こんにちは。歯科衛生士の古家と申します。
この連載では、これまで私が学んできた知識や経験から、コミュニケーションについてお話ししていきたいと思います。
今回は「どこを見て、どう診るか?」をテーマにお話ししていきます。
前回の記事はこちら
第一回 まずは自分を整えよう!
第二回 相手に合わせた話し方を知ろう!
第三回 相手との違いを理解した コミュニケーションを目指そう!
6月になり、新人スタッフの方も少しずつ患者さんの口腔内を診ることが増えてきたのではないでしょうか?医院によっては、急患の対応をしている方もいるかと思います。
そのようなときに、「問診しておいて!」と言われて困ってしまった経験のある方も多いかと思います。
では、ここで質問です。
- あなたは待合室へ患者さんを迎えに行き、チェアへご案内しました。患者さんがチェアに座るまでの間、あなたは一体どこを見ていましたか?
これは歯科医院に勤めていれば日常的に行われる、何気ないワンシーンだと思います。
ですが、実はコミュニケーションのためのヒント探しは患者さんがチェアに座る前、つまり「お話しをする前」の段階からはじまっているのです。
「四診」という考え方について
「四診」というものをご存じでしょうか?「四診」とは、漢方医学における診断方法とその手順のことです。
「望診」「聞診」「問診」「切診」の4つからなり、部分よりも全体を優先することを原則としています。
1.望診
望診とは、視覚によって患者さんの状態を観察することです。患者さんの顔色はもちろん、精神状態や動作、立ち振る舞いまでを診断の対象とします。
また、舌の状態や排泄物の観察(たとえば痰の色)なども望診の一部とされています。
これを歯科に置き換えて、さらに具体的に考えるとどうでしょうか?待合室で座っている患者さんを見たときには、以下のように観察するところがたくさんあります。
- どこにどのような体勢で座っているか?
- 坐骨座りしていないか?
- お口ポカンなど、口呼吸はしていないか?
- 待っている間にどんなことをしていたか?
- 声をかけた後の返事の声色はどうか?
- 立ち上がるときに不安定な動作はないか?
- 立ち上がるときの軸足はどちらか?
- こちらに向ける目線に不安そうな感じはないか?
- 歩くスピードはどうか?
- 荷物は多いか?少ないか?
- 杖など歩行のための補助用具は使っていないか?
また、チェアに座った後も、以下のように患者さんの体を全体的に観察します。
- 座るときの動きはどうか?
- 坐骨座りしていないか?
- コップをどちらの手でもつのか?
- 指先の力は強そうか?弱そうか?
- 手や腕の動きに制限はなさそうか?
- 寒そう、もしくは暑そうにしていないか?
- 顔の筋肉のバランスは?(左右差はないか?笑ったときは?)
- 体のバランスは?
2.聞診
聞診とは、聴覚と嗅覚によって、患者さんの発する声や咳、においなどで情報を察知する診断方法です。
これを歯科に置き換えて考えると、以下のことが挙げられます。
- 声にかすれはないか?
- 話しているときに入れ歯があたっている音はしないか?
- 話しているときに入れ歯が動いているような音はしないか?
- 話しているときに舌が出てきていないか?
- 口臭は?歯周病のニオイは?
3.問診
問診とは、患者さんからの訴えを聞き、またこちらから質問し、その対話によって状態や状況を把握する診断方法です。
問診はみなさんがいつも行っていることかと思いますし、イメージしやすいのではないでしょうか。
問診の内容といえば、以下のようなことが挙げられます。
- 主訴の内容
- 主訴についての自覚症状の有無(どんな痛み・違和感なのか?)
- いつ頃から主訴の症状があるのか、はじめと今とで症状に変化はあるか?
- 今までにも同じようなことが起こったことはあるか?
他にも、以下のことを聞くことができれば、今後の治療において患者さんと意見をすり合わせる際のヒントになるかと思います。
- 今まで行ってきた治療においてどんな思いがあるか?
- 抜歯箇所があるのであれば、そこはなぜ抜歯になったのか?
- 理想の口元は?
