第5回 奥山会「口腔の健康を守れる歯科衛生士になろう」セミナー参加レポート(後編)

2023年1月22日に開催された、第5回奥山会セミナー「口腔の健康を守れる歯科衛生士になろう」の参加レポートをお届けします。

後編では、午後に行われた歯科衛生士のプレゼンテーションについてお伝えしたいと思います。
(前編はこちら:第5回 奥山会「口腔の健康を守れる歯科衛生士になろう」セミナー参加レポート(前編)

第五回奥山会セミナーレポート
上段左が奥山洋実さん、中央が谷口威夫先生

歯科衛生士によるプレゼンテーション

午後からの歯科衛生士のプレゼンテーションは、奥山会の真骨頂です。単なる症例発表会ではなく、どんな歯科医院で仕事をしていのるか、普段どのように患者さんと向き合っているのか、歯科衛生士としてどうありたいかなどをふまえて発表を行います。

今回の演者は年代も環境も多様な6名の方でした。歯科衛生士による、歯科衛生士のための学びがそこにありました。

発表者 発表内容
濵田佳穂さん
(埼玉県草加市 さくら歯科)
「治せる歯科衛生士を目指して~とことん患者さんと付き合う」
岡田むつ美さん
(神奈川県川崎市 ブレーメン通りのたぶち歯科)
「治せる歯科衛生士になりたい。視野を広くもつ」
安藤めぐみさん
(千葉県船橋市 ももの実歯科)
「歯科衛生士に復帰して良かった~歯周基本治療で治せる歯科衛生士を目指して」
谷口千穂さん
(兵庫県加古川市 山中歯科医院)
「4年間の私の成長」
榊原麻維さん
(兵庫県加古川市 山中歯科医院)
「歯科衛生士として生きる」
鈴木亜紀さん
(静岡県沼津市 塚本歯科クリニック)
「長く患者さんをみる~自分の居場所で患者さんに寄り添い続ける覚悟」

演者の方の中には、過去の口腔内写真について「恥ずかしいのですけれども」と口にする方もいました。かつてはドクターからの指示で「業務の一環として撮影していただけ」という方や、それが「苦痛だった」と告白した方もいました。当時は撮影した写真を人前に出すことなど想定していなかったのかもしれません。

奥山さんから指導を受ける中で、記録の必要性にも気づき、スキルアップしていったことが感じられました。

濵田佳穂さん(左)、岡田むつ美さん(右)

また、奥山さんからの学びで「患者さんへの声かけが変わった」と何人かの方が口を揃えて言っていたことも印象に残っています。

こんなに多くの方の前で発表できるまでに成長した自院の歯科衛生士の姿を、感慨深く見守る院長先生の姿もありました。

当日の会場の様子

ここからは、とくに印象深かった二名の方のプレゼン内容をご紹介したいと思います。

安藤めぐみさん「歯科衛生士に復帰して良かった」

まずご紹介させていただくのは、安藤めぐみさん。発表内容は「歯科衛生士に復帰して良かった~歯周基本治療で治せる歯科衛生士を目指して」。

安藤さんは10年以上ブランクがあり、一時期は「もう歯科衛生士はやらない」と決めていたそうです。

潜在歯科衛生士は現在15万人以上であるともいわれますから、歯科衛生士のキャリアとしては特異ではないでしょう。多くの職種を経験し、子育て中に再就職を考える中で、再び歯科衛生士という選択肢が浮上したそうです。

はじめは当然、復職に対する不安があったとのこと。しかし、それを自ら克服しようと歯周病治療の勉強会に参加したといいます。そこで奥山さんと出会い、学ぶ楽しさに目覚めたようです。

安藤めぐみさん

そんな安藤さんの発表は、「前歯がぐらぐらしていて膿も出て気持ちが悪いけど、前医では改善しなかった」という主訴を抱える患者さんの症例でした。

患者さん自体のプラークコントロールはもともと悪くなかったそうで、安藤さんは歯肉退縮やトゥースウェアに着目し、指導を行ったといいます。すると、歯周基本治療で改善が認められ、患者さんからの満足を得られたとのこと。

最初は5枚法だった口腔内写真は、セミナー受講後には9枚法へと変化していました。歯周治療を通して仕事のやりがいを見出し、「歯科衛生士に復帰してよかった!」とキラキラ輝きながら伝える安藤さんの姿が印象的でした。

発表時の安藤さんはとても場慣れしているように感じましたが、「年齢関係なく学びたいと思ったときに、そういう環境が与えられた。社交的ではないので、人と繋がりをもつのも苦手だったけれど、殻を破り、少しずつ克服していくと素敵な出会いがある。」と私に話してくださいました。

たとえブランクがあっても、臆するより、まずはやってみる。そうすることで、仕事にやりがいを見出し、輝くことができるのだということを、症例発表を通して示してくださいました。

