歯科衛生士向けおすすめ論文 No.16「ヨーロッパの歯周病専門医や歯科衛生士が推奨するOHIとは?」

歯科衛生士のみなさんは、日頃どんな方法で勉強していますか?

歯科衛生士向けの月刊誌や本を読む、講演会やセミナー、学会に参加するなど、さまざまな方法があると思います。その中にはたくさんの「参考文献」が記載されているかと思います。

ところで、その「参考文献」について調べたことはありますか?

「文献」や「論文」と聞くと、むずかしそうなイメージがあると思います。
しかしよく調べてみると、私たち歯科衛生士にとって興味深い資料がたくさんあります。

このシリーズでは、歯科衛生士の方に役立つおすすめの論文を紹介していきます!

歯科衛生士向けおすすめ論文

ヨーロッパの一般歯科医と歯周病専門医、歯科衛生士が推奨するOHIについて調べた論文

今回解説するのはこちらの論文です。

口腔衛生指導と方法;ヨーロッパの一般歯科医、歯周病専門医、歯科衛生士を対象とした比較調査
『Oral Health and Preventive Dentistry』

この調査は、ヨーロッパ歯周病学会(European Federation of Periodontology)に所属している一般歯科医と歯周病専門医、歯科衛生士を対象に行われたアンケート調査です。

アンケート内容は、それぞれが現在行っている口腔衛生指導(OHI)やプラークコントロールの評価、推奨する歯ブラシや歯間清掃用具、抗菌薬に関するもの。

OHIについて、職種間でどのような違いがあるか、また共通していることは何かということを調べています。

どんな方法で調べている?

この調査では、29ヵ国の加盟学会を通じて、ヨーロッパ歯周病学会(以下、EFP)に所属する会員13,622名を対象にWebアンケートを実施しました。

そして、2015年4月24日から5月17日の約1ヶ月間に収集された、2,009名の一般歯科医と歯周病専門医、歯科衛生士からの回答を統計分析にかけました。

回答者の内訳としては、一般歯科医が43.2%、歯周病専門医が37.2%、歯科衛生士が19.6%となっています。

歯科医師と歯周病専門医と歯科衛生士

初回のOHIにかける平均時間は15分以上!

今回の調査によると、初回のOHIにかける時間は平均17.1分であることがわかりました。

その中でも、OHIにもっとも長い時間をかけるのは歯周病専門医で、その時間はなんと平均18.64分!続いて、歯科衛生士が平均16.53分、一般歯科医では平均15.68分という結果でした。

また、今回の調査では、患者さんのプラークコントロールの状態を確認する頻度についても、以下の選択肢より集計。

  1. 初回のみ
  2. ときどき
  3. 非外科処置のアポイント(スケーリングやSRP)時は毎回

その結果、81.2%の歯周病専門医が「非外科処置のアポイント時は毎回」と回答しました

他の職種でも、7割近い回答者が「非外科処置のアポイント時は毎回」を選んでおり、すべての職種においてプラークコントロールの重要性について深く認識していることが伺えます。

次に、電動歯ブラシについては、56.8%の歯科衛生士が使用を推奨。歯周病専門医や一般歯科医が推奨する割合に比べると20%以上も多い結果でした。

歯間清掃用具については、回答者の95%が歯間ブラシを推奨しており、職種間で統計的な有意差はなかったとのこと。

* 有意という言葉については、こちらの記事で説明しています。
(参照:歯科衛生士向けおすすめ論文 No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」

職種別 推奨する歯ブラシの種類
推奨する歯ブラシの種類(『Oral Health and Preventive Dentistry』を元にdStyle編集)
推奨する歯間清掃用具の種類
推奨する歯間清掃用具の種類(『Oral Health and Preventive Dentistry』を元にdStyle編集)

最後に、歯周病患者が毎日使用する抗菌薬としては、回答者の61.8%が、低濃度のクロルヘキシジンが効果的と考えている結果に。次いでフッ素、トリクロサン、エッセンシャルオイルと続きます。

