歯科医院の“歯周基本治療力”をアップしよう! 第2回 「歯石除去」編

歯周外科にてフラップを開いたときや抜去歯を見たとき、「こんなところに歯石が残っている」と驚かれることが多々あると思います。

「ここの歯石除去は無理だよなぁ」と感じることもあれば、「歯周基本治療の段階で適切な歯肉縁下歯石除去が行えていれば、回避できたかも…」と感じることもあるでしょう。

筆者は、歯科医院での臨床や、日本ヘルスケア歯科学会での若手歯科衛生士の指導を通じて、「歯周基本治療力の向上には歯科医師(院長)と歯科衛生士の二人三脚が欠かせない」と日々感じています。

そこで本稿では、歯科医院の歯周基本治療力を向上するためにぜひとも院長先生にと一緒にご確認いただきたい項目を、2回にわたって解説したいと思います。

前回の「歯石根面」に続いて、今回は「歯石除去」をテーマに解説します。

前回はこちら

歯科医院の“歯周基本治療力”をアップしよう! 第1回 「根面探知」編

歯石除去力アップの秘訣
その1.インスツルメントを知る

筆者は学会活動などの関係から、多くの若手歯科衛生士を指導する機会があるのですが、かならず最初は「どんなスケーラーを使っていますか?」という質問からはじめています。

実はこの質問に答えられない方がたくさんいます。歯科衛生士の多くは、勤務している歯科医院にどんなインスツルメントが備えてあるのか、知らないのです。

歯科医師の先生は、歯冠形成時や歯周外科時など、目的に応じて使用するインスツルメントを選択していることと思います。

これは歯石除去においても同様なはずなのですが、残念ながら「ハンドスケーラー」「超音波スケーラー」と大味な分類でしか認識されていない現状があります。

歯科医院として歯石除去力アップを目指すのであれば、「歯科医院にあるインスツルメントを理解する」ことが最初の一歩です。

1)ハンドスケーラーの違いを理解する

ハンドスケーラーというと、シックルスケーラー・ユニバーサルキュレット・グレーシーキュレットの3種類が思い浮かぶと思います。

「シックルは歯肉縁上で使用して、ユニバーサルとグレーシーは歯肉縁下で使用する」という違いは知っていても、それぞれの操作上の違いや注意点を理解していないと、「歯肉を傷つけて術後に歯肉が下がった」など、トラブルを招きかねません。

表1に、3種の特徴をまとめてみました。

種類 シックル ユニバーサル グレーシー
断面形状 シックルスケーラー ユニバーサルキュレット グレーシーキュレット
適応部位 歯肉縁上 歯肉縁上縁下 歯肉縁上縁下
刃の形状 ・両刃
・先端が尖っている
・両刃
・先端丸い
片刃
シャンク 太く硬い 太く硬い ・太く硬い
・細くしなる
種類 彎曲と直の2種類 第2シャンクの屈曲がさまざま 0〜18番(10種類)
操作時の第1シャンク角度 歯面根面に対して10〜20度傾ける 歯面根面に対して10〜20度傾ける 歯面根面と平行

表1 各ハンドスケーラーの特徴と使用上の注意点

シックルスケーラーは、先端が尖っているので、歯肉縁上のスケーリングに適しています。歯肉を傷つけないように、慎重に操作するようにしましょう。

また、ユニバーサルスケーラーはシャンクが硬いので、強い側方圧で根面を必要以上に削ってしまう可能性があります。歯肉縁下で操作する際は、根面へ適切な角度を維持したままストロークしましょう。

特に歯石除去の経験が浅く、直感的に器具の違いがわからないうちは、そのつど確認する習慣を持つといいと思います。

2)超音波スケーラーの違いを理解する

超音波スケーラーは、機種によって歯石へのチップの当て方が異なる場合があります。

【マグネット式】
チップの全周が使用できる=どの面を当てても効果あり
例:キャビトロン(デンツプライシロナ)    

