はじめまして、竹内里奈です。
この連載では、糖尿病またはその予備軍の患者さんに対して、実際の歯科診療における管理と考え方を、糖尿病予防指導認定歯科衛生士・糖尿病療養指導士の観点からお話しさせていただきます。
今回は、血糖値の診断基準と糖尿病の分類、1型糖尿病の診断と分類についてご説明しようと思います。
前回はこちら
2.血糖値の診断基準
3.糖尿病の分類
4.1型糖尿病の診断と分類
1.まず、糖尿病とはどんな病気か?
一言でいえば、慢性の高血糖を呈する状態です。
健康な人では血糖値が上昇すると、すい臓から適切な時間に適切な量のインスリンが分泌され、その働きによって血糖値は低下し、食後約2時間後には空腹時の値に戻ります。
一方、糖尿病の人では、インスリンの分泌量が少なかったり、分泌する速度が遅かったりといった理由で血糖値を下げる働きが十分でないため、食後2時間たっても健康な人と同じように血糖値は低下せず、高血糖の状態が続いてしまうのです。
(参照:高血糖とは 食後高血糖~血糖値パターン~-日本イーライリリー株式会社)
2.血糖値の診断基準
糖尿病は、血糖値やHbA1cなど、さまざまな検査によって総合的に判断されています。
さらに、空腹時血糖値、75gOGTT2時間値の2つの指標から、「糖尿病型」と「正常型」、その中間である「境界型」に分類されます。
空腹時血糖値
食事前、血糖値がもっとも低くなっている状態の値を判定するため、10時間以上絶食した状態で計測します。
110mg/dL未満であれば「正常型」、126mg/dL以上であれば「糖尿病型」です。
随時血糖値
食事と採血時間との時間関係を問わないで測定した血糖値。200mg/dL以上の場合、「糖尿病型」に分類されます。
75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間値
食後のインスリンの効き方を判定するための指標です。ブドウ糖75gを水に溶かしたものを飲み、30分後、1時間後、2時間後の血糖値を計測します。
75gOGTT2時間値が140mg/dL以内であれば「正常型」、75gOGTT2時間値が200mg/dLかつ空腹時血糖値が126mg/dL以上の場合、「糖尿病型」に分類されます。
*1 IFGは空腹時血糖値100〜125mg/dLで、2時間値を測定した場合には140ml/dL未満の群を示す(WHO)。ただしADAでは空腹時血糖値が100〜125mg/dLの時点でIFGとして判定している
*2 空腹時血糖値が100〜109mg/dLは正常域ではあるが、「正常高値」とする。この集団は糖尿病への移行やOGTT時の耐糖機能障害の程度からみて多様な集団であるため、OGTTを行うことがすすめられる
*3 IGTはWHOの糖尿病診断基準に取り入れられた分類で、空腹時血糖値126mg/dL未満、75gOGTT2時間値40〜199mg/dLの群を示す
HbA1c
赤血球中のヘモグロビンに血液中のブドウ糖が結合したもの。
この値は、赤血球の寿命(約4ヵ月)から過去1~2ヶ月の血糖コントロール状態を示していると考えられており、血糖値が高いほどHbA1cも大きくなります。
HbA1cは合併症の進行と深く関係しており、7.0%未満がコントロールの目安となります。
低血糖のリスクがない場合は、できるだけ6.0%に近いコントロールを目指します。
(参照:糖尿病の検査~血糖コントロール目標~-日本イーライリリー株式会社)
グリコアルブミン
血液中のタンパク質「アルブミン」が、血糖と結合することで「グリコアルブミン(GA)」になります。GAの準準値は11〜16%とされています。
グリコアルブミンには、2〜4週間前から採血時までの血糖値が反映されているため、血糖レベルの平均を把握することができます。
血糖値は、インスリン分泌と運動量、インスリン抵抗性と食事量の4つの要素とバランスで保たれています。
このバランスが崩れると、糖尿病になってしまいます。
糖尿病になると、体内のインスリンの作り方や使い方に問題が起き、摂取した食物エネルギーを正常に代謝できなくなります。
インスリンは、すい臓で作りだされて血糖を正常範囲に保つ役割をしますが、インスリンの作用不足により、血糖値が高くなってしまうのです。
3.糖尿病の分類
糖尿病は、その要因によって次のように分類されます。
- 1型糖尿病:膵β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏にいたる
A. 自己免疫性
B. 特発性 - 2型糖尿病:インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体とするもの、インスリンの相対的不足を伴うものなどがある
- その他の特定の機序、疾患によるもの
