臨床の疑問をエキスパートドクターに凸ゲキ質問!「メインテナンスしているのに、なぜ歯周病は再発するの?」

歯科衛生士にとって、日々の臨床に関する悩みはつきもの。

「患者さんの口腔内がなかなか改善されない」「患者さんに必要なセルフケアがなかなか身につかない」「話を聞いてくれない」など、臨床現場ではさまざまな悩みが生み出されます。

歯科診療の中でも「予防」に関わることが多い歯科衛生士にとって、歯周病やう蝕予防が思うようにできないケースには頭を抱えさせられるますよね。

この連載では、歯科衛生士が日常的に疑問をもつトピックスについて、その道のエキスパートドクターに徹底解説していただきます!

今回のお題

定期的にメインテナンスを受診しているのに、なぜ歯周病が再発してしまう患者さんがいるのでしょうか?

歯周病の患者さんのメインテナンスを担当していると、このような悩みをもつ歯科衛生士の方は少なくないはず。

今回の疑問にお答えいただくのは、アメリカ歯周病学会とヨーロッパインプラント学会の認定医である築山鉄平先生。

築山鉄平先生
こんにちは、歯科医師の築山鉄平です。
歯周病の患者さんの中には、国際的な水準でのメインテナンスを受診していたとしても、残念ながら歯を喪失してしまう人たちがいるんです。

それでは、気になる内容について詳しく解説していただきましょう!

歯が勢いよく失われてしまう患者さんとは?

国際的な水準にもとづいたメインテナンスを定期的に受診されているにも関わらず、歯周病が再発してしまう―きちんと患者さんが来院されているだけに、「なんとかしたい」という思いが高まりますよね。

実は、歯周病専門医のクリニックで治療を受け、その後メインテナンスを受診していた患者さんにおいても、勢いよく歯が失われてしまうグループが存在します。

世界を代表する歯周病専門医であるKenneth Kornman先生が、さまざまな研究結果に基づき、国際的な水準にもとづいたメインテナンス管理下であっても、16〜24%の患者さんは中等度から重度の歯周炎を発症し、治療後もさらなる進行のリスクを伴うことを示しています(図1-1)*1

米国の歯周病専門医Kornman先生が種々の報告をまとめたところ、メインテナンスにより8割程度の患者の進行を最小限に止めることができるものの、2割程度の患者では中等度から重度の歯周炎が発症することを明らかにしました1)。
図1-1 米国の歯周病専門医Kornman先生が種々の報告をまとめたところ、メインテナンスにより8割程度の患者の進行を最小限に止めることができるものの、2割程度の患者では中等度から重度の歯周炎が発症することを明らかにしました*1

図1-2は、30年間にわたるスウェーデンにおける歯周病重篤度の経時的変化を示したものです*2。予防の充実により健康や歯肉炎、軽度歯周炎の割合は変わるものの、中等度・重度歯周炎の割合はあまり変わっていないことがわかります。

図1-2 30年間(1973〜2003年)にわたるスェーデンにおける歯周病重篤度の経時的変化*2。
図1-2 30年間(1973〜2003年)にわたるスェーデンにおける歯周病重篤度の経時的変化*2

これらの報告からもわかるように、「国際的な水準にもとづいた予防やメインテナンスを充実させたとしても患者の1〜2割程度は歯周病が進行してしまう」のです。

もちろん人種間や国の医療保険制度、教育によって差はありますが、それを超えても共通知識として捉えて差し支えないと思います。

歯周病の進行を左右するものってなに?

では、なぜ2割程度の患者では歯周病が進行してしまうのでしょうか?これを理解するヒントは「歯周病の病因論」の中に隠れています。

図1-3は、現在の歯周病の病因論のスタンダードとなっているPage先生とKornman先生が示した歯周病の発症機序モデルです*3。みなさんの教科書にも掲載されているので、何度となく見たことがあるでしょう。

図1-3 Page先生、Kornman先生らが示した歯周病の発症機序モデル*3。
図1-3 Page先生、Kornman先生らが示した歯周病の発症機序モデル*3

このモデルをざっくり解説しますと、歯周病は「細菌の侵襲」からはじまり、「宿主免疫・炎症反応」、「結合組織・骨の代謝」を経て、歯周病としての臨床所見が現れます。

つまり、以下の図の「左から右」に進んでいくことで歯周病は発症するのです(図1-4)。

図1-4 歯周病は「細菌の侵襲」から始まり、「宿主免疫・炎症反応」、「結合組織・骨の代謝」を経て成立し、臨床所見が現れます(参考文献3を改変)
図1-4 歯周病は「細菌の侵襲」からはじまり、「宿主免疫・炎症反応」、「結合組織・骨の代謝」を経て成立し、臨床所見が現れます(参考文献3を改変)。

