第5回 奥山会「口腔の健康を守れる歯科衛生士になろう」セミナー参加レポート(前編)

今回は、2023年1月22日に開催された、第5回奥山会セミナー「口腔の健康を守れる歯科衛生士になろう」の参加レポートを前編・後編に分けてお届けします。

2019年に奥山洋実さんが立ち上げた歯科衛生士スタディグループ「奥山会」は、歯周基本治療を通じて患者さんの口腔を守れる歯科衛生士を増やしたいという思いから誕生しました。
(参照:わたしのDHスタイル #25 奥山洋実さん『医院を支える歯科衛生士を増やす』

ようやく新型コロナウイルスの影響が落ち着き、念願の現地参加が叶いました。今回の感動と大いなる自省を記録として残したい。現役歯科衛生士や学生のみなさん、就労していない方、そして歯科医師の先生方にも奥山会の真髄をお伝えしたい、という思いが執筆のきっかけです。

奥山会の講師を務める奥山洋実先生

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受付開始45分で満席!第4期 奥山会SRPセミナーレポート

はじめに

第5回奥山会は会場参加150名、オンライン参加80名という大きな規模での開催となりました。午前中に二講演が開催され、午後に歯科衛生士の症例発表会が行われるという構成です。

今回は、午前中に開催された二講演の内容とお昼休みのポスター発表についてお伝えしたいと思います。

1.西川弘一さんによる講演

まずは、西川弘一さん(株式会社ケイズクリーン代表取締役)による講演からスタートしました。発表内容は「歯科業界歴25年歯科専門のお掃除屋さんから見たこれからの歯科業界」についてです。

西川さんはご自身の口腔内の症状や受診歴をふまえて、一般の方の意識や実態を知ろうと350名の方にアンケートを実施されたのだそう。その根底には「歯科受診率を上げたい」という思いがありました。

アンケートの結果からは、「定期的にSPTで通院しているのにも関わらず、自身が歯周病であることを知らない患者さんもいるのでは?」と感じたといいます。

重要なのは、「セルフケアとプロケアの両立」と「当たり前のことを当たり前にする」ことであるといい、最後は「歯科衛生士という職業はゲートキーパーになり得る。やるかやらないか。」だと熱く語られました。

西川弘一さん

「診療中に伝えたかったことを患者さんが自分ごととして捉え、行動変容に繋げられているか」「一般論の未来のできごととして流されてしまってはいないか」「適切に伝えられているとしても、さまざまなステージの患者さんに対してできていると自信をもっていえるのか」

西川さんの講演を受けて私自身、翌日からのOHIで上記のことを強く意識するようになりました。

患者さんに寄り添っている“つもり”なだけで、もしかしたら重要なことを伝えきれていないのかもしれないという自省の念。また、当たり前のことを当たり前にするむずかしさも頭を過ぎりました。

2.吉武秀先生による講演

続いて登壇されたのは、吉武秀先生(吉武歯科医院副院長)です。「大切なパートナーとしてともに歩む道~歯科衛生士が長期症例を持つ価値と歯科医師の覚悟と責任」についてお話しされました。

吉武先生は歯科衛生士の育成に力を入れていたものの、成長に停滞を感じたことがあったとのこと。そういった状況の中、「足りないのは目標となる歯科衛生士がいないこと」であるとの指摘を受ける機会があったそうです。

そこで、育成中の歯科衛生士のお二人に奥山さんを引き合わせてみたところ、奥山さんの話に必死にメモを走らせる姿を見て、奥山さんを院内研修の講師として招くことになりました。

研修を受けたお二人は単に技術を習得しただけでなく、患者さんへの声のかけ方にも変化が現れたと先生は語りました。

「〇〇が必要だから、△△をやってみてくださいね」というように、押し付けがましくなりがちな指導を「今、何ができるのか?」という寄り添った言い方で尋ねるのが奥山さん流の声のかけ方。

吉武先生は「人をみる」ということの重要性を強調し、何事もまずはやってみることが大切で、頑張らなければ変えられないが、チャンスはかならずある。自分次第であると伝えました。

吉武秀先生

若い時に自分のパートナーであると言ってもらえるような先生と出会って、長期症例に繋がるような誇りをもてる働き方ができたら最高です。たとえその環境が整っていなくて不満があるとしたら、「頑張らなければ変えられない」ということかもしれません。

その一歩は、勇気を出してより良い環境に転職することかもしれないし、現在の職場環境を変えるための提案や努力であるかもしれません。もちろん自分の力を底上げする研鑽も必要になるでしょう。

歯科衛生士が長く働くために、歯科医院側が環境を整えることはもちろん重要ですが、働く側が仕事に対する「やりがい」を見つけることも重要です。

そして、やりがいを感じるためには、まずは自分で考えて行動することが大切なのではないでしょうか。その結果として患者さんやスタッフから頼られる存在になるのだと思います。

吉武先生の講演を受けて、このような循環を生み出すことが、長期症例をもつことに繋がるのだと感じました。

3.ポスタープレゼン(宮路彩花さん・平本葵さん)

昼休みには歯科衛生士の宮路彩花さんと平本葵さんによるポスター発表がありました。お二人は、吉武歯科医院に勤務されている歯科衛生士です。

宮路彩花さん

宮歯科衛生士 宮路彩花さん(左)と吉武秀先生(右)

宮路彩花さんの発表は、「2大リスクファクターを抱えた広汎型重度慢性歯周炎患者に対し非外科的歯周治療により改善した一症例」。口腔内の改善だけでなく、健康意識の向上に寄与した記録を症例としてしっかり残していました。

このポスター発表は、日本臨床歯周病学会で優秀賞を受賞したそうです。

平本葵さん

歯科衛生士 平本葵さん

平本葵さんは、「歯周基本治療により改善した広汎型中等度慢性歯周炎の一症例」について発表しました。

歯肉を退縮させないための工夫について、「まぁいいや」で終わらせない気持ちを強くもっているという、平本さん。ポスター発表写真の歯肉の印刷の精度にさえこだわりを見せる平本さんの熱い思いに、まるでボディブローをくらったような心地がしました。

また、吉武先生が成長したお二人を見守る様子にはホロッとくるものがありました。このような温かい先生と長く働きたいと思った方は多いのではないでしょうか。

さすがは奥山会、上記のような発表が昼休みに行われるという充実ぶりです。お昼は外に出て食べても構わないというインフォメーションがありましたが、うっかり聴き逃してしまうにはもったいない、すばらしい内容でした。

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今回は、奥山会の午前中に開催された二講演の内容とお昼休みのポスター発表についてご紹介しました。

後編では、午後の症例発表についてお届けします。