コミュニケーションツールのひとつ!規格性のある口腔内写真を撮ろう

みなさんは、“口腔内写真”と聞いて、思い浮かぶことはありますか?

「わっ!写真頼まれちゃった…」
「上手に撮れないよ~」
「ていうか何で写真撮るの?」

そんな声が聞こえてきそうですが…実はこれ、全部私が思っていたことです。

当時、衛生士になって2年目。

当院でも「規格写真を撮ろう!」ということで、5枚法だった写真を11枚法に切り替えました。

切り替えたといっても、もちろん規格性のある写真を撮れるスタッフはいません。

そのため、ヘルスケア歯科学会認定衛生士勉強会に参加し、指導を受けてとにかく実践。
(参照:認定歯科衛生士-一般社団法人 日本ヘルスケア歯科学会

スタッフ同士で練習しつつ、撮って確認、撮って確認。

PCの画面と向き合い、とにかく自分の苦手なポイントの確認と、練習の繰り返しでした。

口腔内写真を撮るメリット

最初はひどいものでした。

規格写真とは決して言えない写真の数々。そんな写真だけど、患者さんに見せると明らかに反応は違いました。

「えー!私の口の中ってこんなことになってるんですか!?ショックー」 
「えっ?これって何ですか?」
「ここ、こんなに色が変わってるー!すごいキレイになってますね!よくなってるってことですか?」

と、こちらが伝える前に、患者さん自身がたくさん気付いてくれるのです。

これはもっとクオリティを上げるしかない。

ということで練習、実践、確認を重ね、ようやく規格写真と呼べるレベルの写真を撮れるようになりました。

私たちの仕事は、せまくて外からわかりにくい、口の中で行う仕事です。

なおかつ数ミリという単位の細かな仕事で、しかも患者さんには見えないところで行います。

しかし、口の中の病気は生活習慣と密接につながっています。

こちらばかり状況を知っていても、患者さん自身に知ってもらい、理解して自分で考えて行動していただかないと治りません。結局は同じことの繰り返しです。

突然ですが、みなさんは人間の五感による情報入手の割合をご存じでしょうか?

照明学会が発行している『屋内照明のガイド』によると、なんと視覚からの情報入手が87%と、五感の中のほとんどを占めています。

さらには“百聞は一見にしかず”ということわざまであります。

この視覚情報をフルに使うことができるのが、口腔内写真なのです。

また当院では、口腔内写真の他に、顔と全身の写真も撮っています。

顔と全身の写真があることで、噛み合わせを見たり、体の傾き具合から、日頃の生活習慣の中で行っていると考えられる態癖を考察することができます。

口腔内11枚と、顔、全身の計13枚を撮影
口腔内11枚と、顔、全身の計13枚を撮影する

そして、顔写真を撮ることは、特にお子さんの場合は成長記録にもなります。

「こんなに小さいころからきてたんだ!この頃は覚えてないけど、ちゃんと連れてきてもらってたんだね。今むし歯がないのも、小さい頃からきてたからだね!」

と言ってくれる子もいて、親御さんも嬉しそうな顔をしているところを見ると、撮っている私も嬉しい気持ちになります。

小児の場合は1年に1回はかならず撮るようにしていますが、乳歯が抜けたなどの口腔内に変化があった場合は、記録としてその都度撮る場合もあります。

10ヶ月にて歯医者デビュー。萌出交換も進んできました
10ヶ月にて歯医者デビュー。萌出交換も進んできました

また、当院では、患者さんごとに資料をまとめる「デンタルファイル」を作成して保管するシステムを導入しています。

撮影した口腔内写真を印刷してファイルにまとめ、患者さんにお渡しします。それを、来院する際に持ってきていただいています。

デンタルファイルにはさんだ口腔内写真
デンタルファイルにはさんだ口腔内写真

デンタルファイルはA4サイズで、上から重ねて資料を追加できるようになっており、口腔内写真だけではなく、検査表や治療時の資料などもはさむようにしています。

左側にはポケットがあるため、ここに診察券を入れたりハブラシをはさんできてくれたりと、患者さん自身も工夫して有効活用していただいています。

患者さんの中には、撮影した写真を過去と見比べて、「きはじめた頃の方が年齢は若いけど、口の中は今の方がいいよな~」と嬉しそうにしている方もいます。

「こんなに良くなったんだから、家族に自慢します!」と言っている方もいます。

最初は「こんなに撮るんですか!?初めて撮りました!」とびっくりされることの多い口腔内写真ですが、みなさんに通じて言えることは、見比べて嬉しそうにしていることです。

