを示唆しました。

この研究に対する考察

今回の研究では、ステンレスキュレットとプラスチックキュレットどちらを使用しても、BOP率は改善し、歯周ポケットの値においても有意差はないという結果がでました。

“プラスチックキュレットってステンレスと同じくらい効果を出せるの?!”と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

Kerr デプラーカー ユニバーサル(画像はカボデンタルシステムズHPより引用)
Kerr デプラーカー ユニバーサル(画像はカボデンタルシステムズHPより引用)

しかし、この研究の前提として、被験者が積極的な歯周治療を受けた後」であったことと、「SPT期間が3〜6ヶ月」であったことを考えると、納得できる結果に見えてくるのではないでしょうか。

被験者はSPTに移行する前、歯根面に沈着した歯石などの汚染物質は、「積極的な歯周治療」=おそらくSRPによって一通り除去されています。

また、初回SPT時の平均BOP率が26%ということから、被験者のプラークコントロールはある程度セルフケアで行えていることも考えられますよね。

そういった状況を考えると、2回目のSPT時に再び強固な歯石が沈着しているというケースは考えにくいのではないかと思います。

そのため、「歯石を除去する」ためのキュレット操作ではなく、「歯根面を滑沢にする」ための操作を行うのであれば、プラスチックキュレットも有効であるということを示していると考えられます。

今までプラスチックキュレットを使ったことがない方でも、オーバートリートメントを防ぎたい場合や、象牙質知覚過敏の症状を出したくない場合など、メインテナンスで起こってほしくないトラブルを防ぎたいときには、一度使ってみても良いのではないでしょうか。

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毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:P Bardet, J Suvan, N P Lang.(2009)「Clinical effects of root instrumentation using conventional steel or non-tooth substance removing plastic curettes during supportive periodontal therapy (SPT)」『Journal of Clinical Periodontology』2009 Nov;26(11):742-7.

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