天野先生 × 西田先生ジョイントセミナー「これからの歯周病患者の治療と管理」が開催!

8月4日、東京都のソラシティカンファレンスセンターにて、天野敦雄先生西田亙先生のジョイントセミナー「歯周病の新分類を臨床にどう活かす?チームで知りたい!これからの歯周病患者の治療と管理」が開催されました。

こちらは歯科医療領域の専門出版社 インターアクション株式会社が主催する歯科医師と歯科衛生士向けのセミナー。

予防歯科や歯周病の研究に長年取り組まれている天野先生と、糖尿病内科の医師である西田先生の豪華な共演により、会場には約200名が集まりました。

非常に熱気があふれた、当日の会場の様子をお伝えします!

天野先生が歯周炎の新分類について解説!

まずは、大阪大学大学院歯学研究科予防歯科学教室教授の天野敦雄先生の講演からスタート。

天野先生は、はじめに、AAP(アメリカ歯周病学会)の歯周炎の新分類について説明。

これからは4つの「ステージ(進行具合)」と3つの「グレード(進行速度)」、炎症をもつ歯周ポケットの表面積を合計した「PISA(Periodontal Inflamed Surface Area)」といった指標が、今後日本でも新しい分類として導入されるのではと解説しました。

新しい分類になると、医科に対して歯周炎の状態が伝わりやすくなり、医科歯科連携がよりスムーズになるとのこと。

今後の動きについて、ますます注目が集まるトピックです。

PISAについて解説する天野先生
PISAについて解説する天野先生

バイオフィルムの病原性が高まるマイクロバイアルシフトって?

次に、天野先生は、バイオフィルムの病原性が高まる現象である「マイクロバイアルシフト(Microbial shift)」を防ぐ重要性について解説しました。

糖質は、酸産生を行うミュータンス菌などの栄養となり、その結果バイオフィルムは酸性にかたむきます。それに加えて、アルカリを産生する細菌が減少することにより、さらにバイオフィルムが酸性にかたむいていく状態を、う蝕のマイクロバイアルシフトといいます。

う蝕のマイクロバイアルシフトを防ぐには、脱灰因子を減らしていくことが大切であると天野先生。また、脱灰因子となる「糖質」は砂糖(ショ糖)だけでなく、ブドウ糖や果糖、調理デンプンなどにも含まれていると話しました。

さらに、酸を産生する細菌については、ミュータンス菌やラクトバチラスだけでなく、ビフィズス菌なども原因菌に含まれているとのこと。
(参照:ビフィズス菌のう蝕誘発機能を解明  東北大

「甘いものを食べたときだけ気をつける」という考えはもう古いということを、患者さんに伝えていかなければいけないと強調しました。

う蝕のマイクロバイアルシフト
う蝕のマイクロバイアルシフト

つづいて、歯周炎のマイクロバイアルシフトについても解説。

歯周病菌の最大の栄養源は血液に含まれる「ヘミン鉄」であるため、歯肉からの出血により、さらに歯周病菌が増殖するようです。そのため、歯肉の出血を止めることが重要であり、出血は歯周基本治療で必ず止まると力説しました。

その後は、ルートプレーニング時に気をつけるポイントについて、写真や動画を用いてくわしく解説。

  • キュレットは研磨して使用する
  • キュレットは刃先を使う
  • 手首を返すのでなく、キュレットをまっすぐに引き上げることを意識する
  • 両手ストロークを行う

最新の情報を知ることができるだけでなく、明日からの臨床に役立つ情報が盛りだくさんの内容でした。

キュレット操作について解説する様子
キュレット操作について解説する様子

患者さんの主治医は、患者さん自身なのです。私たち歯科医療従事者はそのサポートをしているにすぎないのです。

こう話す天野先生は、口腔が不健康である最大の問題は、口腔バリアの崩壊による全身への悪影響であるといい、「見えなかったものを、知識が見せてくれる」としめくくりました。