【ピエゾ式】
チップの側面のみ使用できる→当てる面を間違えると効果なし
例:スプラソンP-MAX(白水貿易)、バリオス(ナカニシ)など

一般的に、超音波スケーラーは、セメント質削除量が少ないといわれていること、経験の浅い術者でもチップが当たれば除去できることから多用されています。

しかし、そもそも上記の違いを理解していなければ、期待する効果は得られません。

患者さんによっては超音波スケーラーの注水や振動に苦痛を感じる方もいるだけに、適切な使用が求められます。

図2は、使用している超音波スケーラーの特性を体験するために、筆者がよく紹介している練習法のひとつ「うずらチャレンジ」です。

図2 ゆでたうずらの卵表面にある黒い模様を超音波スケーラーで除去してみる
図2 うずらチャレンジ

ゆでたうずらの卵表面にある黒い模様を超音波スケーラーで除去してみると、同じチップでも、殻に当てる角度や側方圧を変えるとまったく異なる手指感覚が得られます。

どのチップが早く除去できる?殻を傷つけずに黒い模様を除去できるパワーやストロークは?背面や内面を当てたときの音や感触は?などなど、うずらの卵で超音波スケーラーの特色を体感できます。

機種による違いを体験したり、チップの違いを体験したりと、視覚的にその効果がわかるので、ぜひ一度挑戦してみてはいかがでしょうか。

秘訣その2.状況に応じて「使い分ける」

薄い歯肉でタイトなポケットの歯石除去は怖い−−そんな声を耳にすることがあります。

たしかに、厚い歯肉の患者さんやポケットが幅広い患者であれば、「基本に忠実に」ポケット内にハンドスケーラーのブレード全体を挿入し、根の彎曲に合わせて連続したストロークができることが多いです。

一方、薄い歯肉でポケットがタイトな患者さんであれば、歯肉辺縁をブレード中央部で傷つけてしまうおそれがあります。

しかし、そのリスクをおそれていては、歯石除去力は向上しません。

筆者は、そんなシチュエーションに対し、適切なシャープニングによりブレードが細くなったスケーラーを使用しています。

新品 2/3程度 1/3程度
新品のブレード 2/3程度のブレード 1/3程度のブレード
・歯肉
→厚くて硬い   

・ポケット
→幅広くゆるい

・縁下歯石
→多量沈着

・側方圧
→強め

・歯肉
薄くて柔らかい

・ポケット
狭くタイト

・縁下歯石
→薄く沈着   

・側方圧
→弱め

また、図3・4のように、挿入角度を変えて斜めや水平ストロークにするなど、歯肉の状況に応じてハンドスケーラーを「使い分ける」ことを推奨しています。

水平ストロークの例

図3 最後臼歯遠心隅角部を#11のグレーシーキュレットで操作している

垂直ストロークの例

図4 ポケット内で連続してストロークしている

たとえばグレーシーキュレットでは、部位別に使用する番号が指定されていたりと、ある程度の基準があります。

しかし、患者の歯肉や歯列の状態により、理想どおりには進まないことも多々あります。

そんなときは、遠心面に近心用のキュレットを使用しても問題ありませんし、水平でも斜めでもどんなストロークを選択しても大丈夫です。

たとえば、#35 舌側近心のスケーリングでは、12時からのアプローチが基本ですが、歯列の状態によっては姿勢が乱れがち。そんなときは、9時の位置からであれば、無理なくアプローチすることができます。

図5 ポジショニングも状況によって使い分けてよい
図5 ポジショニングも状況によって使い分けてよい

基本や基準に忠実なあまり無理な姿勢で臨むのであれば、状況に応じて柔軟に「使い分ける」発想で取り組むといいでしょう。

ただし、生体に傷をつけないことが大前提です。

秘訣その3.かならず再評価をする

歯石が除去できたか否かは、施術中に除去された歯石を視認したり根面の感触によって確認しますが、歯石除去の結果や治癒に向かっているかどうかは、再評価の結果を見て判断します。

取り残しなく除去できたと思っても、出血やポケットが改善しないこともあります。

改善しないポケットに対して考察し、次なる手を検討・実践することは、かならず歯科衛生士の成長につながるので、ぜひ再評価の時間を確保していただければと思います。

つぎの例は、歯石除去後も出血やポケットが改善しないときに想定したいことの一例です。

【歯肉辺縁から出血する場合】
→セルフケア不足で辺縁の炎症が残っている    

【ポケット内部から出血する場合】
→残石、破折の可能性、根分岐部病変の有無、解剖学的形態
→まだ内縁上皮が治癒していない(再評価のタイミングが早い)