A. 遺伝子として遺伝子異常が同定されたもの- 膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常
- インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
B. 他の疾患、条件に伴うもの
- 膵外分泌疾患
- 内分泌疾患
- 肝疾患
- 薬剤や化学物質によるもの
- 感染症
- 免疫機序によるまれな病態
- その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの
- 妊娠糖尿病
4.1型糖尿病の診断と分類
1型糖尿病とは、インスリン欠乏による糖尿病。糖尿病の患者さんのうち、1型糖尿病は10人に1人もおらず、世界的には糖尿病全体の約5%ほどといわれています。
1型糖尿病は、すい臓中のインスリンを出す細胞(β細胞)が、壊されてしまう病気です。
すい臓がインスリンをほとんど、またはまったく作らないため、定期的にインスリンを注射しなければなりません。このため、以前は「インスリン依存型糖尿病」とも呼ばれていました。
β細胞からインスリンがほとんど出なくなることが多く、1型糖尿病と診断されたら、治療にインスリン製剤を使います。
若い方を中心に幅広い年齢で発症し、加齢や遺伝、生活習慣が関わる2型糖尿病とは、原因、治療が大きく異なります。
若い方の糖尿病では1型糖尿病の割合が多いとはいえ、年齢に関係なく発症が見られます。1型糖尿病でβ細胞が壊される原因は、よくわかっていません。
原因のひとつとして、免疫反応が正しく働かないことで、自分の細胞を攻撃してしまうこと、つまり「自己免疫」が関わっていると考えられています。
自己免疫が起きている証拠のひとつである自己抗体(抗GAD抗体・IA-2抗体など)を血液検査で認めた場合、1型糖尿病と診断する有力な根拠となります。
一般的に、1型糖尿病では、β細胞の破壊は進行性です。そのため、病気が進んでいくと、インスリンがほとんど出せない状態となります。
生きていくために注射でインスリンを補う治療が必須となり、このような状態を「インスリン依存状態」といいます。
さらに、1型糖尿病はその進行の速度によって、「劇症」「急性発症」「緩徐進行(かんじょしんこう)」に分類されます。
また、合併症でさまざまな自己免疫性疾患を併発することがあります。中でもバセドウ病や橋本病などの、自己免疫性甲状腺疾患の合併頻度が高いとされています。
劇症1型糖尿病
もっとも急激に発症し、1週間前後でインスリン依存状態にいたるタイプです。
すぐにインスリンを補充する治療がなされなければ「糖尿病ケトアシドーシス(糖尿病の急性合併症)」となり重い状態になることもあるため、早い段階での診断が重要です。
自己抗体は、血液検査で認めないことが多いです。発見される時点での血糖値は高いですが、発症が急激であるので、月単位で徐々に上昇する血糖の指標であるHbA1cは低めであることも特徴のひとつです。
急性発症1型糖尿病
1型糖尿病でもっとも頻度の高い典型的なタイプで、糖尿病の症状が出はじめてから数ヶ月でインスリン依存状態になります。
発症した後に、一時的に残っている自分のインスリンの効果が改善する時期(ハネムーン期)がある患者さんもいますが、その後は再びインスリン治療が必要となります。
血液検査で自己抗体を認めることが多いです。
緩徐進行1型糖尿病
半年~数年かけて、ゆっくりとインスリン分泌が低下していくタイプです。
はじめは2型糖尿病のようにインスリン注射を使わなくても血糖値を抑えることが可能ですが、経過中の血液検査で自己抗体が検出され、実は緩徐進行1型糖尿病だったと分かることもあります。
検査でこのタイプの可能性がある場合には、すい臓に負担をかけるような内服薬は推奨されず、インスリン治療などですい臓を保護する治療を開始することが望ましいといわれています。
参考文献:日本糖尿病学会(2019)『糖尿病診断ガイドライン2019』南江堂.
日本糖尿病学会(2013)『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 2013』南江堂.
日本糖尿病学会(2018)『糖尿病治療ガイド2018-2019』文光堂.
日本内分泌学会(2018)『内分泌代謝科専門医研修ガイドブック』診断と治療社.
「糖尿病の成因を「見える化」する 1型糖尿病」,『糖尿病診療マスター』2010年1月号, p.20-23, 医学書院.
糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版).糖尿病55:491, 2012
『糖尿病ケア 春季増刊』2016年2月28日号, メディカ出版.
次回は、2型糖尿病の分類についてお伝えいたします。
覚えておきたい!歯科にまつわる糖尿病の知識
第1回 糖尿病とは?
第2回 なぜ高血糖が良くないのか
第3回 1型糖尿病の診断と分類