令和の歯科医療に必要となる医科的視点

午後からは、にしだわたる糖尿病内科院長の西田亙先生による講演です。

西田先生は冒頭に、歯科医療従事者が美しい知識と技術をもって医科の心を動かし、それによって医科が動くことで、歯科医療もどんどん変わっていくということを伝えました。

講演中の様子
講演中の様子

今年、日本糖尿病協会の最高賞である「アレテウス賞」を、大阪府歯科医師会会長の太田謙司先生が、歯科医師でははじめて受賞したことについて言及。

これは歯科にとって非常に名誉なことであり、歯科は糖尿病などの全身疾患に対して、より積極的に関与するべきと述べました。

その後、西田先生の患者さんや、西田先生自身の歯周治療についても解説。自身の歯周治療をきっかけに、口腔の健康が全身の健康につながっていることを実感したエピソードを紹介しました。

47歳のとき、高血圧や不整脈をもち、糖尿病予備軍であった西田先生は、歯周治療を受けるため歯科医院を受診したそうです。そこで歯科衛生士によるTBIを受け、夜ご飯の後にブラッシングをするようになってから、夜食を食べることが減り、それにともない体重も減少したとのこと。

その後も、全身疾患はどんどん改善され、歯周治療の重要性に気づくことができたようです。

軽快な口調で、ユーモアにあふれるお話の中でも、「患者さんを守れるのは歯科医療だ」「歯科医療は社会を守り、国民全体を救う」といった、歯科医療従事者へのエールが何度も送られました。

胎盤の細菌層は口腔と似ている?!

つづいて西田先生は、口腔子宮感染により出産直前に流産した症例について説明しました。

この症例では、羊水も悪臭、赤ちゃんも悪臭を放っていたとのこと。赤ちゃんの死因は肺炎。解剖の結果、羊水から多量の歯周病菌が検出されたそうです。

通常であれば、羊水には細菌が存在しないはずです。しかし、早産した方の約半数には、羊水に歯周病菌がみられるというデータがあります。このような現実を医科にも伝えていくことが、今後歯科の使命になっていく、と力説しました。

胎盤の細菌叢は、口腔ともっとも似ているという論文も出ており、「歯科医療は、これから生まれ来る命も救う」と西田先生はいいました。

胎盤の細菌層について解説する西田先生
胎盤の細菌層について解説する西田先生

既存の全身疾患だけでなく、未来の社会をになう命にも関わる歯科医療。

昭和や平成ではできなかった歯科医療ができるようになってくる。糖尿病やアルツハイマー病と歯周病との関係が認められてきた現在、歯科というのは本当に面白くなってきてるんです。

西田先生は、これだけ歯科医療が大切だからこそ、今までの歯科医療を見直し、新しい知識とより良い技術を身につけることが大切であると話しました。

また、患者さんにも医科に対しても、通り一辺倒の専門用語で「伝える」だけではなく、口腔の健康が全身疾患やフレイルと関係していることを、「伝わる」言葉で説明することが重要と説明しました。

西田先生が参加者に向けて直接質問する様子
西田先生が参加者に向けて直接質問する様子

まとめ

歯周病をテーマとした最新情報が盛りだくさんの内容であったものの、天野先生と西田先生の惹きつけられるようなトークのせいか、あっという間に講演時間が過ぎていきました。会場は終始笑顔が絶えず、大きな盛り上がりをみせていました。

令和になり、食べることと生きることがつながっているということが、ますます認知されてきていると感じます。

天野先生と西田先生は、医科歯科連携はより強固なものになっていくと話す一方で、たくさんの情報があふれているために、いちばん大切な目の前の患者さんがおざなりになっていないかと、問いかけました。

もちろん、論文をはじめとした幅広い知識は重要です。

しかし、それ以上に「目の前の患者さん一人ひとりに真摯に向き合って治療する」という基本の姿勢が、私たち歯科医療従事者にとってもっとも大切なことではないでしょうか。

患者さんに対してできることや取り組むべきことは、まだまだたくさんあるということを実感させられる、充実した内容のセミナーでした。

天野敦雄先生と西田亙先生
天野敦雄先生と西田亙先生