4.切診
切診とは、患者さんの体に直接触れて診断する方法で、腹診や脈診が主なものです。
歯科に置き換えると、口腔内診査はもちろん、歯周病検査や染め出しなどがこれにあたるかと思います。
具体的には、以下のことを指します。
- 歯は?(動揺は?欠けは?形態は?捻転は?黒変は?白斑は?知覚過敏は?)
- 頰粘膜は?(傷は?圧痕は?口内炎は?白かったり赤かったりするところは?)
- 歯肉の状態は?(色は?厚みは?傷は?角化している所は?付着はゆるい?退縮は?)
- 出血の状態は?(鮮血?それとも赤黒い?量は?出ている場所は?)
- 歯垢の状態は?(付き方は?付いている場所は?量や厚みは?色は?硬さは?)
- 歯石の状態は?(付き方は?付いている場所は?量や厚みは?色は?硬さは?)
- 歯槽骨の状態は?(厚みは?歯周ポケットは?吸収具合は?)
- 舌の状態は?(色だけでなく、動きは?舌苔は?側面に圧痕は?)
- 顎骨は?(大きさは?下顎角の張りは?開口量は?左右の顎関節の動きは?)
このように、たくさんのポイントを診ることで患者さんの状態を知るためのヒントを得ることができるのです。
どこを見て、どう診るか?
「四診」は痛みのある部位だけでなく、まずは全身・全体を見て、それから問診をし、直接触って確かめていきます。
患部を診るだけでいいのでは?と思う方もいるかと思いますが、これには漢方医学の「同病異治」という考え方があります。
同じような症状を訴えていたとしても、その背景や体質は人それぞれですよね。
ですから、症状だけで薬を処方せず、その方の体質や状態を細かく確認して薬を処方するのです。
これって、歯科医療、とくに虫歯の予防や歯周病治療にもいえることではないでしょうか?虫歯のなりやすさ、なりにくさは人によって異なります。
歯周病も同じく、人によってリスクは違いますし、歯根の長さによっても吸収の度合いに違いがあったり、咬合力にも左右されます。
まさに「同じ歯周病検査の結果であってもその人によってリスクは違い、予防方法も違う」のです。
だからこそ、「四診」の目線をもつことはとても大切だと思います。
また、患者さんの状態についてお話しをするときに、どのように説明すれば伝わりやすいのか?を考える際には、第三回でお伝えした「VAKモデル」がとても有効的です。
ですが、患者さんの緊張感や気持ちを知ることができなければ、いくら上手に伝えられたとしても、その話の内容を相手に届けることはむずかしくなります。
そこで、待合室からチェアまでの間に患者さんの状態を観察するのです。
たとえば、以下のようなことを観察します。
- 今日の服装は?
- かばんに何かポイントになるものはついていないか?
嫌いなものを身につけている方は少ないですから、服装から話のネタになりそうなものを見つけて何気なくお話ししてみます。
私は、「素敵なネクタイですね」「夏らしいお色のお洋服ですね」など、患者さんがチェアに座る際に軽くお伝えしてみるようにしています。
かばんについているお守りやバッジなども、聞いてみると楽しい旅行のエピソードや、お孫さんとの思い出話に繋がることもあり、和やかな雰囲気になり緊張をほぐすことができますよ。
お子さんの場合も、もってきているおもちゃや洋服の柄などから「○○が好きなの?」と聞いてみて、本人に話してもらうことで少しずつコミュニケーションがとれるように工夫しています。
自分の好きなものの話をしてくれるときのお子さんの楽しそうな顔は、いつ見ても癒されます♪
いかがでしたか?
ぜひ明日から、このコラムをヒントに「口腔内だけでなく全身を見ること」で患者さんをより深く理解し、その生活背景に合ったお話やご提案を行ってみてくださいね!
コツを学んで心を掴む!明日からできるコミュニケーション術
第一回 まずは自分を整えよう!
第二回 相手に合わせた話し方を知ろう!
第三回 相手との違いを理解した コミュニケーションを目指そう!
第四回 相手の全身を見て コミュニケーションのヒントを探そう!