中でも半数程度の一般歯科医が、70〜100%の歯周病患者さんに長期間の洗口剤の使用を推奨しているといいます。

この研究に対する考察

今回のアンケート調査は、ヨーロッパ歯周病学会に所属する29ヵ国の会員に向けて行われました。国の内訳は、多い順にフランス、イタリア、オランダ、スペイン、ベルギー、スウェーデン、フィンランドと続き、この7ヵ国で2,009名中1,175名の回答者を占めています。

OHIにかける時間や頻度についての回答を見ると、どの職種も患者さんのプラークコントロール向上に注力していることが感じられます。

OHIに15分以上の時間をかけられるということは、おそらく患者さん一人のアポイントにつき、少なくとも45分または60分程度の時間をかけているということではないでしょうか。

日本で「予防歯科の先進国」とよばれる、北欧のスウェーデンやフィンランド以外のヨーロッパ諸国でも、歯周病予防に対する考えは強く根付いているということが感じられました。

また、推奨する歯ブラシや歯間清掃用具については、職種間で少し差がありますが、それぞれの経験や知識の違いで好みが分かれやすいところなのではないかと思います。

それでも歯間ブラシを推奨する声が共通して圧倒的に多いということは、歯間ブラシの効果について信頼できるエビデンスが十分にあるということかもしれませんね。

次に、歯周病患者さんに推奨する抗菌薬としては、低濃度クロルヘキシジンの次にフッ素が挙げられていました。これは、歯周病によって歯肉退縮を起こした歯牙の根面カリエス予防に効果的という意味でとらえられています。

反対に、何も推奨しないと答えた回答者が10.1%いた結果もふまえて考えると、まだ抗菌薬についてはすべての職種が自信をもって推奨できるほどのエビデンスが揃っていないのかもしれません。

もし10年後同じアンケート調査をした場合、どのように結果が変わってくるか気になりますね!

さまざまな清掃用具

***

今回のアンケート調査は、歯周治療に携わる歯科衛生士としては、とても興味深い内容だったのではないでしょうか。

私にとっては、“国は違えど、歯周病患者さんと毎日向き合いながら働いている歯科医師や歯科衛生士はたくさんいる。”と思うだけで、日々の臨床におけるちょっとしたモチベーションにつながりました!

毎日同じ環境で働いていると、「歯科医院での当たり前」が、自分の中の「歯科衛生士としての当たり前」になっていることがあります。

自分が行っている業務に自信を持つため、客観的な視点で、臨床現場に活かせる知識を身につけられるよう、日々学んでいきたいものです。

参考文献:Valentin G, Laurence S, Gilles G, Michèle R, France L.(2021)「Oral Hygiene Instructions and Methods: A Comparative Survey of European General Dentists, Periodontists and Dental Hygienists」『Oral Health and Preventive Dentistry』2021 Jan 7;19(1):327-337.

歯科衛生士向けおすすめ論文

No.1「歯ブラシとフロス、どっちから先に使うべき?」
No.2「ストレートVSアングル どっちの歯間ブラシを使うべき?」
No.3「スケーリングで削られてしまうセメント質はどれくらい?」
No.4「スケーリング前に行うブラッシングの効果は?」
No.5「歯磨剤の使用はプラーク除去に本当に効果的なの?」
No.6「プラーク除去に有効な歯ブラシの形状は?」
No.7「う蝕予防に効果がある歯磨剤のフッ化物濃度は?」
No.8「抗うつ薬服用患者はインプラントを喪失しやすい?」
No.9「ホワイトニング歯磨剤の着色に対する効果は?」
No.10「電動歯ブラシと手用歯ブラシどっちが有効?」
No.11「全顎 OR ブロックごと、どっちのSRPが有効?」
No.12「効果的に清掃できる歯間ブラシの新しい形状とは?」
No.13「効果が高いクロルヘキシジン含有洗口剤の濃度とは?」
No.14「新型コロナウイルスと喫煙の関係は?」
No.15「ゴムタイプの歯間ブラシに歯肉炎やプラークを減少させる効果はある?」
No.16「ヨーロッパの歯周病専門医や歯科衛生士が推奨するOHIとは?」