過去との比較を行うと、いまひとつモチベーションが上がらなかった患者さんでも、

「自分ではあんまり変わってる気がしなくて大丈夫かなって思ってたけど、こんなに良くなってるんだ!このへんがもうちょっとってことですよね?そっかー、頑張ろう!」

と、前向きになってくれることもあります。

また、もちろん患者さんだけではなく、撮影している自分自身にとっても、気付きはたくさんあります。

歯周治療の予測をしたり、治療後の歯肉の色で残石を確認したり。反対に、よく治癒した部分を確認して、患者さんと一緒に喜ぶこともあり、臨床の振り返りにもなります。

こんなに伝わることが多く、喜んでもらえて、自分にとっても学びになる口腔内写真を、撮らない手はないと私は思います。

規格性のある口腔内写真を撮るポイント

当院では、初診時に全員の口腔内写真を撮影しています。

一人で撮影を行い、口腔内11枚と、顔、全身の計13枚を5分程度で撮影します。

使用しているのは、キヤノンの一眼レフです。ミラーは、有限会社サンフォートから出ている口腔内撮影用ミラーを使用しています。

有限会社サンフォート 口腔内撮影用ミラー
有限会社サンフォート 口腔内撮影用ミラー

写真管理には、株式会社プラネットのデンタルXを使用しています。

デンタルXは、口腔内写真はもちろん、歯周組織検査の結果も保存可能。パソコンやiPadでも操作可能で、過去の比較データもすぐに出すことができるので、診療に欠かせないツールのひとつです。

株式会社プラネット デンタルXの画面
株式会社プラネット デンタルXの画面

口腔内を撮る際に気を付けていることは、“規格性のある写真”であることと、“見やすくキレイな写真を撮ること”です。

point1.規格性のある写真を撮る

経過を見ていくために写真を撮るので、少しでも角度のズレがあると、きちんと比較することができません。

ズレが少なくなるように気を付けて撮っています。

スケーリングの前後の写真を同じ角度から撮って比較する
歯周基本治療前後の写真を同じ角度から撮って比較する

これは自分だけではなく、他のスタッフにも気を付けてもらっていることです。

担当になればすべて自分が撮影しますが、初診時の写真は違うスタッフが撮ることもあります。

なので、きちんと撮れていなければ、撮り直しをすることもあります。自分が少しの妥協も許さない姿勢を見せていれば、それはかならず後輩にも伝わっていくと思います。

その点では、新しく入社したスタッフに、いきなり患者さんの口腔内を撮ってもらうことはせず、院内でテストを設け、合格してから写真を撮りはじめるというシステムを採用しています。

しかし、スタッフの口と患者さんの口では撮りやすさも違うので、そのギャップに苦戦するスタッフもいますが、かならず撮れるようになります。

今までずっと撮れないままだったスタッフはいません。

point2.見やすくキレイな写真を撮る

“キレイな写真”とは、唾液や実像、ミラーの淵が入っていない写真のことで、こちらもかなりこだわります。

拡大して患者さんに見せる際に、肝心の歯間乳頭部に唾液が溜まっていたら、伝わる効果が半減してしまいます。

何より伝わること、見て感じて考えてもらうことを重視しているので、細かなところですが、重要視しています。

写真から、左上4の口蓋に残石があることを伝えられる
写真から、左上4の口蓋の残石を知ることができる

もちろん冒頭でお話したように、すぐにきちんとした口腔内写真が撮れるようになるわけではありません。

私もかなり練習しました。

撮り方は言葉で伝わるものではないので、撮れる方に教えていただくこと、そして実践を重ねることがいちばんです。

口腔内写真はとても有効な患者さんとのコミュニケーションツールでもあり、モチベーションツールでもあります。

ぜひ口腔内写真を撮ってみてください。そして、撮る写真にこだわってください。

きっと今までと違う、より質の高い患者さんとの関わりができるようになると思います。