鈴木亜紀さん「長く患者さんをみる」

続いてご紹介するのは、鈴木亜紀さん。鈴木さんは日本歯周病学会認定衛生士、臨床歯周病学会認定衛生士で、2001年より現在の歯科医院に勤務されています。

鈴木亜紀さん

「長く患者さんをみる」ということは具体的にどのようなことなのか、どのような条件が必要だったかについて、鈴木さんは下記のように語っていました。

  1. 歯科衛生士の仕事を同じ職場で長く続けられたこと
  2. 歯周基本治療ができるようになったこと
  3. 学び続け、症例発表を定期的に行うこと
  4. 患者さんにSPTやメインテナンスを継続してもらうこと

① 歯科衛生士の仕事を同じ職場で長く続けられたこと

子育てなどで大変な時期もあったそうですが、ご家族のサポートがあって仕事を続けられたそうです。また、院長に親身に相談に乗ってもらったり、心強い仲間に支えてもらったりしたことで、同じ職場で長く働き続けられたということでした。

② 歯周基本治療ができるようになったこと

担当制や診療時間などをスタッフ同士で相談し、歯周基本治療を行う環境を整えたことでやりがいが増し患者さんへの思いが高まったそうです。

また、スキルの面では規格制のある資料を取れるようになったことも大きかったとのこと。いちばん大切なのは、「患者さんを良くしたい!治したい!」と思う気持ちであると語気を強めていらっしゃいました。

③ 学び続け、症例発表を定期的に行うこと

歯科衛生士としての知見を勉強していると、知識の蓄積に加えて人との出会いがあり、そこから学ぶことがたくさんあったそうです。

また、漠然と勉強することはむずかしいけれど、症例を作ることで自発的に勉強するようになり、少しずつレベルアップできたと振り返っていました。

④ 患者さんにSPTやメインテナンスを継続してもらうこと

スケーリングやPMTCなどのメインテナンスだけではなく、患者さんとの長期的なお付き合いの中で、生活背景の変化や口腔内のリスク部位を発見し、重症化予防のできる歯科衛生士になりたいという決意を語っていました。

奥山洋実さん(左)、鈴木亜紀さん(右)

症例を作ることは、「人生を振り返り、人に感謝すること」であるとお話しされた鈴木さん。2022年には、静岡県東部の歯科衛生士スタディグループ「L⭐︎DH」を立ち上げられたそうです。「歯科衛生士が楽しい!」と思えるようなスタディグループを実装し、同じ思いをもった歯科衛生士の方と楽しいひと時を過ごしているとのことでした。

鈴木さんは患者さんや院長先生、一緒に働く方々への感謝の言葉を強調していました。

鈴木さんの人柄や仕事への真摯な姿勢が伺えるのはもちろん、自分の居場所で患者さんに寄り添い続ける覚悟が伝わる、素晴らしいプレゼンテーションでした。

***

患者さんとの語らいのなかで、勇気づけたり励まされたりという演者の方のさまざまなストーリーに、涙を拭う方が続出する場面もありました。

その一つひとつに座長として耳を傾け、一言を添えたのは、昨年の演者である歯科衛生士のお二人でした。

第5回奥山会の座長を務めた髙橋明日美さん(左)と東恩納レイさん(右)

一日がかりの会で人前に立ち、用意されていない意見を適時述べるのは労力を要することだと思いますが、見事にこなすお二人のスキルは素晴らしいものでした。

奥山さんご自身も、「ケースプレゼンテーションの際には原稿を読み上げず、聞き手の顔を見ながら自分の言葉で発表したい」と著書で述べられています。

自分の言葉で発するからこそ、聞き手に伝わるのだと実感しました。

おわりに

最後には、「奥山会」の命名者でもある谷口威夫先生から以下の総括がありました。

  • 当たり前のことを当たり前にやる
  • 結果は自ずとついてくる
  • 歯を大事にする医院に患者さんは身を委ねる!

たくさんの歯科衛生士から憧れられる奥山さんですが、もともとはとくに器用なわけでもなく、覚えが良い方でもなかったといいます。そして、コミュニケーション能力は低かったとご自身の著書で学生時代を振り返りながら語っています。

それでも歯科衛生士として続けてこられたのは、「歯科衛生士の使命と、そのやりがいに目覚めたから」。この言葉に尽きるのかもしれません。

来年も1月の第四日曜日に奥山会は開催されるようです。歯科衛生士としてなかなかやりがいを見出せない方や、マンネリ化していると感じている方、変わりたいと思っている方にこそぜひ聴いていただきたいと感じました。

外に出ると志の高い方に会うことがき、やる気に繋がります。また、目標ができるとさらに学びたくなります。奥山会は、そんな出会いの場になるはずです。

ぜひ、一人でも臆することなく飛び込んでみてください。私もはじめは一人で奥山会に参加し、のちに同僚を巻き込みました。さらに、会場でステキな仲間と出会うこともできました。

奥山会をはじめとする学びの場は、私にとって歯周病に向き合うときの起爆剤であり、ときに一服の清涼剤ともなっているように思います。

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