多職種連携のために理解すべき共通言語とは?

11月10日、東京都内にて、第19回日本訪問歯科医学会が開催されました。

日本訪問歯科協会は、歯科医療の普及、啓発、技術の向上を行うことで医療の発展や国民の健康増進を図り、質の高い訪問診療の提供を目指す団体。

今回は、「今だ!夢ある医科・歯科・介護連携」というテーマのもと、医療に関連する様々な業種が集結しました。

たくさん開催された講演のうち、北九州市立医療センターで歯科衛生士長をつとめる中村真理さんによる、多職種連携のために理解すべき共通言語についてご紹介します!

北九州市立医療センター 歯科衛生士長 中村真理さん
北九州市立医療センター 歯科衛生士長 中村真理さん

中村さんの仕事内容とは?

中村さんは、病床が636床もある病院の歯科口腔ケア外来で、各種のがん治療を受けている患者さんを対象に周術期口腔機能管理(専門的口腔ケア・専門的口腔衛生処置)を行っています。

中村さんが行う口腔ケアは、がん手術後の創部感染の予防、術後誤嚥性肺炎の予防、気管挿管時のトラブルの予防、放射線療法や化学療法、骨髄移植時に生じる口腔内のトラブルの予防から、退院後の口腔機能支援までを支えています。

しかし、これだけ大きな病院にもかかわらず、歯科口腔ケア外来で働く人は歯科医師1名、歯科衛生士4名の計5名。

歯科が圧倒的に少数のため、医科との共通言語を理解し、他職種とのコミュニケーションを積極的に行うことが必須だそうです。

施設には、舌接触補助床(PAP)を使用している患者さんもいます
施設には、舌接触補助床(PAP)を使用している患者さんもいます

そもそも、多職種連携ってなに?

近年はよく「多職種連携」といわれていますね。

多職種連携とは、つぎに示す職種に加え、ケアマネージャーや施設職員、訪問に関わる医療職のみなさんが、さまざまな現場で連携し協働することを指しています。
(参考文献:弘中祥司教授(2017)『摂食/嚥下ポケットガイド』クリニコ

多職種連携

「連携」については、歯科衛生士法や言語聴覚士法などに、以下のように記載されています。

〇〇士(師)は、その業務を行うにあたって医師その他の医療関係者と緊密な連携を図り、適正な医療の確保に努めなければいけない

つまり、歯科衛生士には、他の職種と一緒に医療を行うことが法で定められているということですね。

多職種連携での課題とは?

中村さんが勤務する北九州市がまとめた資料によると、このようなことが課題に挙げられたそうです。

  • 病院内でも、施設内でも共通言語がない
  • 病院の情報を在宅側にわたすことが連携だと思われている
  • 重要性は知られていても、やってもらえていない

このように、まだまだ課題が多いのが現状です。

ST(言語聴覚士)とDH(歯科衛生士)の協業
ST(言語聴覚士)とDH(歯科衛生士)の協業

歯科衛生士に求められることとは?

多職種連携において、歯科衛生士が関与できる部分はたくさんあります。

しかし歯科衛生士は、法によって診断を下すことはできません。そのため、歯科衛生士が他職種に対して誤解を生まないために、気をつけて伝える必要があります。

Case1 クラスプがゆるくなっている患者さんの場合

×「義歯の調整が必要です」
○「入れ歯が合っていないようなので、早めに歯科を受診してください。」

Case2 カンジダが疑われる患者さんの場合

× 「カンジダです」
○ 「口腔カンジダ症が疑われます。歯科受診が望ましいです。」

口腔機能、口腔環境の情報を共有

多職種連携のポイント

総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)が27.7%を超え、超超高齢化社会に突入した日本において、隣接医学への知識が求められています。

そのため、歯科でも、共通言語の元となる歯科の専門用語を統一して提示するなどの活動を行っています。今後はそれらをベースに、お互いの専門用語を他職種に伝えられることが必要になってきています。
(参照:日本歯科医学会学術用語集 第2版-日本歯科医学会

覚えておきたい共通言語

バイタルサイン(VS:vital signs)

  • T:体温(℃)
    ※ 英国ではBT=body temperature、独国ではKT=koper temperature とも表記される
  • P(PR)=pulse rate:脈拍数(回/分)
  • R(RR)=respiratory rate:呼吸数(回/分)
  • BP=blood pressure:血圧(mmHg)
    ※ 独国ではBD=blutdruckとも表記される
  • HR=heart rate:心拍数
  • SpO2=percutaneous oxygen saturation:動脈血酸素飽和度

身体・機能

  • BW=body weight、Wt=weight:体重
  • Ht=height:身長
  • MMT=manual muscle test:徒手筋力テスト
  • ROM=range of motion:関節可動域
  • Hr=Harn:尿量
  • ADL=activities of daily living:日常生活動作
  • IADL=insrtrumental activities of daily living:手段的日常生活動作
  • PS=performance status:全身症状の医学的指標
  • DNAR=do not attempt resusciation:蘇生を試みない

治療・疾患関連

  • DM:糖尿病
  • HT:高血圧症
  • COPD:慢性閉塞性呼吸器疾患
  • HOT:在宅酸素療法
  • アナムネ:病歴

注意したい同音異義語

  • TBI
    teeth bulshing instruction→ブラッシング指導
    total body irradiation→全身照射
  • PTC
    professional tooth cleaning→専門家による歯のクリーニング
    Percutaneous Transhepatic Cholangiography→経皮経肝胆道造影

連携に必要な共通言語を増やそう!

  • 病院でのカルテで
  • 介護施設で
  • 訪問の現場で

他の職種が使用している言語を知り、その働きや成果を認識することで、歯科衛生士は患者さんのもつ機能を口腔に関する面からサポートすることができます。

協働のために、他の職種を知り、お互いを尊重することが、共通言語を理解する近道です。

その上で、口腔内のことや口腔ケアのメリットをわかりやすく伝えられるようになりましょう!

施設にて、看護師の口腔ケアリーダーと歯科衛生士が協業する様子
施設にて、看護師の口腔ケアリーダーと歯科衛生士が協業する様子

学会レポート

姉妹サイトWHITE CROSSでは、今回の学会のレポートを公開しています。

医師や看護師の訪問医療と、歯科衛生士会の動向も紹介しているので、あわせてチェックしてみてください!

取材レポート「今だ!!夢ある医科・歯科・介護連携!」へ
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