前回、『今こそ知りたいそろそろ知りたいデンチャーQ&A』で、デンチャーの基礎知識を学びました。
今回ご紹介する本は、前回の学びの延長にあります、デンチャーに特化したメインテナンスを学べる珍しい一冊です。
患者に伝えたい義歯のセルフケアから、クリニックでのプロフェッショナルケアまで、今までにない、そしてこれからの時代に欠かせない1冊(本書より引用)
本書で、いまさら聞けなかったデンチャーのセルフケアやプロケアを学びましょう。
当書の著者は、日本有床義歯学会の理事を務める三宅宏之先生と、訪問歯科専門のクリニック ひだまり歯科の院長である湯田亜希子先生。
監修に東京医科歯科大学歯学部の臨床教授 谷田部優先生、編著者にナカエ歯科クリニック院長の前畑香先生と、デンチャーのスペシャリストの先生方によってまとめられています。
項目は、以下のように分けて書かれています。
- デンチャーメインテナンスの基礎知識
- 機械的清掃
- 化学的清掃
- 義歯のプロフェッショナルケア
- トピックス(歯科訪問診療時のデンチャーメインテナンス、誤嚥性肺炎、大規模災害時のデンチャーメインテナンス)
おさらいしてみようデンチャーの基礎知識!
デンチャーの役割とは、失った歯を補うことだけでなく、咀嚼機能の回復、発音機能の回復、審美性の回復などが挙げられます。
そして、その先にあるオーラルフレイルを予防し、健康寿命を延伸させることがデンチャーを装着する大きな目的のひとつです。
そのためには、デンチャーを装着する上で、機能的かつ衛生的に維持する必要がありますが、適当な管理方法ではその効果を持続できません。
口腔の機能を補助するためのデンチャーが不衛生であったならば、全身に悪影響をおよぼすことは容易に想像できます。
冒頭の項目では、プロフェッショナルなデンチャーの管理方法がいかに重要かという意識付けからはじまります。
セルフケアは義歯用ブラシだけで大丈夫?
デンチャーと一言で言っても、部分床義歯や総義歯、金属床やインプラントオーバーデンチャーなど、使用されている材質も異なれば、形態もさまざまです。
では、形態や材質が違うデンチャーにみなさんはどのようなセルフケアの指導をされていますか?
当書ではクラスプ内面を大きいサイズの歯間ブラシで磨いている写真や、義歯床粘膜面の歯石が沈着しやすい部位などのブラシの当て方が、写真でわかりやすく解説されてあり、患者指導を行う時にとても役に立ちます。
また、ノンクラスプデンチャーや軟質リライン材に配慮した義歯用ブラシも紹介されていて、ブラシを処方する時の選択の重要性を学ぶことができます。
義歯洗浄剤は何を選べばいい?
デンチャーが完成した時に、セルフケアの一環として洗浄剤をおすすめすることも多いかと思います。そんな時は、洗浄剤の主成分や有効成分を理解し、処方することが必要です。
しかし、市販されているものや歯科専売の製品の成分をすべて把握することは困難です。
本書の素晴らしいところは、市販のものから歯科専売の義歯洗浄剤をはじめとするケア製品が、約100種類の写真や表で掲載されているのです。
- 歯石除去に特化した酸系義歯洗浄剤
- 色素沈着除去に配慮した義歯洗浄剤
- 酸系にもかかわらず、金属材料を選ぶことなく使用できる義歯洗浄剤
- 二酸化チタン配合触媒作用で義歯を殺菌できる義歯洗浄剤
- 銀系無機抗菌剤配合の義歯洗浄剤
- 特殊な有効成分が配合されている義歯洗浄剤
- ノンメタルクラスプデンチャー用義歯洗浄剤
- 軟質リライン材専用義歯洗浄剤
- ティッシュコンディショナーに用いることが可能な義歯洗浄剤
- 使用頻度や時間、溶液の使用法に特徴がある義歯洗浄剤
- 義歯の汚れや義歯材料に配慮した義歯洗浄剤シリーズ
- 市販と歯科専売で効力が異なる義歯洗浄剤
- ポリデントで唯一歯科専売の義歯洗浄剤
- CMなどで周知されている市販義歯洗浄剤
- プライベートブランドの義歯洗浄剤
- その他の義歯洗浄剤
これだけの情報量の内容がすべて写真付きで解説されています。まさにデンチャーメインテナンスの参考書です。
もう迷わないで!義歯装着患者さんへのプロフェッショナルケア
臨床の現場において、歯石が沈着しているデンチャーや、着色してしまったデンチャーに出会う機会は多いでしょう。
当書では、プロフェッショナルケアにて化学的に洗浄する時に、着色除去に適している洗浄剤と、歯石除去に効果の高い洗浄剤についてもそれぞれ紹介されています。
デンチャーの表面を傷つけてしまうと、細菌の格好の住処となってしまいますよね。
化学的に歯石を軟化させてから除石をすることで、表面を傷つけずに洗浄が行えます。また、プロフェッショナルケアではそのようにならないよう、デンチャーの表面を研磨することの重要さが述べられています。
SRPやスケーリングの後に歯面を磨くのと同様に、デンチャーの表面も細菌の付着しにくい環境を整えることが大切ですね。
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これまでデンチャーメインテナンスに対して深く学ぶことがなかった筆者にとって、当書は改めてデンチャーメインテナンスの重要性を考えさせられる一冊となりました。
適合の合わない義歯内面や、歯間部に溜まった食物残渣。
衛生的に管理されていない義歯の装着が、身体にどのような影響をもたらすかまで、しっかり説明することは、歯科衛生士の役割であります。
義歯が完成することはゴールではなく、義歯を使って咀嚼する「新しいスタート」です。
どう使い、どのように管理するか、一人ひとりにあった指導が、そして場合によっては、その周りの家族や介護者の方まで周知できる指導が、本来の意味を持つのではないかと思います。
デンチャーを使用する患者さんすべてに、当書を一冊、義歯取り扱い説明書としてお渡しすると良いのでは!と感じる、おすすめの素晴らしい一冊です。
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