しかし、ここで注目したいのは、「宿主免疫・炎症反応」と「結合組織・骨の代謝」に対し、「先天的因子」と「環境および後天的因子」の矢印が向かっていることです。

宿主免疫・炎症反応
上皮内に侵入してきた細菌に対しての生体の免疫応答反応のこと。
※ 図1-3および1-4では、血管内の白血球が侵入者である細菌と戦う段階を示しており、この段階は歯肉炎の状態を指しています。
結合組織・骨の代謝
細菌との戦いが活発になった結果、線維芽細胞から産生・誘導されるMMP(タンパク質を壊す分解酵素)による結合組織の破壊や、歯槽骨の破壊が生じること。
※ 図1-3および1-4では、アタッチメントロスと歯槽骨吸収が生じる歯周炎の状態を指しています。

では、上記の「宿主免疫・炎症反応」と「結合組織・骨の代謝」に対し、先天的因子つまり遺伝的な要因や、喫煙などの環境因子や糖尿病などの後天的因子が作用するとどうなるのでしょうか?

たとえ同じ量の細菌が存在していたとしても、患者さんがもつさまざまなリスク因子によって歯周病の発症の程度には違いが生じるのです(図1-5)。これは2018年に発表された「歯周病の新分類」にも判断基準として組み込まれています。

図1-5 「先天的因子」(遺伝的な要因)と「環境および後天的因子」(喫煙や糖尿病など)は、「宿主免疫・炎症反応」と「結合組織・骨の代謝」に影響を与え、結果的に歯周病の臨床症状に大きな差が生じます。
図1-5 「先天的因子(遺伝的な要因)」と「環境および後天的因子(喫煙や糖尿病など)」は、「宿主免疫・炎症反応」と「結合組織・骨の代謝」に影響を与え、結果的に歯周病の臨床症状に大きな差が生じます(参考文献3を改変)。

Grossi先生やGraves先生らは、「宿主要因が大部分を占め、細菌だけでは歯周病の多様性の20%しか説明することができない」と論文で述べており*4、この「先天的因子」と「環境および後天的因子」が実はその多様性にとても大きな影響を与えているとしています。

日常臨床ではどう考えるべき?

「細菌だけでは20%しか説明できない」と聞くと、宿主要因についても把握したくなりますよね。

先天的因子については、ようやく遺伝子検査によって「白人の中にはより少量の細菌や刺激によって炎症を発症しやすい人がいる」ということがわかりはじめた段階で、日本人においてはまだ研究が進んでいないのが現状です。

一方、環境および後天的因子については、みなさんの歯科医院で日々行っている問診などを通じて、喫煙習慣や全身疾患の有無、生活習慣などを確認することでおおむね把握することができるでしょう。

将来、遺伝子検査が身近で手軽なものとなった際には、個人に特化した歯周治療が行えるようになるかもしれませんが、現段階では臨床のあり方に劇的な変化をもたらすまではありません。

そのため日常臨床では、Page先生らが開発したOHISや、Lang先生らが開発したPRAリスクアセスメントツール、歯周病の新分類におけるグレード判定などを通じて、目の前の患者さんの歯周病の状態を判断することが現実的な対応といえます。

日常臨床ではどう考えるべき?

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今回は、国際的な水準にもとづいたメインテナンス管理下でも歯周病が進行してしまう患者さんのことから、歯周病の病因論までを詳しく解説していただきました。

次回は、近年話題になっている新しい歯周病の病因論「ディスバイオシス仮説」について紐解いていきます。お楽しみに!

聞き手:dstyle編集部
解説:築山鉄平

参考文献:
*1 Kornman KS. Contemporary approaches for identifying individual risk for periodontitis. Periodontol 2000. 2018;78:12-29.
*2 Hugoson A, Sjödin B, Norderyd O. Trends over 30 years, 1973-2003, in the prevalence and severity of periodontal disease. J Clin Periodontol. 2008;35(5):405-414.
*3 Page RC, Kornman KS. The pathogenesis of human periodontitis: an introduction. Periodontol 2000. 1997;14:9-11.
*4 Grossi SG, Zambon JJ, Ho AW, Koch G, Dunford RG, Machtei EE, Norderyd OM, Genco RJ. Assessment of risk for periodontal disease. I. Risk indicators for attachment loss. J Periodontol. 1994;65(3):260-267.