適切に歯石除去できたとしても、内縁上皮内の炎症性細胞浸潤部が健康に戻るまでは、プロービング時に出血すると考えられます。

そのため、BOP=歯石残存と考えて繰り返しルートプレーニングを行うと、再び内縁上皮を損傷して出血させてしまう可能性があるため、再評価するタイミングも大切です。

また、その時の状況をドキュメント化して、たとえば院内勉強会で発表し共有するなどすると、担当歯科衛生士個人の成長だけでなく、文字どおり「歯科医院全体の歯周基本治療力向上」につながるでしょう。

秘訣その4.インスツルメントを「個人管理」にする

「個人管理」と聞くと、“え、私が買うの?”と思われる方がいますが、それは誤解です。

「個人管理」とは“このハンドスケーラーは、○○さん専用”のようにインスツルメントごとに使用者を限定することで、治療時はもとより、消毒・滅菌からシャープニングにいたるまで、すべてその使用者が責任を持って行います。

実はこの個人管理は、歯科医院の歯周基本治療力アップに欠かせない、地味ながら最重要項目なのです。

個人管理を推奨する理由① インスツルメントを「育てる」ことで歯科衛生士も成長する

たとえばハンドスケーラーのブレード(刃部)は、使用するたびにシャープニングする必要があります。

正しいシャープニングを繰り返すことでブレードは細くなっていきますが、それらは新品のブレードでは入らないタイトな歯肉にも挿入することができるようになります。

適切なシャープニングによりブレードが細くなったスケーラー
適切なシャープニングによりブレードが細くなったスケーラー

これは、“このインスツルメントはこんな患者に使用しよう”という「使い分け」ができることに繋がり、上記「秘訣その2」を実践する上での武器になります。

開封時からシャープニングを通じてインスツルメントを育てていくことは、結果として歯科衛生士の成長につながるのです。

個人管理を推奨する理由② 歯科衛生士が主体的に行動するようになる

医院での保有本数や使用頻度にもよりますが、共有管理をしていると「滅菌中で使いたいときに使えない」という場面に遭遇することがあります。

これではタイミングによっては、治療のパフォーマンスに差が出てしまいます。

しかし、インスツルメントを個人管理にすることでアポイントの状況に応じて消毒・滅菌することが可能になり、個々の患者に応じた治療ができるようになります。

言いかえると、「足りない」という場面が生じたら、それはその歯科衛生士の管理が甘いといえます。

インスツルメントを個人管理することの背景には、実は歯科衛生士一人ひとりに責任感を持ってもらうことがあります。

個人管理にすることで、アポイントの状況を理解する、1日のタイムマネジメントを考えるなど、より多くのことを意識する必要性が生じるので、より主体的に行動できるようになるでしょう。

おわりに

自らの技術に自信をもっている歯科衛生士はほとんどいないのではないのでしょうか。

歯科衛生士を続ける限り、自己研鑽に終わりはありません。

この方法で合っているのかな?取れているのかな?治るのかな?と、漠然とした不安から、常に苦手意識を持っている方が多いのではないかと思います。

深いポケットへのアクセスは盲目下で難しいものですが、難しい。できない。と感じる原因は主に以下の3つに整理されます。

  1. 歯石かどうか分からない
  2. 歯石と判断できるが、器具を到達させられない
  3. 器具は到達させられるが、除去できているか分からない(滑沢な根面にならない)

しかし、たった2回の連載だけでしたが、この3つへの解決策が見えてきたのではないでしょうか。

  1. 歯石かどうか分からない
    →歯石探知力向上でクリア!(第1回参照)
  2. 歯石と判断できるが、器具を到達させられない
    →秘訣その1、3参照でクリア!
  3. 器具は到達させられるが、除去できているか分からない(滑沢な根面にならない)
    →歯石探知力向上でクリア!(第1回参照)

歯石探知や歯石除去は、この2回の連載だけでマスターできるほど簡単なものではありません。

しかし、歯科医院全体で悩みや問題を共有し、取り組んでいけば、かならずや歯科医院全体の歯周基本治療力は向上するはずです。

この連載が皆さんの参考になれば幸いです。

歯科医院の“歯周基本治療力”をアップしよう!

第1回 「根面探知」編
第2回 「歯石除去」編